ラップが災害時に役立つ?

学校や企業、自治体などで行われることの多い「防災訓練」。

家庭で家族と一緒に実施したことはありますか。

8月に旭化成ホームプロダクツが全国20~60代の700人を対象に実施した「防災意識と備えに関する調査」では、増える災害への危機意識が浸透している一方で、防災訓練や家庭での防災対策が不足している実態が浮き彫りに。

「家庭で直近5年以内に防災訓練をしていない」と回答した人は約8割(78.6%)、推定で全国6112万人(※統計局データ人口推計(令和元年版)の日本の人口構成比をもとにウェイトバック集計を実施)いることが分かった。

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さらに、「地震など災害が頻発している分、逆に災害への慣れが生じているかもしれない」という問いに対して、“災害慣れ”を約6割(58.6%)が実感しているという結果も。

昨今、日本は自然災害が多く、特に今年は新型コロナウイルスの影響もあり、今まで通りの避難訓練も難しいことから、政府も含め「家庭で備えること」を推奨している背景もあり、旭化成ホームプロダクツでも「#家でも防災訓練をしていますか もしものときのサランラップ(R)活用術」の特設サイトを設け、そこでは在宅の防災訓練で実施してほしいチェックリストをまとめている。

<チェックリスト>
・避難場所・避難経路を確認する
・防災バッグを準備する
・食料品・生活用品を備蓄する
・家具の転倒、落下、飛散対策を行う
・家族との連絡方法や役割を話し合う
・身近な日用品の防災活用法を学ぶ

また、同じ調査では、災害への備えとして具体的に取り組んでいることの1位は「食料品、生活用品を備蓄する」(50.7%)ことだが、災害への備えに費やしている1年あたりの平均時間はわずか10.1分。そして、自宅にある日用品・キッチン用品を防災に役立てるアイデア・活用法の認知率は3割以下にとどまっている。

こうしたことから、日用品である「サランラップ(R)」の8種類の活用術を紹介し、DELISH KITCHENやmacaroniなどとのコラボコンテンツも公開した。

食品を保存したり、おにぎりを作ったりするときに使われることの多いラップ。しかし、災害時は、さまざまなことに代用できるという。

1.食器に敷いて節水に
食器が汚れないので水洗いが不要になる
2.ニオイ対策
生ごみやおむつなどニオイが気になるごみは、しっかり包むとニオイ漏れを抑えられる(※ポリエチレン製や塩化ビニル製のラップでは十分な効果が得られない)

ニオイ対策に
ニオイ対策に

3.使い捨て手袋に
手に巻き付けると手袋のように使える
4.紐の代わりに
必要な長さに切ってねじると紐のように使え、3本用意して三つ編みにすると強度が増す
5.スポンジの代わりに
手のひら大に丸めて少量の水と洗剤を付けて泡立てる
6.防寒対策に
新聞紙を温めたい部分に巻き、さらにラップを巻いて固定することで寒さがしのげる

伝言板に
伝言板に

7.伝言板に
油性マジックでメッセージを書けば伝言板として活用できる
8.おにぎりに
ごはんを包んでおにぎりを握れば衛生的

「在宅防災訓練」の心構え

NPO法人レスキューストックヤード常務理事の浦野愛さん
NPO法人レスキューストックヤード常務理事の浦野愛さん

災害時は冷静な判断もつかないことも多いからこそ、訓練しておくことも大切。そこで、在宅防災の備え、日用品の活用術など「もしものときのサランラップ(R)活用術」を開発したNPO法人レスキューストックヤード常務理事の浦野愛さんに聞いた。

今回の調査結果に浦野さんは「防災対策の必要性を理解しながらも“備える”という行動にまでなかなか結び付いていないという印象が見られます。もしかしたら、災害はいつ起こるか分からないし、『面倒くさい』とか、『自分は大丈夫』という思い込みが心の奥にあるのかもしれません。また、被災しても『避難所に行けば何とかなる』と考えて、『自宅で長期避難生活を送る』というイメージが湧かず、準備も進まないという背景があるのかもしれません」と分析。

また浦野さんは、実際は「避難所よりも自宅で避難生活を送っていた人の数が圧倒的に多い」と明かす。

「行政から指定された避難所は“何かあったときの逃げ込み場所”というイメージが強いですが、そこでの生活もかなり過酷。理由としては硬い床の上に長時間いなければならないことや、また、たくさんの人ですし詰め状態になるためです。プライバシーも守れず、仮設トイレは音やニオイが気になる人もいて、結局その状況に耐えられない人は自宅に戻ったり、車中泊を選んだりしています。

なるべく、自宅が問題ないと判断できるのであれば、自宅にとどまって避難生活を送る方が、心身の健康上安心できるということが一つあります」

自宅での避難生活も災害時は、日常生活と全く異なる生活になるだろう。ガスも電気も水道も使えず、“当たり前”が当たり前でなくなってしまうこともある。だからこそ、家族で「在宅防災訓練」をすることが重要になってくる。

では、実際に在宅で防災訓練をする場合、何をすればいいのか。

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「まずは、災害が起こったときに、自分の家がどれくらいのリスクがあるのかを冷静に分析しましょう。お住まいの市町村が発行しているハザードマップを確認してみてください。これは災害が起こったときにどれくらいの被害が出るのかを予測する地図で、洪水や土砂災害、津波、道路防災情報もあります。

ですが川の近くだったり、低い土地に住んでいたり、裏に山があったり、水害のリスクが高い場所と考えられるところに住んでいる場合は、迷わずに避難所に行くという選択をしてほしいです。避難所に限らず、ホテルや旅館など避難先を複数用意しておくことも大切です」

日用品を使うことは安心につながる

実際の避難生活では、体調を崩さないように「食べる」「寝る」「出す」の3つのことに気を付けなければならないと浦野さんは言う。

「食べる」ことについては、「災害時の食事は非常食のイメージが強いのですが、炭水化物に偏っていることも多いです。それだと健康維持はできないので、ビタミン、ミネラル、食物繊維、たんぱく質を摂取する必要があります。ミネラルはみそや梅干し、ビタミンはフルーツの缶詰、たんぱく質は魚や肉の缶詰など、こうしたものをうまく組み合わせてみてください。そして、それを調理する道具も必要になり、カセットコンロとガスボンベをセットで準備しておくことが必要です」。

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「寝る」ことは、夏・冬でそれぞれの対策が求められ、「冬は電気などが使えないと暖房器具も使えないことから、被災地で聞いてあってよかったものは石油ストーブでした。上が平らであればお鍋ややかんを置いてお湯も沸かせます。一方で暑さ対策は、急速保冷パックや冷却ジェルシート、うちわなどをストックしておくといいです」。

「出す」こと、つまりトイレのこと。「凝固剤を賢く使いながら、水を流せなくても汚物を処理する準備をしておくのが安心につながります」。

そして、在宅防災訓練をする場合は、家にある防災グッズを実際に使ってみるといい。

「特に凝固剤は買ってみたものの、自分の排せつ物を固めたことがある人は少ない。どうなるのかイメージできると処理の仕方、におい、扱いのイメージが湧きます。災害時はごみも通常のように回収業者が取りに来てくれないので、どこに保管しておくのかなど考えるきっかけにもなります」

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調査結果にもあるように、災害時に日用品を役立てるという発想はあまり浮かばない。「防災」と名のついているものに頼ってしまうことが多いが、日用品を災害時に使うメリットはあるのだろうか。

「普段使い慣れていないものを緊急時に使うのは大変です。うまく使えなかったり、使ってみても心地悪かったりする。経験上、それがストレスになることもあります。身近にあり、扱い慣れているものが防災に役立つことはイザというときに安心になります。そして、普段から使っているものなので応用のアイデアも浮かびやすい。家に余分にストックしているだけでいいですし、近所にもシェアもできます」

今回は「サランラップ(R)の活用術」を紹介しているが、浦野さんの団体では、日用品を災害時にどう役立てるか、という紹介もしている。ゴミ袋は防寒対策に、段ボールはポリタンクの代わりとなり、タオルや懐中電灯など一つのものをいかに有効に使うかを発信している。

何か特別なものを用意していなくても、家にあるものだけでもできる「在宅防災訓練」。1年に1回だけでも実践することで気づいたこと、必要なものを見つけ出し、それが家族の命を守ることにつながっていく。
 

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。