品薄、そして価格高騰。日本の米作りの現場で何が起きているのか。「令和の米騒動」の真実とは?

【動画】「米が戻ってきた」でも価格は例年の約1.5倍 不安から買いだめる「パニック買い」連鎖

■ついに新米が入荷!買いに来た客は「正直高い」

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9月17日、大阪市内のスーパー。新米が入荷され、お米が売り場に戻ってきた。待ちに待った“新米”だ。

しかし値段は、高い。

フレッシュマーケットアオイ 石上一隆店長:例年に比べるとやっぱり高くなっておりまして、今後の見込みとしても、ちょっと今のところ下がりそうにないのが正直な感想。(5キロあたり)1000円以上は高い。

米を買いに来たお客さんは…。

買い物客:値段、正直高いですね。3000円も出して、5キロしか買えないのは寂しいね。

買い物客:最近、子供たち、米がなくて『ご飯ほしい』って。ずっとパスタだったので。売っているのも『アメリカ産』とか。ようやく新潟(産)とか出てきたので、買おうと思って。

買いたくても買えなかった。そして、価格も高くなった。

主食の米に、私たちはいつまで振り回されるのだろうか。

■代表的な品種「コシヒカリ」は暑さに弱い

新米の季節ということで、関西の米どころである京都・与謝野町へ向かった。日本の米作りの現場で何が起きているのか。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:ちょっと収量が少ないかも分からんで、これは。

コシヒカリのブランド米「京の豆っこ米」を育てる、米作り名人の小谷安博(おだに・やすひろ)さん(67歳)。

日本の作付け面積の3割を占めるコシヒカリは、暑さに弱いのが欠点だ。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:穂が短い。穂が長いと沢山ついとるわけでな。こうべを垂れるみたいにダラ~っとなってくれたら…。なってないやろ。ダラ~っと、こうなったら、ようけ(たくさん)あるわ。

今年の猛暑に、さすがの名人も参っていた。

乾燥させた後、籾(もみ)を取る作業をしてみると、「コシヒカリ」としては出荷できない“くず米”が次々と…。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:これがカメムシの被害。赤いのは“ヤケ米(着色粒)”。

小谷さんが収穫した米のうち、1割がくず米に。暑さゆえに、質のいい米の収穫量が減ってしまうのだ。

ここまで収穫量が減ってしまったわけは?

Q.白い点々は何ですか?

コシヒカリ農家 小谷安博さん:花ですね。米の花(おしべ)。

8月、稲の穂が出てくる出穂期(しゅっすいき)と呼ばれるこの時期は農家にとって、収穫を左右する緊張の時。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:出穂してから2週間くらい高温になると、米の品質が悪くなったり、収量が減ったりするんですけど、今年はどうでしょうね。

この日、豊岡の1日の平均気温は30.8度。出穂期は、1日の平均気温が27度以下になるのが理想とされているが、近畿地方では難しいのが現状だ。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:あ~…大変だわ!人が家の中でクーラーの部屋でテレビ見とる。今年だったらオリンピック、普通だったら野球。この時期に一生懸命せんと。

田植えの時期をずらしてみるなど、気候の影響を最小限に抑えようと試行錯誤を重ねるものの、有効な手立ては見つかっていない。

それでも、くず米を除いたお米が炊き上がると…。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:いただきます。おいしい!新米の香りがするわ。

そして、思わぬ影響も。去年の米不足から、需要と供給のバランスが崩れたことで今年、新米の取引価格は全国的に上がったのだ。

小谷さんの育てたコシヒカリ「京の豆っこ米」は、去年の1.5倍の価格で出荷できた。

コシヒカリ農家 小谷安博さん:ありがたい。去年のままだったら赤字じゃないですか。収量は少ない、価格も低いといったら赤字です。

その結果、消費者にとって、品不足の後に待っていたのが、突然の高騰。

われわれはどこまで翻弄されるのだろうか?

■「米騒動という言葉を安易に使うことに違和感」と専門家

農業経済学者で、「日本の米問題」を研究する小川真如さんに、関西テレビの吉原キャスターが聞いた。

関西テレビ 吉原功兼キャスター:『令和の米騒動』といわれていましたが、どう捉えたらいいのでしょうか?

農業経済学者 小川真如さん:研究者としては、『米騒動』という言葉を安易に軽々しく使うことに、非常に違和感はありました。

「米騒動」といえば、第一次世界大戦をきっかけとした買い占めで、全国各地での暴動に発展した「大正の米騒動(1918年)」と、冷夏による不作から起きた「平成の米騒動(1993年)」の2つがあった。

そして、国は「平成の米騒動」をきっかけに、米を備蓄するようになったのだ。

農業経済学者 小川真如さん:お米がなくなって、苦労した家庭・個人はたくさんいると思うが、日本全体だとか、これまでの日本の歴史を振り返った時に、本当に『米騒動』といえるものだったのかというと、そこまで大きな社会的な混乱ではなかったのではないかと。

関西テレビ 吉原功兼キャスター:お米が採れる量自体はどうでしたか?

農業経済学者 小川真如さん:(去年の)生産量が少し落ちたということもあるが、国全体で見れば『お米は足りている』という結果になる。

お米は年1回、秋に収穫するため、その直前の夏に品薄になりやすいが、まさにそのタイミングで大きな地震が起きた。

初めて「南海トラフ臨時情報」が出され、さらに“史上最強クラス“といわれる台風10号の接近で、多くの消費者が不安から買いだめる“パニック買い”が連鎖した。

結果、棚から米が消え、家庭に備蓄されているだけだという。

スーパー「フレッシュマーケットアオイ」の米の売り上げを見てみると、南海トラフ臨時情報が出た際、売り上げが急増。しかし、すぐに在庫は底をつく。その後、新米が売り場に入ってくるとすぐに売れて、品薄になる状態を繰り返した。

さらに小川さんは、収穫が年に1度しかない、米業界特有の構造も指摘する。

外食産業に加え、みそや煎餅などに米を使う加工業者などは、早い段階で「今年は米が足りない」と気づき、すでに争奪戦をしていたそう。

農業経済学者 小川真如さん:消費者が一番弱いんですよ、立場としては。スーパーからお米を買うだけっていう家庭は、いつも行っているスーパーが米を契約してて手に入っているかっていうことになる。お米の争奪戦に一番乗り遅れたというか、遅れざるを得なかったのが一般の消費者。

価格が上がった上に、すでに買いだめしている家もあることから、今年は“値崩れ”する可能性もあるとのこと。

そして、この騒動から学ぶことも。

農業経済学者 小川真如さん:『お米の価格って本当にこれでいいのかな?』とか、単純な商品のやりとりとして支払うお金ではなくて、その先には生産者がいて、そのお金で生活が成り立っている。これを機会に日本のお米だとか、あるいは日本農業全体のこととかも、考えてみるきっかけにしてもらえたら。

「令和の米騒動」は、日本人の主食として欠かせない米とどう付き合うのか、われわれに突きつけたのかもしれない。

(関西テレビ「newsランナー」2024年9月17日放送)

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