秋の行楽シーズンを迎え、登山を楽しむ人たちが増えている。その一方で、変わりやすい山の天候や、いざという時に備えた事前の準備不足による山の事故が多発している。短パンに半袖といった軽装で強引に富士山に登り、途中で下山できないなどのトラブルに見舞われる登山者などが大きな問題となっているが、私たちの身近な山でも準備不足が原因の遭難事故が増加しているのだ。
遭難の約7割が事前準備不足
福岡・太宰府市の宝満山。交通アクセスの良さもあり登山者の数は県内で最も多い年間10万人以上という人気の山だ。
この記事の画像(11枚)秋晴れのある日、竈門神社から中宮を通って頂上を目指す片道約2.5キロのコースを山の専門家である日本山岳ガイド協会認定ガイドの奥薗一也さんと一緒に登り、山を登る際の注意点を聞いた。
以前の取材で出会った靴の底が滑りやすいスニーカーやサンダル履きで登山している人たち。山岳事故の件数は、毎年、増加傾向にあり、標高の低い山でも事故は増えている。警察の統計では2023年は、福岡県内の山で71人が遭難し、3人が死亡。宝満山は標高829メートルで、それほど高い山ではないが、昔から修験者の山として知られ、過去には遭難事故も起きているのだ。
水は自分の体重×行動時間×5が目安
午前7時。登山開始。奥薗さんの最初のアドバイスは階段などの登り方。「歩幅は小さく、足の上げ幅も小さく」。山登りのポイントとしてあげられるのが、まず疲れないこと。心拍数を上げないように、ゆっくり歩くことで疲れにくくなるという。宝満山は、階段が多く段差が高いため、特にこのテクニックが必要だ。
奥薗さんのアドバイスに従い、小さい歩幅でゆっくり歩く。奥薗さんの次のアドバイスは、水分補給について。持参する水の量の目安は、自分の体重×行動時間と5を掛けるぐらいだという。例えば、体重60キロの人が5時間行動すると仮定すると、60キロ×5時間×5で1500。つまり1.5リットルくらいが必要となる。適切な水分補給を怠ると酸素が体に効率的に回らなくなり、歩きがきつくなるという。
高カロリーの「行動食」をこまめに
奥薗さんの3つ目のアドバイスはエネルギー補給について。登山の際は、昼の弁当だけでなく「行動食」を小まめにとることが大切だという。5時間登山をした場合、約1800キロカロリーが消費される。そのため登山の際はピーナッツやチョコレートなど高カロリーのものを行動食として用意し、定期的にエネルギーを補給することが持久力アップにつながるというのだ。
4つ目のアドバイスは装備について。奥薗さんの荷物の中には、地図やコンパス、救急キットに雨具など基本的なグッズが入っていたが、特にお勧めなのが「エマージェンシーシート」。着るだけで体温の温存や、風から身を守るのに便利なアイテムだ。シートを羽織った取材班によると、軽い上にかなり温かいという。道に迷って身動きがとれなくなった時などには、このシートを羽織って雨露を凌げる場所でじっと助けを待つのに役立つのだ。
遭難事故の約7割は「道迷い」
登山開始から約3時間。道が分かれている分岐ポイントに差し掛かった。奥薗さんは自分が立った位置で本来の道とは別の方角にも道があるように見える場所は、道に迷うケースが多いと注意を促す。登山ルートから外れ、現在地が分らなくなることで起こる「道迷い」。実は、遭難事故の約7割は、この道迷いが原因だ。登山経験に関係なく、すべての登山者が道迷いを起こす可能性があるという。
もし道に迷った場合、どうすればいいのか?原則は、必ず引き返すこと。それでも来た道が分からなくなった時は、「高い方に登る、稜線に向かって登っていくようにしてもらいたい」と奥薗さんは力説する。
なぜ下に向かっては駄目なのか?その理由は登り道は全て頂上というゴールに向かっているから。反対に下り道は根っこのようなイメージで道が広がっていくため、さらに迷ってしまうことがあると奥薗さんは警鐘を鳴らす。
道迷いをした時に最初にすべきことは、「自分の居場所がどこなのか?現在地の確認ができる場所に行くこと」だという。そのためには「稜線に上がるのが一番良い」と強調した。
そしてようやく頂上に到着。眼下に広がる九州一とも言われる眺めを目にして、取材班の疲れもいっぺんに吹き飛ぶ。「十分な準備をして山に入ると、素晴らしい景色も楽しめる。身近な山であっても普段から気を付けてほしい」と奥薗さんは登山者に向け呼びかけた。
(テレビ西日本)