島根・出雲市に95歳にして現役のスイマーがいる。60歳を過ぎて水泳を改めて始め、年齢別のレースに挑戦し、その世界記録を更新してきた。「1番になること」が生きがいだという女性スイマーの元気の源を探った。

結婚や子育てで離れるも…還暦で挑戦

「水泳は私の人生を支えてくれる。水泳しているときが1番楽しい」と話すのは木村悦子さん95歳。今も「1番」を目指して泳ぐ現役スイマーで、力強いストローク、のびやかに水の中を進む姿を披露してくれた。

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木村さんは出雲市多伎町で、1人で暮らしている。普段は2階で過ごしているという木村さん。軽やかな足取りで階段を上っていく。部屋に案内してくれる姿は、とても95歳とは思えない。

部屋には、数えきれないほどの賞状とメダルが並んでいた。

木村さんは昭和4年(1929年)に広島・呉市で生まれ、12歳のころに父親のふるさとである現在の出雲市多伎町に移り住んだ。

高等女学校時代は水泳部に所属し、全国大会にも出場するなど活躍。その後結婚し、仕事や子育てのためプールから遠ざかったが、還暦を迎えたころ「自分の人生を生きてみよう」とプールに戻ってきた。

まさに「水を得た魚」のように水泳の楽しさを思い出した木村さんは、ロシア、ドイツ、スウェーデンなど海外にも遠征。それぞれの世代で、日本記録や世界記録を打ち立ててきた。

95歳で2度目の復帰 世界記録も

木村さんは「ちょうど90(歳)の時に日本新記録を7つ取ったからもういいか、そろそろと思って」と、90歳になった時に再びプールを離れ、家でテレビを見て過ごしたり、近くの畑で野菜の世話をしたりと“普通の生活”に戻った。
しかし、心境の変化があった。それは…「その5年間がつまらなくてね…今度は世界記録を狙ってみようかな」という思いだ。

そして、2024年に2度目の「現役」復帰。わずか3カ月の練習で挑んだマスターズの大会では、5年のブランクを乗り越え、平泳ぎの3種目で世界記録をマークした。

再び水を得た木村さんだが、まだまだ満足していなかった。10月に鳥取県で開かれる高齢者のスポーツと文化の祭典と呼ばれる「ねんりんピック」に、次の目標を定めた。

この日のトレーニングでは、「今のは焦り過ぎたかな。自分でも全然進んだ感じがしなかった」と自身の泳ぎの反省点を見つめなおしていた。そして「もっと泳がないと…」と語り、コーチである川上浩之さんとストイックに納得がいくまで泳ぎを突き詰めようとしていた。

川上コーチも「(ねんりんピックで)80代と戦って勝とうとしているので、その気持ちがすごいと思います」と話し、木村さん気持ちの強さをたたえる。

一人暮らしの木村さんは、毎日の食事も自分で用意している。身体づくりのためにこだわるのは、野菜と肉をしっかり取ること。野菜は自分の畑で育てたものだ。

記録更新よりも一番になれない悔しさ

そして、10月20日の「ねんりんピック」本番。全国から「現役」として活躍する高齢スイマーが顔をそろえる中、木村さんの表情はいつもと少し違っていた。

「太ももがつって汗がだらだら出て、何をしても治らなくて、今日は泳げないかなと思っていた」とコンディションが優れないことを明かしたが、「頑張ろうと思う…」と、何としても目標の世界記録をと出場を決意。

50メートル平泳ぎの部で、最高齢の木村さんは、88歳と87歳の「年下」の選手に勝負を挑んだ。後半、苦しい表情をうかべながらも先行する選手に食らいつき、タイムは1分17秒12。

4月に出した世界記録を0.6秒更新したが、木村さんは「悔しい、まぁ記録はいいよ。世界記録よりもちょっと早かったからね。でもやっぱり、みんなの前で1番遅く着くのは嫌だ」と話し、記録更新のうれしさよりも、1番になれなかった悔しさが頭から離れない様子だった。

気持ちを切り替えて、次に狙うのは25メートル平泳ぎの日本記録だ。
「三途の川を渡らなくてよかったら100歳でまた世界記録に挑戦しましょうか」と朗らかに話す木村さん。とにかく「1番」になりたい、100歳になっても世界記録に挑戦をし続ける。95歳の現役スイマーの思いは尽きることはない。

(TSKさんいん中央テレビ)

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