2024年に入り14件発生した熊本市電のトラブル(12月16日時点)。なぜこれほどまでに急増したのだろうか。どうしたら防げるのか、交通局の立て直しのため着任した、安全管理部門のトップに密着した。
突出して多い熊本市電の運行トラブル
熊本市交通局の島田裕士安全統括管理者は、相次ぐ市電のトラブルを受け、安全管理部門のトップとして11月に着任したばかりだ。

着任してからも、2件のトラブルが発生した。島田安全統括管理者は「交通局としてあってはならないことが多すぎる。私も含めて気合を入れないと、どうしても防げないし、一人一人の気持ちが集まらないと、どうにもならないと思う」と話した。

熊本市電のトラブルが相次いだ2024年、TKUの情報カメラも信号を無視して進行する市電を捉えた。

14件のトラブル(12月16日時点)のうち7月には『重大事故』に当たる脱線。1月、2月、9月には重大事故につながる恐れのある『重大インシデント』が発生している。

この10年間の重大事故、重大インシデント、インシデント件数の推移を見ると、多い年でも2件だったのに対し、2024年は突出して多いことが分かる。

5月には外部の有識者による検証委員会が発足。9月には九州運輸局から改善指示を受けた。
経営改善のための運転士の非正規職員化
なぜ、このような事態となってしまったのか。

熊本市の大西市長は11月22日の市長会見で「これまでのツケが一気に回ってきた。例えば運転士の確保や教育。継続的に育てることを計画的にしていけば、こういうことにならなかった。体質的な問題があった。トップとして申し訳なく思う」と述べた。

熊本市交通局は悪化した経営を改善するため、2004年度以降、正規職員の運転士の採用を行わず、非正規職員として採用することで人件費の削減を行ってきた。2024年4月時点で、運転士78人のうち77人が非正規の会計年度任用職員だ。

効率化を優先したことにより運転士が不足。さらに正規職員の高齢化で技術や知識の継承に課題を残した。

インシデント検証委員会が行った交通局職員へのアンケートからは「少し風通しが悪いと感じる」や「人員が不足している。業務量に偏りがある」などと、職員の本音が見える。
立て直しに取り組む島田安全統括管理者
不安を抱える職員たちを前に交通局をどう立て直すのか。まずはこれまで営業所長が兼務していた『安全統括管理者』を、安全管理部門のトップとして専任で置くことにした。

抜擢されたのが、元市職員として交通局で18年の勤務歴があり、定年までの7年間は安全統括管理者を務めていた島田裕士さん。

トラブル増加の原因は何なのか。島田さんは運転士とのコミュニケーションの中で核心に迫ろうとしていた。

この日、島田安全統括管理者は「意味が分からないことは完全につぶしていってね。なんとなくじゃなくてね」と、免許を取得したばかりの運転士へ、研修で声をかけた。

運転士の片山博之さんは「鉄道が好きというのもあったが、『熊本を支えていけたら』と思って受験しました。命を預かる仕事なので、必死に勉強している」と話す。
『思い込み』や『慢心』が招く運行トラブル
島田安全統括管理者は運転士に事前に伝えず、熊本市電に乗り込むことも。安全への意識をチェックするためだ。

運行トラブルは、運転士が信号の故障と思い込み、赤信号で電車を進行させるなど、『思い込み』や『慢心』が招いたものが多いという。

島田安全統括管理者は「運転士はどんな考え方、見方をしているのか知りたい。危険なときは対峙して話すが、それ以外はできるだけ『こういう運転いいね』とか『しっかり見ているね』とか、そういったところを探すことを心がけている」と話した。

運転士歴2年半の小宮三佳さんは、運転中に「動きます。カーブで揺れます。ご注意ください」と乗客にアナウンスすると、乗っていた島田安全統括管理者は「いい運転、頑張ってね」と、降り際に声をかけた。

島田安全統括管理者は「今回のインシデントを探ると(これまで)安全だったから、自分なりに解釈を変えたというのもある。それは絶対だめなんです。本人が変わる気持ちがないと変わらないので、どう意識づけするか大事。そういう意味でも話すことですね」と、運転士の意識改革を訴える。

運転士の寺下雅美さんは「戻ってきていただいて、やりやすい」と話し、島田安全統括管理者は「自分たちを見つめ直す時期だと思うし、一つ一つを丁寧に、それをみんなと共有して広めて…」と要望すると、寺下運転士は「新人の気持ちで」と快く受け入れた。

島田安全統括管理者は「最後は人間。人が運転するものなので、いかに安全にというのは、その人の心を強くするのが大事と思う」と話す。
安全運行に向け運転士の処遇改善へ
安全運行のための環境づくりを進める交通局は、運転士の経済的不安の軽減にも取り組む方針だ。

『上下分離方式』の導入は1年ほど延期するものの、早ければ2025年4月には公社の正規職員と同じ給与水準に改善。現在より約96万円年収がアップすることになる。

運転士の経済的な不安の軽減や信頼関係の再構築を通して生まれ変わることができるのか。命を乗せる交通機関としての真価が問われている。

インシデント再発防止に向けた対策は年末から年明けにかけても続く。検証委員会からの最終報告書は、年内にまとめる予定で、2025年1月には交通局内に『仮称・安全対策チーム』が設置される予定だ。
(テレビ熊本)