冬の宮島に大群で押し寄せ、原生林を枯らしてしまう「カワウ」。“黒いギャング”とも呼ばれる厄介な鳥から世界遺産の島を守るため、本格的な越冬シーズンの前に広島県と廿日市市が対策に乗りだした。
今年は早めに、テープで追い払う作戦
一羽の黒い鳥が宮島の周辺をゆっくりと羽ばたいていった。黒い鳥の正体は「カワウ」だ。
この記事の画像(10枚)10月23日、宮島の北東部には県と市の職員の姿が。廿日市市農林水産課・鹿野陽介さんは「宮島に来るカワウはかなり執着心が強いので、今回は来る前にテープを張って嫌がらせを…」と先手を打った。
環境に配慮したテープを幹に巻き、ドローンを使って空からも木々に張りめぐらせた。視覚とテープが風になびく音で、カワウを近づかせない作戦である。2023年シーズンはカワウの数が増えてから対策をとったが、2024年シーズンは未然に被害を防ぐねらいだ。
宮島漁協・丸本孝雄組合長によると、10月中旬ごろからカワウの数は徐々に増えてきているという。
酸性物質含む“フン”が自然を破壊
なぜ対策を急ぐのか。その理由は、カワウの爪痕が色濃く残る「寝床」にあった。
カワウが最初に寝床にしていた場所は、まるで木を伐採したような状況になっている。枯れた木が折れ、断面は朽ち果てギザギザに。これは、カワウのフンに酸性の物質が含まれるためだ。
2023年12月、取材に訪れた五十川裕明記者は寝床から飛び立つ“黒い大群”を目撃している。
「一気に飛んだ、飛んだ、飛んだ!夕日に染まった空に数えきれないほどの黒い点が、羽をパタパタとさせて飛んでいきます。うわー、すごい量だ」
カワウにとって、冬場もエサの魚が豊富な瀬戸内海は「越冬」に適した場所。そのため関西方面などから多く飛んできて、宮島は県内最大の“カワウの寝床”と化した。ここ数年、12月以降をピークに推定で数千羽が押し寄せるようになった。冬場だけとはいえ数千羽のカワウが居座ると、フンに含まれる酸性物質によって原生林は枯れてしまう。さらに海の魚も食べ尽くすことから“黒いギャング″とも呼ばれている。
対策は急務「今やらないとまずい」
自然豊かな宮島は、風の影響を受けにくく鳥が羽を休めやすい環境がそろっているという。
今回の対策では、少しでもカワウに気づいてもらえるよう海側の2箇所、計500メートルにテープを張りめぐらせた。鹿野さんは「海側から帰ってくるときに一番目立ちやすい先端にテープをつけるようにしました」と話す。
宮島漁協の丸本組合長は「継続してやってもらえたら助かる」と対策に期待を寄せる。宮島は島全体が特別史跡などに指定されているため、許可なく樹木を切ったり捕獲することはできない。法的な縛りがある中で継続的な対策が求められる。
鹿野さんは「見ての通り山肌が崩れてきている。なんとか防いでいかないと…。奥の大きな木も崩れていくので、今やらないとまずい。カワウが来なかったら一番ベストな対策ができたと思うので、それを目指しています」と危機感をあらわにした。
(テレビ新広島)