日本の貨物船の事故にモーリシャス在住日本人は…

インド洋の島国モーリシャス沖で起きた日本の貨物船の重油流出事故。新型コロナ対策による国境閉鎖が続き、経済に大きなダメージが出ていた中での事故は、現地に住む人々を大きな不安に陥れた。

座礁事故で重油が流出
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モーリシャスは一年中過ごしやすく、豊かに自然に恵まれ「インド洋の貴婦人」とも呼ばれる。東京都とほぼ同じの面積に約125万人が暮らす。その中で在留邦人は約60人。大人に限れば約30人で小学校の1クラスにも満たない人数。

日本人という加害者のような立場にありながら、在住者として被害者でもある人々。彼らが重油流出事故を受けてどう感じ、どう動いたか、話を聞いた。

オイルフェンス作りのボランティアに参加

観光業に従事している村野アナンディー百合さんは「驚きと困惑、とにかく残念で悲しい」気持ちを昇華すべく、製糖工場でのオイルフェンス作りのボランティアに参加した。この製糖工場は島の北西にあり、 事故現場のある南東部からは島の反対側。事故現場から離れた場所でもボランティアが立ち上がったことからも、住民の危機感の高さがうかがわれる。

オイルフェンス作りのボランティア

この工場は敷地をボランティアのために開放し、通常燃料として使用されるサトウキビの葉を無料提供した。百合さんは集まった多くのボランティアと共にサトウキビの葉とペットボトルと一緒にネットで包み、ナイロンの釣り糸で縫い付ける作業に当たった。「モーリシャスの人は海のおかげで自分たちの生活が成り立っていることを知っている。ボランティアの誰もが海を守りたい一心だった」と話す。

ヘア・ドネーションに協力

島の南西部では髪の毛を使ったオイルフェンス作成のボランティアも立ち上がった。このボランティアに参加したのは私立高校職員の秋枝ベアトリスさん。自らもヘア・ドネーションのため、肩より下まであったロングの髪をショートカットにした。口に出せない怒りの表現だったという。
 

秋枝ベアトリスさん ヘアドネーションのため自らも髪をカット

日頃から環境保全活動に関わってきた秋枝さんにとって、髪を切ることは環境保護に本気で取り組むことの表明であり、周りの人に関心を持ってもらうためのメッセージ。秋枝さんがチームリーダーを務める団体には1.5トン以上の毛(一部動物の毛も含む)が寄付された。通常あまり髪を切らないヒンズー教徒の女性のものと思われる長い黒髪も多く見られたという。モーリシャスの人々の強い思いが詰まったオイルフェンスだ。

美容室の前に置かれたヘアドネーションを集めるためのかご

重油回収・清掃作業の専門家や機材が届いた現在、手作りオイルフェンスは使用を控えるよう当局から指示が出ている。が、専門機関が対応するまでのボランティアの迅速な対応には目を見張るものがあった。現場で重油除去に当たった人はもちろん、オイルフェンスを作る人、清掃やオイルフェンスのための物資を提供する人、ボランティアに食事や飲み物を提供する人、髪の毛を島中の美容院から集める人など、それぞれが自分のできることを自発的に行った。こうした一般市民の活動が被害拡大を食い止めたことは間違いない。

事故情報を日本語で随時発信

また、環境修復だけでなく、日本とモーリシャスの橋渡しに貢献した人もいる。日本からの取材の割り振りや情報伝達に活躍されたのがモーリシャス在住30年、観光業に従事する伊藤みどりさん。自身のブログ「モーリシャス便り(http://ilemaurice.blog.jp)」で事故情報を随時発信し、一時は一人通信社状態に。

伊藤みどりさんが情報発信「モーリシャス便り」

モーリシャン野生生物基金(MWF)への寄付方法の案内を載せたところ、日本から感謝のコメントが300件近く寄せられたという。国境封鎖中で海外からの記者の渡航が制限されている中、伊藤さんが日本語で情報を伝えた意味は大きい。

座礁事故付近のサンゴ JICA提供

今後について伊藤さんは「日本の技術やテクノロジーを継続的に提供していただきたいです。また、一時的なニュースで終わるのではなく、完全復興まで見守っていただきたい」と継続的な支援と関心を、と呼びかけた。その上で国境封鎖が解除された暁にはぜひ地上の楽園の豊かな自然を満喫しに来ていただきたい。モーリシャスの人々にとっては一番助けになるのではないだろうか。
 

(執筆:永井葉子)

プロフィール
ライター・ビジネスファシリテーター。国際基督教大学教養学部理学科卒。日本アイ・ビー・エム(株)のSEとして勤務の後、渡仏。HEC経営大学院MBA。デロイト・コンセイユ(パリ)のコンサルタントを経て独立。ビジネス進出サポート業務(市場調査・分析、商談随⾏)、英仏語での情報収集を元にした記事執筆、通訳などを⾏う。2014年よりモーリシャス在住。