米大統領選挙は、いわゆる「スイング・ステート」7州で「天王山の戦い」が展開される形勢になり、ハリス、トランプ両陣営が集中的にこの7州に資金や人材を投じてキャンペーンを繰り広げ始めた。

「スイング」7州 過去の勝敗、各州の争点は

米大統領選挙は、50州+ワシントンDCでの投票で勝者がその地区に割り当てられた選挙人を「総取りする」という仕組みで行われる(ネブラスカ州とメーン州は得票比配分)。しかし、多くの州では民主、共和両党の支持者が固定化されていて勝敗が予測できるので、本選挙の勝敗は選挙ごとに結果が揺れ動く、一部のいわゆる「スイング・ステート」次第ということになる。

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2024年の選挙でも、大票田のカリフォルニア州やニューヨーク州など19州は民主党のカマラ・ハリス副大統領、中西部に多い保守的な25州などは共和党のドナルド・トランプ前大統領が勝利することが今から予測できる。

それで両陣営が確保できる選挙人は、ハリス副大統領226人、トランプ前大統領219人となり、残る7州、選挙人で93人の行方次第で本選挙は決するという形勢が明らかになってきた。(USニュース&ワールドリポート電子版8月27日、BBCニュース8月23日)

このため、ハリス、トランプ両陣営はこの7州で集会を重ね、選挙資金の大半をこの7州でのテレビCMなどに費やし始めているという。

その7州は次の通りとなっている。(※カッコ内は割り当てられた選挙人数)

⚫️アリゾナ州(11)
長年共和党候補が勝利し、2016年もトランプ氏が勝ったが2020年にはバイデン大統領が民主党候補としては今世紀初めて勝利した。メキシコと長い国境を接しており、不法移民の流入が争点に。「国境皇帝」に任命されたと言われるハリス副大統領の移民政策に対する姿勢が問題になるかもしれない。

⚫️ジョージア州(16)
前回2020年にバイデン大統領が民主党候補として28年ぶりに勝利。人口の3分の1が黒人で、ハリス副大統領も遊説では黒人訛りで演説して話題になったが、黒人人口の投票率が勝敗を左右するとも考えらる。

⚫️ミシガン州(15)
伝統的に民主党の地盤と考えられてきたが、2016年にトランプ氏が勝利。2020年にはバイデン大統領が勝った。いわゆる「錆びついた地帯(ラストベルト)」の中心地で勤労世帯が多く、経済問題が有権者の最大の関心事。また、米国でアラブ系住民が最も多い地域で、イスラエルによるガザ地区への侵攻をめぐる問題も投票に影響するかもしれない。

⚫️ネバダ州(6)
2020年のバイデン大統領、2016年のヒラリー・クリントン候補など過去4回の大統領選挙でいずれも民主党候補が勝利した。しかし共和党候補との差は縮まりつつある。人口の3割がヒスパニック系だが、住民は移民問題よりも経済問題特に物価問題を重視していることを世論調査の結果が示している。

ノースカロライナ州で演説するハリス氏(2024年8月)
ノースカロライナ州で演説するハリス氏(2024年8月)

⚫️ノースカロライナ州(16)
保守的な地域で、前回2020年はトランプ氏が得票率1.3%の差で勝利したが、民主党は「青い州(民主党常勝の州)」にすべく力を入れている。一方トランプ氏も、暗殺未遂事件の後に最初の野外集会の場所に選び「この州で勝つことはとても、とても大事だ」と強調している。

⚫️ペンシルベニア州(19)
7州の中で最大の選挙人数が割り当てられ、この州の勝利が本選の結果に大きく左右するので両陣営が特にキャンペーンに力を入れている。同州の食料品の物価はどこよりも上昇率が高く、地域によっては住民の8人に一人が「食糧危機」の状況で、経済問題が有権者の最大関心事。最大都市のピッツバーグは、日本製鉄が買収をはかるUSスチールの所在地。

ウィスコンシン州ミルウォーキーで行われた共和党大会(2024年7月)
ウィスコンシン州ミルウォーキーで行われた共和党大会(2024年7月)

⚫️ウィスコンシン州(10)
もともとは民主党が強い「青い州」だったが2016年にトランプ氏が勝利した。2020年にバイデン大統領が奪い返したが、民主、共和両党とも自陣への確定を目指して今回もキャンペーンに力を入れている。また共和党は2024年の党大会を同州のミルウォーキーで開催した。

最新の世論調査の結果は“拮抗”

これらの州の情勢だが、最新のニューヨーク・タイムズ/シエナ大学の共同世論調査では次のようになっている。(※9月8日に公開された世論調査の結果)

アリゾナ州     トランプ氏48% ハリス氏48%
ジョージア州    トランプ氏48% ハリス氏48%
ミシガン州     ハリス氏49%  トランプ氏47%
ネバダ州      トランプ氏48% ハリス氏48%
ノースカロライナ州 トランプ氏48% ハリス48%
ペンシルベニア州  ハリス氏49%  トランプ氏48%
ウィスコンシン州  ハリス氏50%  トランプ氏47%

文字通り拮抗しているわけだが、前回2020年の場合、アリゾナ州ではバイデン大統領が得票率0.3%(得票数で10457票)の僅差で勝利しており、今後小数点以下の変化も見逃せないことになるのだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン・図解:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。