新型コロナウイルス禍の今、食料の宅配を通して子どもたちの生活を守る「子ども宅食」の役割に注目が集まっている。こうした中、「子ども宅食」への理解を深め、政府の支援を増やそうと、自民党の有志議員が議員連盟を立ち上げた。

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「子ども宅食」とは?「子ども食堂」は3密で運営困難化も

「子ども宅食」とは、経済的に困窮する家庭の子ども向けに食料を無償で宅配する仕組みのことで、各地で取り組みが行われている。

近年、ひとり親家庭などにおける「子どもの貧困」が社会問題として指摘されるが、新型コロナウイルスの影響で家計が急変し、生活費の不足する世帯が増えており、こうした家庭環境にある子どもたちの支援が喫緊の課題だ。

一方で、これまで子どもたちを集めて食事を提供する「子ども食堂」の取り組みが普及しつつあったが、「3密」を招きかねないため運営が難しくなっているという現象も起きている。

こうしたコロナ禍の今だからこそ、外出せずとも家庭に定期的に食料が届く「子ども宅食」への期待が高まっている。「子ども宅食」は地方自治体の事業として行われているケースが多く、NPOや食品会社・運送会社などの民間企業などと連携して、コメや缶詰、ジュースなど保存の効く食品を届けている。食品会社等の協力を得て、フードロス削減の効果を持つ事業もあるという。

自民党の長島昭久衆院議員
自民党の長島昭久衆院議員

もしかしたら「子どもの貧困」という言葉は縁遠いものに感じられるかもしれないが、議連の事務局長を務める自民党の長島昭久衆院議員は、一般的に大人と比べ「『子どもの貧困』は見ただけではわかりにくい」と警鐘を鳴らす。普通に学校に通っているように見える児童でも、実は家庭が困窮し、朝晩は十分な食事を摂れないでいる可能性もあるのだ。

食料を届けて見守りも…セーフティーネット機能も

また長島氏は、「子ども宅食」の役割は、単に食料品を届けることに留まらないと解説する。

特に現状のようなコロナ禍においては、必要に応じて外出自粛が呼びかけられるため、家庭における親子の時間が急に増え、ついつい“手が出てしまう”などの虐待行為が増加しかねないのだ。また、家にこもり外部とのつながりが減る中で、万が一トラブルがあった際のSOSを出す機会も限られてしまう。

よって、困窮する家庭は一層孤立してしまうほか、周囲が気づかないまま家庭環境が急変する世帯も出てきてしまうリスクがある。さらに、コロナの対応で保健所をはじめとする地方の行政機関は、いわばパンク寸前の状態となっていて、子どもが被害者となる家庭内のトラブルを把握する機会が減っているのだという。

そこで長島氏は「『子ども宅食』で家庭に出向き、定期的に家庭の状況を知ることで、リスクの芽を感知し、必要な支援につなげることが出来る」と強調する。行政には様々な相談窓口が用意されているが、親の方から相談に赴く必要があり、家庭環境の急変した世帯などは“周りの目”を気にして助けを求めないこともありうる。

かたや「子ども宅食」の場合は、食料を定期的に届けながら、家庭の状況を聞いたり、相談に乗ったりすることが出来る。すなわち、「子ども宅食」は生活支援に加え、虐待等を防ぐセーフティーネットの機能も併せ持つ「一石二鳥」の仕組みなのだ。

政府の子ども宅食への支援の強化を

現在、自治体が行う「子ども宅食」に対し、政府はコロナ対策の一環で今年度の第2次補正予算に「支援対象児童等見守り強化事業」を計上し、上限付きで全額補助を行っている。ただ、こうした政府の支援には2つの課題がある。

1、自治体による申し出がないと補助がもらえない

2、補助は今年度補正予算の1度きりで来年度以降の支援が決まっていない

そこで、今回立ち上げられた議員連盟では以下の2点を目指している。

1、政府の「全額補助」を活用してもらえるよう全国の自治体への普及啓発

2、「子ども宅食」への政府支援の恒久化(来年度予算への計上)

自民党の稲田朋美幹事長代行
自民党の稲田朋美幹事長代行

21日に行われた議連の発起人の会合では、代表発起人を務める自民党の稲田幹事長代行が「コロナで最も影響を受けているのは生活困窮家庭であり、中でもひとり親家庭だ」と訴えた上で、「子ども宅食の議連を立ち上げることで、今まだ手を挙げていない地方自治体にも手を挙げてもらって、そしてこの子ども宅食の取り組みが補正だけではなく恒久的な事業になるようにがんばりたい」と意気込みを語った。

議連の今後の動きと課題

議連は27日に、先進的な取り組みを行う地方自治体やNPO団体の長を招いて正式な設立総会を開催し、今後の具体的な活動内容などを決めていく予定だという。子ども宅食を取り巻く課題として、前述した予算面のほか、個人情報の扱いや提供した食料をめぐる法的責任の問題などが挙げられる。また長島氏によると、政府備蓄米の子ども宅食における活用など、検討課題は多々あるという。

今、日本では子どもの約7人に1人が貧困状態だ(2019年国民生活基礎調査)。コロナ禍の今、食料を家庭に直接届ける「子ども宅食」は、子どもたちの生活を助け、虐待等から守る切り札となれるか。自民党の議連は政府の政策決定に大きな影響力を持ちうるため、今後の動向に注目したい。

(フジテレビ政治部 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部