有罪が確定した裁判をやり直す再審制度について、法務省が2025年春にも見直しの検討を始める方針を固めたことがわかった。この動きの裏にあるのは、袴田巖さんの“やり直し裁判”での無罪判決だ。

58年ぶりに勝ち取った真の自由

事件現場(1966年)
事件現場(1966年)
この記事の画像(10枚)

1966年6月、当時の清水市で一家4人が殺害された強盗殺人放火事件。

その犯人とされ、一度は死刑が確定した袴田巖さんのやり直しの裁判で、静岡地裁の國井恒志 裁判長は9月26日、捜査機関による証拠の捏造を認めた上で無罪判決を言い渡した。

袴田巖さんの姉・ひで子さんは判決を受け「本当に長い裁判でありがとうございました。無罪を勝ち取りました」と感謝の言葉に続けて、「裁判長の『主文 被告人は無罪』というのが神々しく聞こえましたの。それを聞いて感激するやらうれしいやらで涙が止まらなかった」と万感の表情を見せた。

3日後、多く支援者に万雷の拍手で迎えられた袴田巖さん。

「待ちきれない言葉でした。無罪勝利が完全に実りました。ついに完全に全部勝ったということで今日はめでたく皆さんの前に出てきた。ありがとうございました」と自らの言葉で謝意を口にした。

10月8日には検察が控訴の断念を発表。

これにより袴田さんの無罪が確定し、逮捕から実に58年ぶりに真の自由を手にした。

県警と地検のトップが謝罪

袴田さんと姉・ひで子さんに謝罪する津田 県警本部長
袴田さんと姉・ひで子さんに謝罪する津田 県警本部長

これを受け、10月21日には静岡県警の津田隆好 本部長が「袴田巖さん、ひで子さんにおかれましては逮捕から無罪確定までの58年間の長きにわたり言葉では言い尽くせないほどのご心労・ご負担をおかけし申し訳ありませんでした」と2人に直接謝罪。

これに対し、「58年も前の出来事なので私たちはもう運命だと思っています。巖も私もそう思っていて今さら警察に苦情を言うつもりはありません。今日はわざわざ来てくださりありがとうございました」と返したのは姉のひで子さんだ。

また、11月27日には静岡地検のトップである山田英夫 検事正も「この事件の犯人が袴田さんであるということを申し上げるつもりはありませんし、犯人視することもないということも直接お伝えしたいと思います。改めまして、大変申し訳ございませんでした」と2人に頭を下げた。

再審法を見直すきっかけに

一方、袴田さんの冤罪事件をめぐって問われているのが裁判のやり直し、いわゆる再審の在り方だ。

都内で開かれた再審法改正イベントに出席したひで子さんは「47年間、巖が拘置所の中で頑張った。その頑張りを再審法に、ぜひ皆さんの力で改正なり訂正なりして欲しいと思う」と話した。

再審法改正に向け、日本弁護士連合会などが特に問題視しているのが証拠開示に関する規定だ。

証拠リスト開示義務の違い
証拠リスト開示義務の違い

通常の裁判員裁判では審理を迅速に進めるため、検察側に自分たちの持っている証拠リストを弁護人に示すことが義務付けられている一方、再審についてはこうした開示義務がない。

日本弁護士連合会・鴨志田祐美 弁護士は「捜査機関が集めた証拠の中に再審を求める人の無実を示す証拠が隠されている可能性があるのに『それを出せ』というルールがない。そのためとても時間がかかってしまっている」と憤る。

こうした中、2024年3月には超党派の国会議員による再審法改正議連が発足した。

元議員も法改正の必要性説く

元衆議院議員・塩谷立 氏
元衆議院議員・塩谷立 氏

この議連に現職中、名を連ねると共に袴田さんの救援を後押しする議連で長年、会長を務めたのが元衆議院議員の塩谷立 氏だ。

塩谷氏は「今まで全く手をつけないで昔の法律のままで来たこと自体が問題だった。これをしっかり見直していくことが必要」として、速やかにしっかりと対応ができるような制度作りを求めている。

その上で「裁判の問題は難しい点もあるが、十分に議論しつつ今までのように時間をかけてやっていくのではなく、もっとスピーディーにやる。制度的にも証拠の開示もどんどんやっていかないと時間がかかる。人の生命にも関わることで改善すべき点は多々あると思う」と結んだ。

国会議事堂
国会議事堂

袴田さんの無罪が確定した2024年10月には、38年前に福井県福井市で女子中学生が殺害された事件をめぐり前川彰司さんの再審開始が決まるなど、いま確実に風向きは変わりつつあり、こうした流れを受け法務省は再審制度について見直しの検討を始める方針を固めた。

再審法改正の議論がどのような方向に進むのか注目される。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
テレビ静岡

静岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。