ウィーン条約に基づく外交特権で、外交官ナンバー車が国内で放置違反金を踏み倒している問題で、ロシアの件数が過去最悪を更新し、全体の63%に上ったことが分かった。
今回、過去6年の全リストを初公開するとともに、振り返って「ニッポン」は海外でどう振る舞っているのか、探ってみる。
ロシアが“全体の63%”過去最悪を更新
情報公開請求で警察庁から入手したリストによると、外交官車が日本国内で放置違反金を踏み倒した数(支払いを無視し5年の時効を迎えた数)は、ロシアのワースト1位が続いているが、2023年度は、2418件と過去6年で最悪となった。
全体に占める割合も、前年度から4ポイント増え63%と最悪だった。

一方、踏み倒しをした国は、ブラジルやリビアなどが初めて「0件」となり、9減って73カ国と最少になった。
2番目に多い中国は、減少傾向で221件だった。
なぜロシアは圧倒的に多いのか。
外務省は2023年、国会で「ロシア大使館は駐車違反をなくすことを努力すると言っているが、放置違反金の支払いはできないという立場をとっている」と説明している。

確かに、ロシアの駐車違反件数自体は各国と同じく、一連の報道を受け大幅に減少しているが、「踏み倒し」は相変わらずだ。
ウクライナへの侵攻から3年が近づくなか、『国際社会の目なんか気にしない』、そんなロシアの姿勢が浮き彫りとなったかたちだ。
過去6年の“全ワースト”初公開
ワーストランキングを見ると、圧倒的1位がロシア、2位が中国で、上位には「旧ソ連諸国」や「中東」の国が多くランクインしている特徴があることが分かる。

世界の“リーダー”を自認するG7(主要7カ国)では、上位に比べれば、件数は少ないとはいえ、ドイツとフランスが目立った。

アメリカは、国内最大級の大使館を持つことを考慮すれば、14~8件は少ない印象だ。

イタリアは、ややルーズなイメージがあるかもしれないが、圧倒的に少ない7~1件であった。
イギリスは過去6年全て「0件」で、まさに“紳士の国”だった。
集団行動の国民性
このワーストランキングは、国民性と関係はあるのだろうか。
集団行動にまつわる、こんなジョークがある。
〈ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。
船長は乗客たちに、速やかに船から脱出して海に飛び込むように、指示しなければならなかった。
船長は、それぞれの外国人乗客にこう言った。
アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」
イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」
ドイツ人には「飛び込むのがこの船の規則となっています」
イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」
フランス人には「飛び込まないでください」
日本人には「みんな飛び込んでますよ」
早坂隆『世界の日本人ジョーク集』中公新書ラクレより〉

これに当てはめれば、イギリスには「踏み倒さないあなたは紳士です」と言えるし、アメリカには「踏み倒しが少ないあなたは英雄です」と声を掛けられそうだ。
そして、日本には「みんな踏み倒していませんよ」と言うのが有効なのかもしれない。
日本は“紳士の国”か
では実際に、その日本の外交官は、海外でどう振る舞っているのだろうか。
それが分かるデータがあった。
国連本部があるアメリカ・ニューヨークでのこと。
米コロンビア大学のレイモンド・フィスマン氏とカリフォルニア大学バークレー校のエドワード・ミゲル氏は、国連本部で働く各国の外交官1人当たりの駐車違反金踏み倒しのデータ(2005年11月までの8年間)を分析した[*]。

この間のワーストランキングで、日本は対象の149カ国のうち143位と最下位に近かったのだ。
「全く」か「ほとんど」踏み倒していないのは、イギリスのほか、北欧の国、そしてカナダなどで、そこに日本も含まれていた。外交官の人数が30人以上の大きな国では、「イギリス」と「日本」のみであった。
ワースト10は、クウェート、エジプト、チャド、スーダン、ブルガリア、モザンビーク、アルバニア、アンゴラ、セネガル、パキスタンだった。
日本の周辺国では、中国は67位、韓国は122位だった。
「国の腐敗度が高いほど踏み倒す傾向」
このワーストランキングは何を表しているのだろうか。
「外交官の所属する国の腐敗度が高いほど、駐車違反金を踏み倒す傾向にある」というのだ。

この研究者は、このランキングを「汚職指数」と相関するグラフに落とし込んだ。
すると汚職度が低い国の外交官は、きちんと違反金を支払っていた一方で、汚職度が高い国の外交官は踏み倒していた。その傾向がはっきりと表れたのだ。
日本はロシアに「なめられている」?
ただ、不思議に思えたのは、日本国内で圧倒的なワースト1位のロシアが、米ニューヨークでは111位とワースト上位ではなかったことだ。
一方、半世紀以上前ではあるが、このようなデータもある。
米・TIME誌(1964年4月3日号)によると、1963年、各国の外交官が米ワシントンで交通違反切符の交付を受けたのは1万1000件に上り、最多はソ連(ロシアの前身)で、1件も支払われていなかった。

このように、ロシア(ソ連)が、かつて日本だけでなく米国でも「ワースト」だったものの、近年、米国では、さほど踏み倒していない理由は分かっていない。
しかし、米ソ冷戦を経て、“敵対国”アメリカに対して「弱み」を作らないよう、日本とは異なる対応を取っているのかもしれない。
だとすると、日本はロシアに「なめられている」ということになる。

踏み倒しリストについて、私は、各国の「法律を守る意識の差」を表していると考えている。
確かに”最強の特権”である外交特権は、ウィーン条約に定められたものである。しかし「悪用」は許容されるものではないはずだ。
取材・報道による「国名の開示」を続けることが、抑止につながると期待している。
(執筆:フジテレビ社会部 知野雄介)
[*]参考文献 Corruption, Norms, and Legal Enforcement: Evidence from Diplomatic Parking Tickets Raymond Fisman and Edward Miguel Journal of Political Economy , Vol. 115, No. 6 (December 2007), pp. 1020-1048