部下の女性に性的暴行を加えた罪に問われている大阪地方検察庁のトップ・検事正だった北川健太郎被告。12月10日、弁護人が記者会見し、一転して「無罪を主張する」方針を示した。
被告側の「無罪主張」への方針変更を受け、被害者の女性検事が11日午後2時から記者会見を開いた。
涙を流しながら「絶句し泣き崩れた。性犯罪事件において、どのように主張すれば、無罪判決を得やすいかを熟知した検察の元トップが『同意があったと思っていた』と姑息な主張をして性犯罪被害で苦しんでいる人を恐怖や絶望に陥れている」と語ったうえで、「しかし、私は検事です。検事として正しいことを貫きたい」と話した。
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■初公判では「公訴事実を認め争うことはしません」と述べ「謝罪したい」と話す
この記事の画像(7枚)北川被告は6年前、自身の検事正就任祝いを兼ねた懇親会の席で、酒に酔って抵抗できない状態となった部下の女性検事に対し、当時住んでいた自身の官舎で性的暴行を加えた罪に問われている。
ことし10月の初公判で、検察側は「被害者は泥酔状態で官舎に連れ込まれ、気が付いたときには性交されていた。『やめて』と言ったが『これでお前も俺の女だ』と言われ、抵抗すれば殺されるという恐怖を感じた」と指摘。
北川被告は逮捕当初、容疑を否認していたが、この初公判では法廷で「争わない」姿勢を示した。
北川健太郎被告:公訴事実を認め、争うことはしません。被害者に深刻な被害を与えたこと反省し、謝罪したい。
女性検事は、記者会見で悲痛な思いを訴えていた。
被害を訴える女性検事:もっと早く罪を認めてくれていたらもっと私は早く被害申告できて、この経験を過去のものとしてとらえることができて、新しい人生を踏み出すことができた。
■弁護人が一転して「今後、裁判では無罪を争う方針です」と説明
しかし12月10日、事態が一変した。 新たな弁護人が記者会見を開き、「被害者が抵抗できない状態であったという認識はなく、同意があったと思っていて、犯罪の故意がない」などとして無罪を主張する方針を明らかにした。
中村和洋主任弁護人:今後、裁判では無罪を争う方針です。
弁護人の説明によると北川被告は当初、「検察庁にこれ以上迷惑をかけたくない」との思いで争わない姿勢だったものの、その後の検察庁への批判などから主張を変更。
「同意があると思っていた」、「女性が抵抗できない状態だったか合理的な疑いがある」との認識を示し、女性の主張とは真っ向から対立することになった。
■「組織のトップからの性犯罪被害を訴えることが、これほど恐ろしく、これほどまでにひどく傷つけられることだなんて、思いもしなかった」
北川被告側の無罪主張への方針転換を受けて、一夜明けた11日午後2時から会見に臨んだ女性検事は涙を流しながら「組織のトップから受けた性犯罪被害を訴えることが、これほど恐ろしく、これほどまでにひどく傷つけられることだなんて、思いもしなかった。率直な気持ちを話そうと思ったのは、性犯罪被害を申告することが、どれほど過酷で辛いことなのかを知って頂きたかったから」と訴えた。
被害者の女性検事:まず、きのう元検事正北川健太郎が自身が犯した準強制性交等の罪について、否認に転じ、無罪を主張していることを絶句し、泣き崩れました。 私のコメントはきのう出させていただいた通りですが、今の率直な気持ちを申し上げると、被害申告なんてしなければよかった。痛みをこらえながら自分ひとりで我慢すればよかった。
そうすればこんなにまで苦しい思いをさせられることもなかった。家族を苦しめることもなかった。 検事としてのキャリアを失わずに済んだ。 一生懸命仕事をしている職員に悲しい思いをさせることもなかった。信じていた同僚から裏切られ、信じていた上司から誹謗中傷され、検事総長らから疎まれることもなかった。
親しかった仲間と、楽しく仕事を続けられていたかもしれないのに、被害申告したせいで、私は自分の恥をさらしただけで、大切なものをすべて失ってしまった。 組織のトップから受けた性犯罪被害を訴えることが、これほど恐ろしく、これほどまでにひどく傷つけられることだなんて、思いもしなかった。
私はただ再び苦しんでいる被害者の方々に寄り添うことができる、検事の仕事に戻りたかっただけなのに。
■「登校する子どもの前でも涙が止まらなかった」「検察の元トップが『同意があったと思っていた』と姑息な主張をして性犯罪被害で苦しんでいる人を恐怖や絶望に陥れている」
被害を受けた女性検事:きのうの弁護人の会見をそのような思いにとりつかれ、夜も眠れず、胸が痛み、息をするのも苦しく、今朝登校する子どもの前でも涙が止まりませんでした。
率直な気持ちを話そうと思ったのは、性犯罪被害を申告することが、どれほど過酷で辛いことなのかを知っていただきたかったからです。
そして性犯罪事件において、どのように主張すれば、逮捕や起訴を免れやすいか、無罪判決を得やすいかを熟知した検察のトップにいた元検事正が主張を二転三転させて被害者を翻弄し、世に蔓延する『同意があったと思っていた』などという姑息な主張をして、無罪を争うことが、私だけでなく、今まさに性犯罪被害で苦しんでいる方を、どれほどの恐怖や絶望に陥れ、被害申告することを恐れさせているか。
そして、今後さらに多くの性犯罪者に『同意があったと思っていた』と主張させて、性犯罪の撲滅を阻害し、むしろ助長させることになるかを知ってもらいたかったからです。
■「私をどこまで愚弄し、なぶり殺しにすれば気が済むのか」
被害を受けた女性検事:しかし、私は検事です。検事として正しいことを貫きたいという思いから、お話したかった内容は、きのうのコメントの通りです。 少し付け加えて、改めて申し上げます。 被告は、私をどこまで愚弄し、なぶり殺しにすれば気が済むのでしょう。
被告は、初公判で、『罪を認め争うことはしません。被害者に深刻な被害を与えたことを深く反省し、謝罪したい』と述べていましたが、それは保釈を得るための芝居だったのでしょうか。
初公判により被告の卑劣で悪質な犯行や犯行後の言動が明らかになったことで、被告を非難する声が高まっていること、せっかく初公判で罪を認めたのに、保釈請求も却下され、また、私が一貫して判決確定まで損害賠償金の支払いに応じないと表明していることから、いよいよ実刑判決が見えてきたことに焦り、さらに、被告が親しい女性副検事に捜査情報を漏洩させるなどしていた疑いがあり、それについても処罰の可能性が出てきたことから、自己保身ゆえに再び否認に転じたのだと思います。
また被告の親しい女性副検事が処罰、懲戒処分を受ける可能性があるため、被告が無罪を主張することで、女性副検事が行った行為は、罪に問われるようなものではないとして、彼女の逮捕や起訴を免れさせようとしているのだと思います。
被害を受けた女性検事:被告は事件当初から弁解を二転三転させてきました。 たくさん嘘もついてきました。 被告の再びのうそを誰が信用するのでしょうか。
検察のトップにいた人が、事件から6年もの間、一度たりとも被害者の苦しみを想像せず、真に罪を償おうと思うことがなかったことは、被害者としてもとても悲しく、検事としてもとても情けないです。
被告がどのように主張しようが、真実は一つです。 司法の正義を信じます。 検察トップが犯した重大な罪と、被害者を傷つけ続ける無反省で無神経な言動に見合った長期の実刑判決を求めます。
(関西テレビ 2024年12月11日)