熊本市電の延伸をめぐり、2024年9月に実施設計予算案が議決され、本格的に動き出すことになった『仮称・東町線』。熊本市が10月15日まで開いた市民説明会を取材した。
本格的に動き出した熊本市電延伸
9月27日に熊本市議会で熊本市電延伸の実施設計経費4億2000万円を含む補正予算案が可決された4日後、10月1日には熊本市が移動円滑推進課の中に『市電延伸室』を設置した。
この記事の画像(17枚)太江田真宏室長は「都市計画決定の手続きに進みたいと考えている。都市計画決定は年内を目標にしていて、地域への説明会を10月から開始したい」と述べた。
市民説明会は10月5日から、延伸の地元・健軍地域から始まった。初回、会場に用意された席はすぐに埋まってしまい、熊本市は椅子を追加して対応した。
熊本市電の延伸が計画されているのは、東区の健軍町電停から熊本市民病院まで約1.6キロのルート『仮称・東町線』。付近には区役所や小・中学校など公的施設が多く立地している。
熊本市はこのルートのうち市道・自衛隊中通りは『複線』で、県道・熊本高森線については『一部単線』で整備する方針だ。健軍町電停から熊本市民病院までの所要時間は約7分だ。
概算事業費はおよそ141億円。開業予定は7年後の2031年度を見込んでいる。
費用や一部単線化の説明求める市民
健軍での説明会で市民からに「金額が高すぎる。なぜ141億円か」という質問に、太江田室長は「軌道整備については交付金をいただく想定をしている。道路部分は街路事業が別にあり使える交付金を検討し、国の補助を活用して事業を進めたい」と述べた。
「高い」と指摘された事業費について、熊本市は国の交付金などを活用する考えを示し、実質の負担額は約55億円と説明した。
一方この事業費について、また『一部単線化』が示されていることについて、市民からは「一部単線化というのは費用削減のためだと思うが、単線にすることで詰まる(渋滞する)可能性がある。ケチらずに投資すべき」と意見が挙がった。
また、別の市民からは「車と電車の接触事故とか電車と電車との接触もあるかもしれない。私も一部単線化ではなく複線で通してもらいたい」との意見に、太江田室長は「(一部単線化は)事業効果が早く出る。事業費、地域への影響が最小限で済むということで一部単線を選んでいる」と、一部単線化の理由を述べた。
市電延伸で1日約2000台削減の効果
熊本市は延伸によって、どんな効果を見込んでいるのだろうか。
市電延伸室は「延伸の効果としては1日約2300人の市電利用者が増える見込み。年間約84万人の利用者の増加を見込んでいる。これに伴い自動車利用が1日約2000台削減が見込まれている」と述べる。
熊本市は、延伸によって利用者が増え、車の利用が1日2000台減少すると予測。全市的な渋滞の低減につながるとしている。
また、この説明会で用地買収が必要となる見通しについて、市電延伸室は「今回、都市計画変更を行うのはこちらの約600メートルの区間になる」と、初めて区域を示した。
都市計画区域へ追加することになった土地は、延伸ルートの中の熊本高森線から自衛隊中通りへのカーブ付近。用地の調査などの交渉は、今後個別に行うということで、説明会終了後、会場に張られた地図を見て参加者が直接職員に尋ねる姿が見られた。
市電延伸の狙いは?健軍地域だけの効果?
10月13日に中央区で開かれた同じ説明会では、市民からの「健軍から東への延長、さらに熊本市民病院まで延伸の狙いはそもそも何か」との質問に、太江田室長は「平成27(2015)年から延伸の計画をしている。そのときからこのルートは候補の中にあったが平成28(2016)年熊本地震、その後、市民病院の移転が決まり、この事業性が高まったということはあるが、このルート自体はもともと市民病院のためではない。基幹軸の強化を図ることが大事で、〈誰を対象に〉と言われると市内全域となる」と答えた。
また、別の市民は「市電は道路の中に設置するので(車は)今まで右折できた所ができなくなる。新たに軌道と信号を追加されるのでものすごく渋滞するのではないか」と尋ね、太江田室長は「熊本高森線は、今の車線数は確保して計画をしている。自衛隊中通りについては今後設計する中で、地域とも意見交換しながら検討を深めていきたいと思っている。これについては今からだ」と答えた。
10月15日まで4回開かれた説明会、参加者は計165人だった。太江田室長は「意見交換しながら反映できるところは反映させていただく。できないところも、しっかり市の考えを説明して理解を求めていくことかなと思っている」と述べた。
動き出す市電延伸。熊本市は現在、基本設計の修正を行っていて、2024年度中には実施設計、用地測量に入る見通しだ。
地権者との用地交渉は2026年度からの予定としている。
(テレビ熊本)