米大統領選挙は大接戦の中で、勝敗の行方を決しかねない一人の選挙人の確保をめぐって、ハリス、トランプ両陣営が舞台裏で暗躍していたことが明らかになった。
ネブラスカ州も「勝者総取り」に…トランプ陣営が画策
米国の大統領選挙は、まず一般投票で50州と首都ワシントンに人口に比例して割り当てられた合計538人の選挙人を選出し、その選挙人が最終的に当選者を決する仕組みになっている。選挙人は州単位の一般選挙で勝った候補者が総取りするが、中西部・ネブラスカ州と東部・メーン州だけは一般投票に比例して選挙人を配分する方法をとっている。
ネブラスカ州の場合には州全体に5人が割り当てられているが、それを同州最大都市オマハのある第2選挙区の勝者に1人、その他の州全体の勝者に4人の選挙人が与えられる。前回2020年の大統領選挙の場合ならジョー・バイデン氏が第2選挙区を制して選挙人1人を獲得する一方、ドナルド・トランプ大統領(当時)が4人の選挙人を獲得した。
この記事の画像(4枚)全国の選挙人が投票する最終的な選挙ではバイデン氏が勝利したわけだが、2024年の選挙が接戦になるという見通しの中で、トランプ陣営はこの1人も「勝者総取り」方式で入手すべく、ネブラスカ共和党に州法を改正するよう強く働きかけてきた。
共和党の有力者で、トランプ前大統領の友人でもあるリンジー・グラム上院議員(サウスカロライナ州選出)がネブラスカ州を訪れてロビー活動を行った。
その結果、一時はネブラスカ州の州法の変更に必要な州議会議員の3分の2の賛成を得られる勢いになったが、最終局面で州上院共和党のマイク・マクドネル議員が翻意して法改正の見通しが立たなくなり、同州のジム・ピレン知事(共和党)は24日、法改正を断念すると発表した。
ハリス陣営が“市長選での支援”を約束
マクドネル議員はもともと民主党員で、2024年4月に妊娠中絶問題をめぐる意見の不一致から共和党に鞍替えしたばかりだった。そこで同議員をよく知る民主党側は、議員が断れない条件を示して説得したようだ。
Political analysts are keeping a close watch on Nebraska’s 2nd District. Recent private polling shows Kamala Harris leading Donald Trump by 9 points in the district. https://t.co/O8P2oPh4Mp
— NBC News (@NBCNews) September 27, 2024
その裏話を伝えたNBCニュースのウェブサイト27日の記事によると、ネブラスカ民主党のジェーン・クリーブ議長は、マクドネル議員が法改正に反対するならば、同議員が望んでいるオマハ市長選で民主党が党派を超えて支援すると約束したという。
オマハ市では、現職のジーン・ストーサート市長(共和党)が4選を目指して立候補を表明しており、共和党に転じたマクドネル議員は党の公認も得られない。しかし民主党が同議員を全面的に支援し、カマラ・ハリス副大統領と共闘できれば極めて有利になることが計算できる。
“共和党の大統領”に“民主党の副大統領”は回避?
結局、ネブラスカ州の選挙人の任命方式は変更されないことになったわけだが、これを受けてニューヨーク・タイムズ紙がネブラスカ州第2選挙区で世論調査を行なった。その結果、ハリス副大統領52%、トランプ前大統領43%で、副大統領が選挙人1人を確保することが確実視されることになった。その意味を同紙電子版28日の記事はこう解説している。
「現在の選挙情勢下で、ハリスがネブラスカ州第2選挙区で1人の選挙人を獲得することは、大統領選挙の勝者を決することにもなる」
2024年の大統領選挙は、いわゆる「スイング・ステート(揺れ動く州)」7州の行方次第という情勢になり、各種世論調査の結果、7州中南部のジョージア州など4州はトランプ前大統領が、「ラストベルト(錆びた工業地帯)のペンシルベニア州などはカマラ・ハリス副大統領が有利という情勢が見えてきた。
これを選挙人総数で見ると、ハリス副大統領270人対トランプ前大統領268人となり副大統領が勝利するが、これはネブラスカ州が従来通りの方式でトランプ前大統領に選挙人4人を、ハリス副大統領に1人を与えるという前提で計算されたものなのだ。
もし、ネブラスカ州が「勝者総取り」でトランプ氏に5人、ハリス副大統領に配分されないことになると、両陣営が獲得する選挙人総数は共に269人になる。この場合、合衆国憲法修正12条は米下院で各州代表が各1票を投じて大統領を決し、上院では議員が各1票を投じて副大統領を決めると定めている。
現在米議会では、下院では共和党多数が26州、民主党多数が22州、同数2州でトランプ前大統領が選出されると考えられる。一方上院では共和党議員49人、民主党議員48人だが、この他に3人の無所属議員がおり、そのうち2人は民主党と投票行動を共にしているので、副大統領は民主党のティム・ウォルズ氏になる。
一つ間違えれば、共和党の大統領に民主党の副大統領という事態にもなりかねなかったわけで、2024年の大統領選の緊迫した情勢を象徴するようなた出来事とも言えるだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】