子育て支援で過疎化を食い止めたい広島・府中市。保育料の無償化や医療費補助の拡充など独自政策を次々と打ち出し、若い世代の「移住」を促している。多くの財源を投入して、子育てしやすい街づくりへ舵を切った。

保育園に通う0~2歳児72%に増加

少子化が課題となる中、広島県が子育て世代に行った調査。「もう1人、出産や子育てをしようという意思決定につながる支援はなんですか?」という質問に、「経済的負担の軽減」の回答が一番多く約40%を占め、次いで「共働きで子育てしやすい職場環境整備」「身体的負担軽減」「心理的負担軽減」が続く。こうした子育て世代の希望をかなえようと独自政策を打ち出している広島・府中市に注目した。

府中市で4人の子を育てる石風呂佳奈さん。朝、泣きじゃくる0歳の子を抱っこして保育園へ。「おはようございます。先生、涙、涙で…」
2024年4月から末っ子の謙芯(けんしん)くんを保育園に入れて働き始めた。石風呂さんは、3人目の來桃(くるみ)ちゃんが医療的ケア児だったことをきっかけに介護資格を取得。週に2回、ヘルパーの仕事をしている。きっかけは、府中市が0~2歳の保育料を無償にしたことだった。

医療ケアが必要な來桃ちゃん(左)も同じ保育園
医療ケアが必要な來桃ちゃん(左)も同じ保育園
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石風呂さんは「何にしても物価が上がってきている中、パート代がすべて保育料に飛んでしまうということで家庭で保育していたんですけど、保育料が無償になるというのは本当にありがたい話で社会復帰する大きな一歩になりました」と話す。

広島県内で独自に0〜2歳児の保育料を無償化した自治体
広島県内で独自に0〜2歳児の保育料を無償化した自治体

国は2019年から3歳以上の幼児教育・保育の無償化を実施しているが、0~2歳児は手つかずのまま。広島県内で自治体独自に保育料を無償化しているのは、2024年8月末時点で府中市、世羅町、神石高原町のみである。府中市健康福祉部・山田資子こども政策担当部長は「府中市は共働き家庭が多く、特に低年齢の保育料が高いという声もありましたので、経済的支援をさせていただいております」と話す。

県の調査では、少子化対策に効果的だと思う公費負担について「大学に必要な費用」に続き「保育料」が2番目に多くあがった。

府中市によると、無償化を始めた2024年4月以降、市内の0~2歳児の72%が保育園に通っていて増加の傾向だ。あわせて、独自に保育園の給食費無償化も導入した(主食の白ご飯を除く)。

子育て支援で過疎化を阻止

なぜ、ここまで子育て支援に力を注いでいるのか?

人口約3万5000人の府中市。この10年間で約6300人減り、人口減少は加速している。対策として、2023年から子どもの医療費補助を18歳まで広げるなど子育て支援に力を入れ、若い世代に“移住”を呼びかけて「安心して子育てできる街」へ舵を切ったのだ。

市内中心部にある商業施設「府中天満屋」。人が集まるこの場所に2021年、子育て世代向けの遊び場とともに「子育てステーション」を設けた。

府中市の子育てステーション「ちゅちゅ」
府中市の子育てステーション「ちゅちゅ」

通常は役所でする母子手帳の交付や乳幼児向けのイベントもこの施設で行い、妊娠期から子育て期まで過ごせるよう工夫されている。遊び場だけではない。施設内に「健診室」が設けられていて、生後4カ月以降は医師による集団健診を受けられる。また、保育士や保健師などの専門家が常駐しているためいつでも相談可能だ。

独自の“プレゼント大作戦”にも力を入れている。4カ月健診で、お父さん・お母さんと一緒に読んでほしい絵本を2冊プレゼントする「ブックスタート」。3歳児健診の時には6冊の絵本の中から2冊を選べる「セカンドブック」。

さらに府中市が“木工の町”である特性を生かして、10カ月健診時のプレゼントに「ありがとうつみき」というオリジナルの積み木を作った。そのほか、妊娠8カ月ごろに行う「ゆりかご面談」でおむつケーキなどお祝いの品を渡し、2歳未満の子どもがいる家庭にはおむつを捨てるためのごみ袋まで無料で配布している。

もう1人出産に「前向きな気持ち」

妊娠期から3歳まで節目ごとに子育てステーションを訪れる機会を設け、孤立を防ごうと企画されたプレゼント大作戦。

府中市で子育てをする母親は「よく来ています。ほかの地域から引っ越してきて知り合いもいない状態でここに住んでいるから、こういった場があって良かったなってすごく助けられています。府中市は子育てしやすい街だと思います」と話す。

別の母親は「ほぼ毎月、1週間以上は来させてもらっていて、ものすごく助かっています」と言い、支援が充実しているともう1人産もうという気持ちになるか尋ねると「前向きな気持ちにはなれるかなと思います」と答えた。

一方で課題もある。2024年度、府中市の子育て支援にかかる予算は一般会計の260憶1000万円のうち約21億8000万円で約8%を占めている。財源の多くは国や県の補助金を利用しているが、足りない部分は過疎対策事業債など国からの借入もあり、いわば将来子育て世代が増えるための投資をしている状態。

山田こども政策担当部長は「『子育てするなら府中市』をスローガンに、府中で子育てできて良かったと皆さんに実感していただきたい。大きくなってまた府中市に帰ってきてもらえるような子育て支援を続けていきたい」と話す。

地域ごとに独自性を打ち出し、どんどん充実する子育て支援。人口減少を食い止めるため、結果が求められる自治体の挑戦は始まったばかりだ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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