”てんかん”という病気をご存じだろうか?脳内の神経細胞が過剰に興奮することで発作を起こす脳の病気だ。静岡県では2023年に運転中にてんかんによる発作を起こし、事故につながったケースが2件あり、そのうち1件は死亡事故だった。こうした中、患者は「てんかんに偏見を持たないでほしい」と訴えている。
てんかん隠して免許更新し死亡事故

原型がわからないほどに押しつぶされた軽自動車。
2023年7月、浜松市で信号待ちをしていたところ、後ろから乗用車に衝突され運転していた男性が死亡した。
追突事故を起こしたとして逮捕・起訴された男(46)は、運転中に持病のてんかんによる発作で意識を失っていたことがわかっている。

男は事故のわずか4日前に免許を更新した際、過去5年以内に病気を原因として意識を失ったことがあるにもかかわらず、質問票に虚偽の申告をしていたという。

また、同じ浜松市では2023年8月、同じように免許更新の際にウソをついた40歳の女がてんかん発作で意識を失って4人に重軽傷を負わせる事故を起こし、その後、書類送検された。
患者の7割は車が運転できる
一方で、こうした事故がきっかけとなり「てんかんを抱える人すべてが運転してはいけない」という誤った認識が広がることに警鐘を鳴らしているのが、静岡てんかん・神経医療センターの西田拓司 医師だ。

静岡てんかん・神経医療センター
西田拓司 医師:
てんかんがある人の7割は(薬などにより)発作は止まっていて、今の法律で運転が許可される人が多くいる。残りの3割のまだ発作がある人も、ほとんどの人はルールを守って運転を我慢しているので、一般の人も理解してほしい
西田医師は「運転できないと知った患者は全員 相当なショックを受ける。『代わりにこんな手段がある』と紹介できるものがないことが医療者としても苦しい」と話す。
“ウソが引き起こした事故”に思う

高校1年生の時にてんかんを発症した富士市の中村真二さん(35)。以来、てんかんの薬をずっと服用している。

それは卒業を目前に控えた18歳の春だった。
友達と原付の免許を取ろうと勉強して受験した際に、質問票に過去5年間に意識を失って倒れたことがあるか尋ねる欄があり、「はい」と回答すると受験会場の担当者に呼ばれたため、「てんかんを持っていて発作が出て倒れたことがある」と話したところ、「では免許は取れないね」と言われたそうだ。

現在の法律では2年以上発作が出ていないことなど一定の条件を満たせば運転免許の取得が可能で、中村さんも薬の服用により10年以上発作が出ていないため、普段から車の運転をしている。
だからこそ、浜松市で起きた2つの事故については「思うことがある」と話す。
中村真二さん:
その(虚偽の回答をしてしまう)人たちが過ごしやすい社会にするために、自分に何ができるかを考えてやっていきたいという思いの方が強い。その人が(免許更新の質問票で)「いいえ」と回答しないための社会をどう作っていくかということに貢献していきたい
「てんかんを知って」小学校で講演

中村さんはてんかんについて多くの人に知ってもらおうと、仕事の合間を縫って小学校などで講演している。
児童:
てんかんになる時は自分でわかりますか
中村さん:
僕の場合は発作で、ガタガタガタと倒れる前に一瞬 電気ショックのようなピクっていうのが2~3回ある。でも人によってあったりなかったり。ある人でも気持ちが悪いとか、おなかに違和感があるとか、人によってバラバラ

児童の中にはてんかんの患者もいて、「てんかんの人と話せるのは、自分もてんかんだからいい時間でした。ありがとうございます」とお礼を言うと、中村さんは「僕も感動するぐらいうれしいです、ありがとうございます」と返した。
「偏見を持たずに正しい理解を」
静岡県警によると2023年までの10年間で、県内で一定の病気等を理由とした運転免許取消し件数はのべ1459件。そのうち、てんかんによる免許の取消しは約半数の741件だったそうだ。

中村真二さん:
(今は)免許を取れなくなるから(質問票で)「いいえ」にマルをつける人がいたとしても、「周りの人が理解してくれるから運転免許なんていらない」と思えるくらいの世の中になれば事故も減るだろうし、てんかんを持つ人が生きやすい世の中になる。その意味で、もっと知ってくれる人、理解してくれる人が増えたらいい
てんかんについて偏見をもたずに、社会全体として正しい理解を深めてほしい。
それが中村さんの今の願いだ。
(テレビ静岡)