トランプ新政権は、外交の基本原則に「モンロー主義」を復活させるようだ。
ドナルド・トランプ次期大統領は13日、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)を国務長官に任命した。ルビオ議員は中国に対して強硬派として知られ、次期大統領の方針に合致した人選という解説が多いが、それ以上にルビオ議員はその出自からトランプ政権の対中政策に最も適った人材という評価が高まってきている。
中国の中南米進出を阻止する狙いか
ルビオ議員はキューバ移民の子で、フロリダ州の貧困なヒスパニック社会で育ち、スペイン語で演説をするほどにラテンアメリカの文化に同化している。そこで同議員を米国の外交の舵取りに任命することは、トランプ政権の外交の目が主に中南米に向いていることを意味するのではないかという指摘に表れてきた。
この記事の画像(5枚)「ルビオとモンロー主義への回帰」
ニュースサイト「ザ・ワシントン・フリービーコン」(11月16日)に、表題のような記事が掲載された。記事は、中国が最近南米の最大の貿易国となってきたことや、その「一帯一路」構想に中南米の20カ国が参加していることに、トランプ新政権の外交担当者は危機感を抱いていると指摘する。
Rubio and the Return of the Monroe Doctrinehttps://t.co/S9VmRfxNZm
— Washington Free Beacon (@FreeBeacon) November 16, 2024
そこで新政権は、かつての「モンロー主義」が英国やロシアのアメリカ大陸への干渉を排除したような「新モンロー主義」を掲げて、中国の進出を阻止しようと考え、中南米の指導者とスペイン語で自由に交流でき、中国には厳しいルビオ議員に白羽の矢が立ったものと分析する。
旧「モンロー主義」は、第5代大統領ジェームズ・モンローが1823年に議会で行った年頭教書で発表した方針で、当時ラテンアメリカでは各地で独立運動が勃興し、一方欧州ではナポレオン失脚後の混乱で不安定な状況にあった。そこで米国は欧州と相互不干渉を提案したのがモンロー主義で、中南米に欧州各国の新植民地の新設を認めず、ラテンアメリカへの経済進出を目指していた英国をけん制し、ロシアのアラスカ(当時はロシア領)からの南下を阻止する狙いがあった。
この言ってみれば「米国孤立主義」が再浮上してきたのは、「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ氏の考えを反映するものに他ならないからだ。
トランプ氏は大統領第一期時代の2018年9月25日、国連総会で行った基調演説の中でこう述べている。
「ここ西半球において、私たちは拡張主義的な外国勢力の侵入から独立を維持することに取り組んでいます。モンロー大統領以来、外国の国家がこの半球や我が国の問題に干渉することを拒否するというのは、我が国の正式な政策となっています」
トランプ氏としては第一期にも新「モンロー主義」を徹底させておきたかったようだが、2020年の大統領選挙で国際融和派のバイデン氏に敗れて構想が後退してしまったので、今回は初志貫徹をはかるのだろう。
ラテンアメリカへの影響力を強める中国
時あたかもペルー中部の太平洋岸のチャンカイでは、中国資本主導で建設された巨大港湾の開港式が開かれ、リモートで出席した中国の習近平国家主席は「カイガン!(開港)」と宣言した。
これで米国の裏庭に中国との裏ルートができたも同然で、ラテンアメリカへの中国の影響力が浸透していることを世界に印象付けることになった。
習近平国家主席はペルーで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議や、その後ブラジルで開かれたG20(主要20カ国・地域)首脳会議に出席して各国首脳と会談し、その影響力を十分に行使していった。
2025年1月に新トランプ政権がスタートする時までに、中南米では経済的にも物理的にも中国の影響が広く及んでいると考えられる上に、トランプ政権は中南米各国との対決を招きかねないラテンアメリカの不法移民の大量強制送還を公約にしている。新「モンロー主義」の旗手を期待されているルビオ新国務長官だが、その任は決して容易ではなさそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】