福岡・久留米市で2023年9月、小学校の女性教諭が夫に殺害されたとされる事件の裁判員裁判で、被告である夫に懲役16年の実刑判決が言い渡された。
2024年10月21日。俯きながら入廷した長髪の男。殺人と死体遺棄の罪に問われている無職・渡邉司被告(42)だ。

この裁判では被害者の死が、殺人か自殺か?その判断が注目されたが、福岡地裁は、被告の主張を退けた。
亡くなった女性は小学校の教師
事件が発覚したのは2023年10月19日。「姉が亡くなっているようだ」と被害者である渡邊彩さん(当時35)の弟から110番通報があり、警察が室内に横たわった状態で死亡している彩さんを発見した。当時、渡邊被告は家にいて、9歳の長女と5歳の長男は、渡邊被告の実家に預けられていたという。

彩さんは、当時、福岡・久留米市内の小学校に勤務し6年生の担任を受け持っていた。久留米市教育委員会によると、彩さんが最後に小学校に出勤したのは2023年9月20日。翌21日から学校を休み、この日、学校に渡邊被告から「妻の体調がすぐれず、2日ほど休ませてほしい」という内容の連絡が来ていたという。
ただ、その後も休みが続いたため、小学校から家に連絡したり、自宅を訪問したりしたが、彩さんには会えずじまい。渡邊被告とは電話や直接会うこともあったが「妻は体調がすぐれない」という説明を繰り返すだけだったという。
小学校は2023年9月末、教育委員会に対し「原因が分からない休みが続いていて、本人と連絡もとれていない」と相談していた。そんな矢先、彩さんの夫、渡邉司被告が逮捕され、その後殺人と死体遺棄の罪で起訴されたのだ。
「妻は自殺した」‟殺人”か‟自殺”か
2024年9月、殺人罪についての初公判で渡邉司被告は「私は妻を殺害していません」と死体遺棄の罪は認めたが、殺人については「妻は自殺した」と無罪を主張した。
10月2日の被告人質問では、検察側の「彩さんは自殺と思っている?」という問いに対し、渡邊被告は「そう思っています」と答えた。

さらに検察側が「遺体への蘇生措置はしなかったのですか?」と質問すると渡邊被告は「顔をパチパチ叩いたと思います。髪を引っ張ったり体をゆすったりしたのは、怒りだったと思います。長い間さんざん振り回して勝手に死んで逃げやがって妻の自分勝手さに怒っていたと思います」と亡くなった妻への怒りを口をにした。
マンション購入めぐりトラブル
検察側は、マンションの購入資金を巡り夫婦間で金銭トラブルがあったことなどを挙げ、彩さんに自殺する動機はないと主張。10月9日の論告求刑公判では「遺体の状況などから他殺の可能性が極めて高い」とした上で、「強固な殺意に基づく残忍な犯行で悪質」として懲役18年を求刑した。

10月21日の判決公判で福岡地裁の岡本康博裁判長は、被告が事件の発覚を防ぐため被害者の家族に被害者の死亡を隠していたことなどを踏まえ、「経過は悪質で刑事責任は重い」と批判。
多額の投資信託があるという被告の嘘が原因でマンションの購入がうまく進まず、夫婦間で口論となっていたとして、「突発的ではあるものの、強固な殺意に基づく危険性の高い犯行」と述べ、争っていた殺人の罪を認定。渡邉被告側の主張を退け懲役16年の実刑判決を言い渡した。
判決後、渡邉被告の弁護人は「予想外の判決。被告人と話して控訴するか決める」とコメントした。
(テレビ西日本)