「日本一厳しい」といわれる兵庫県警察学校。一人前の警察官を育て上げる試練の場だ。
■【動画で見る】“日本一厳しい”教場 鬼教官が「地獄の訓練」

教官:セミのほうが元気な声出とるやないかい。
仲間たちと、限界を超えるまで耐えて、耐えて、耐えて…『教場』の半年間に密着した。
■29歳浦郷巡査はクラスの“兄貴”

兵庫県警察学校。警察官の採用試験に合格した者たちが、現場へ出るために課せられる「試練の場」だ。 厳しい訓練で、その適正を見極め、ふるいにかける。
教官:歯見せんな。
浦郷恵輔巡査、29歳。 高卒クラスで、周りは高校を出たばかりの10代が多い中、10歳ほど年上の浦郷さんは自然と目立ち、兄貴的存在でもある。
浦郷恵輔巡査:いけるいける。
■入校当初は怒られてばかり

しかし、4月入校した当初はというと…。
教官:伸ばせ。お前やり直せ。
浦郷恵輔巡査:はい。
警棒を扱う手順が覚えられず…。
浦郷恵輔巡査:はい。申し訳ございません。
教官:やり直せ。
浦郷恵輔巡査:はい。
教官:なんで間違うやつがおるんや。確認しあえ。間違ってるやつおったら教えたれ。

5キロの盾を扱ってみても…。
教官:盾どっちから回しとんや。
浦郷恵輔巡査:右です。
教官:どっちから回すんや。正しいのはどっちや。
浦郷恵輔巡査:左です。
教官:分かっとってやっとんか。分からんとやっとんか。
浦郷恵輔巡査:分からないでやっていました。
■二人の子供の父親の浦郷巡査「根性で乗り切りたい」

厳しい訓練だけでなく、事件や事故の対応に必要な知識も学ぶ教場。 10年間会社員をしていた浦郷さんにとって、机に向かうのは久しぶりのこと。
二人の子供の父親だが、卒業までの10カ月間、平日は離れて寮生活。

高校時代に、夏の甲子園に出場した経験から、根性だけは誰にも負けない。
浦郷恵輔巡査:みんなと違って、家族もありきでここにいるので、どれだけしんどくても耐えて、根性で乗り切りたいと思っています。
■厳しさの中に込められた教官の思い

ひときわ暑かった今年の夏。暴徒への対応を想定した訓練では…。
教官:やられるぞ。
教官:とられるやないかい。お前ら、あけるな。隙間をあけるな。あきよるやないかい。
照りつける太陽のもと、体力の限界との戦いだ。

教官:セミのほうが元気な声でとるやないかい。耐えるんや。
とことん追い込む鬼教官。それには理由がある。
教練教官 桜井寛也警部補:外(現場に)出たらもっとつらい目にあうと思う。厳しさに耐えられる力を最低限のことは身に着けてほしい。警察の仕事は誰かが命を落とすかもしれないし、本人が命を落とす可能性がある。その辺を分かってほしいので厳しく。
■19歳の富田巡査は体力がなく脱落することも…

兵庫県警察学校が“日本一厳しい”ともいわれる理由は、走訓練で待ち受ける「根性坂」。
教官:追いつけお前、合流せえ。
隊列についていけないのが、富田優稀巡査。19歳。 体力に自信がなく、時にはひとり、脱落することも。

富田優稀巡査:小学校の低学年くらいから警察官に憧れていて、それはずっと今に至るまでずっと変わらず、思い続けていたこと。
『警察官になりたい』夢の実現のため、自由時間に仲間と走り続ける。
■一期上の卒業生の姿に「顔つきも全然違う」

ある日、浦郷さんたちの、一期上の先輩たちが巣立った。一足先に現場へ行く姿を、まぶしそうに見送る。
卒業生:兵庫県警察学校に対し、敬礼!ありがとうございました。

富田優稀巡査:おはらさ~ん、ばいば~い!
浦郷恵輔巡査:約1年ですごいなって思います。顔つきも全然違うし。それに負けないように。僕もそのぶん年齢重ねているので…警察官に絶対なるっていう、固い意志があったら、自ずと顔つきも変わってくると思う。
■実践形式の授業が本格化すると、新たな課題が浮き彫りに

現場を想定した実践形式の授業が本格化すると、新たな課題が浮き彫りになった。 担任の別所教官が違反者役となり交通違反の取り締まりを行うと…。
別所教官:なんすか?
浦郷恵輔巡査:あそこの一時?一旦停止?一時停止?見えませんでした。
浦郷恵輔巡査:そんなに時間とらせないので。
浦郷さんと富田さんが交通違反の取り締まりに臨んだ際、青切符の記入に手間取り、25分もの時間を要してしまった。現場では10分ほどで処理しなければならない状況で、まだまだ改善の余地がある。
別所教官:大きく間違えてたのが、交通切符って告知者の所属・階級・氏名って告知者作成者って決まっとんやね。共同作成したでしょ、2人で。私ここ書くから、浦郷こっち書いてみたいな感じで、共同で作成したけど、1人で作らなあかん。
痛恨のミス。まだまだ学ぶことが多い。
■クラス対抗の武道大会では、浦郷巡査が大活躍

年に一度の大イベント、クラス対抗の武道大会では、浦郷さんが大活躍を見せた。 自分の相手を倒した後、すぐさま仲間に加勢し、流れを一気に変える大活躍を見せたのだ。
青山巡査:浦郷さんよく頑張った。

別所教官:やっと笑いなしで結果出した。

別所教官:活発な動作が得意かといわれたら得意じゃないと思う、浦郷は。ただ、それをおして余りあるリーダー性だったり、空気読む力だったり、現場に出たら、事件当事者・被害者の立場になる人もいる。そういう人の心情くみ取って、空気読んでそれに応じて対応するのは重要なスキル。浦郷に関してはすごい長けているなって感じます。
■後輩の指導係に抜擢される浦郷巡査

10月、別所学級の3人が秋入校の新入生の教場へ。
新入生:敬礼、直れ。
浦郷恵輔巡査:やり直せ。
顔つきの変わった浦郷さんは、なんと後輩の指導係に抜擢された。 かつて怒られてばかりだった浦郷さんが、今度は教える立場に立つことになったのだ。
浦郷恵輔巡査:人に教えるって、自分が分かっていても、何も知らない人に教えるっていうのが、こんなに難しかったのかなって改めて思いました。 最初はずっと怒られっぱなしで、もううるさいなって思って、そんなちっちゃいこと言わんでもいいやろって思ってました。

浦郷恵輔巡査:現場の想定の授業があって、現場ってこんな感じなんやっていうのが分かりだした時に、教官が言っていたのは、現場に出て自分が恥じないようにするためだったのかなっていうのは思います。
■警察学校を卒業するには、5キロの盾を持ち「根性坂」を10往復する試練が

厳しい訓練も半年が過ぎ、学生たちの動きにもまとまりが出てきた。
しかし、彼らを待ち受けていたのは、地獄の走訓練。 警察学校を卒業するには、5キロの盾を持って根性坂を10往復するという試練をクリアしなければならない。
富田さんは2往復目で隊列から離されてしまった。

富田優稀巡査:走れなかったら卒業できないです。もう死ぬ気で体力を底上げしたいと思います。
富田さんにとって、この試練はまだまだ高いハードルだ。それでも、足を止めることはなかった。
■卒業まで残り3か月。厳しい日々はまだまだ続く

富田優稀巡査:不安でいっぱいです… 本心は。今のまま現場に出てしまったら、本当に頼りない警察官のまま現場に出てしまうのではないかという不安があって。最近指導が続いてて、教官方にも見放されてしまうんじゃないかって思うぐらい指導を受けていて…。

富田優稀巡査:その時に別所教官から自分の担当クラスやし、最後まで卒業するまで見捨てへんっていうのを言われたので、めちゃくちゃうれしくて。 警察学校厳しい道に進んできて、別所学級に出会えて本当に良かったなって思います。
自分の弱さを乗り越えた時、強くなれると信じて、卒業まで残り3カ月。厳しい日々はまだまだ続いていく。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年11月12日放送)