ノーベル平和賞授賞式に「高校生平和大使」が出席する。被爆4世として受け継いだ曽祖父母の体験を胸に、次世代へ平和を語り継ぐ使命を担う姿を追った。
被爆4世が担う「平和のバトン」
広島市立基町高校の2年生、甲斐なつきさん。
この記事の画像(10枚)「高校生平和大使」として核兵器廃絶を訴える活動をしている。
甲斐さんが平和大使を目指したきっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻だ。「リアルタイムで戦争が見れてしまうことに恐怖を感じて、平和教育で学んできた知識を生かそうと思った」とその動機を話す。
しかし、それ以上に彼女を突き動かしたのは、自身が被爆4世であるという事実だ。
曽祖父の渡辺新一郎さんは32歳のときに原爆投下翌日に爆心地近くで被爆。曽祖母の内藤和子さんは14歳のときに長崎の軍需工場で被爆、生死の境をさまようほどの重傷を負った。
甲斐さんは「祖父母から語られた曽祖父母の体験は、私が原爆を“自分事”として考えるきっかけになった」という。
被爆の「当事者意識」再現に注力
10月、甲斐さんは、ノーベル平和賞受賞の知らせを日本被団協・代表委員の箕牧智之さんと同席した場で聞いた。
その直後、彼女に舞い込んだのは授賞式への出席という大役だった。授賞式では現地の高校生たちと交流し、核兵器に関して意見を交わすことになっている。甲斐さんは日々、夜遅くまでスピーチ原稿を練り直し、準備を進めている。
特に力を入れているのは、被爆を知らない人々に「当事者意識」を持ってもらうための表現だ。曽祖母・和子さんが書き残した手記を初めて読んだ甲斐さんは、そこに描かれた壮絶な体験に衝撃を受けた。
「頭、顔、左腕、足の踵、傷だらけ、血だらけ。まるで幽鬼のような姿であっただろう。バケツで血をかぶったような格好で、立ちつくしている」
甲斐さんは「会ったことはないけれど、曽祖父母がつらい記憶を呼び起こして書いてくれたものを無駄にしてはいけない。私の代で止めてはいけないと感じた」と、被爆者の思いを次世代へとつなぐことを自らの使命とした決意を語る。
「こんな思いを誰にもさせてはいけない」
ノーベル平和賞授賞式で全世界に平和へのメッセージを発する意味は大きい。
甲斐さんは「被爆者の声を伝える点で、託された責任は大きい。自分にできる限りのことを全力で、私たちの思いが伝わるようにしたい」とその抱負を語る。
現地では、同世代の若者たちと平和や核兵器について意見を交わし、被爆国としての日本の立場を伝える役割を担う。混沌とする世界情勢の中で、核兵器廃絶に向けた新たなステップを模索する重要な経験となるだろう。
曽祖父が残した言葉「こんな思いを誰にもさせてはいけない。二度とこの経験を味わせてはいけない」という思いをそのままオスロに持っていくという甲斐さんの世界に向けた挑戦は始まったばかりだ。
(テレビ新広島)