7月の実質賃金は、ボーナスや政府補助金が寄与して前年(2023年)同月比0.4%増加し、2カ月連続でプラスを記録した。専門家は、賃上げが経済成長を刺激し、内部留保で循環していないお金の流れを改善する第一歩になると指摘している。

実質賃金2か月連続プラスも維持なるか

物価の上昇を反映した7月の実質賃金が、2カ月連続のプラスとなった。

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厚生労働省が公表した7月の毎月勤労統計調査の速報値では、働く人一人当たりの現金給与総額は、40万3490円で、前の年の同じ月から3.6%増えた。

このうち、基本給などに当たる所定内給与は26万5093円で前同月比+2.7%、ボーナスなど、特別に支払われた給与は11万8807円で同+6.2%、いずれも増加した。

また、物価変動を反映した実質賃金は前の年の同じ月から0.4%増加して、2カ月連続のプラスとなった。

厚労省は「6月に続き、ボーナスが実質賃金を押し上げる結果となった。物価高が続く中で、プラスを維持できるか注視したい」としている。

企業の内部留保は過去最高も循環停滞

「Live News α」では、大阪公立大学・客員准教授の馬渕磨理子さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
実質賃金がプラスということですが、いかがですか。

大阪公立大学・客員准教授 馬渕磨理子さん:
このプラスが続くかどうか、しっかりと見極めたいところです。2カ月連続での実質賃金の上昇は、ボーナスなどの「特別に支払われた給与」の上振れによるところが大きいです。

また、政府が復活させた電気・ガス料金の補助金制度の影響もあります。「賃上げが継続的に続くこと」と、「物価上昇が緩やかに」なること、この2つが続いていく経済運営が必要です。

堤キャスター:
賃上げを行う企業の経営状態は、どうなっているのでしょうか。

大阪公立大学・客員准教授 馬渕磨理子さん:
法人企業統計調査を見ると、売上高、経常利益、設備投資、全て過去最高となっています。

さらに企業内に蓄積された利益を示す内部留保も600兆円に上り、そのうち、現金で約300兆円保有していて、これも過去最高です。

今、家計の金融資産もまた、2100兆円で過去最高となっています。企業も家計も、稼いだお金は、内部に貯め込み、何かあった時のために備えるマインドが現れています。   

多くの「お金」が、日本国内にあります。ただ、それが同じ場所にお金を置き続けていて循環していないことが問題です。賃上げは日本の構造を刺激して、お金が回っていく大きな第一歩となるはずです。

確実な対話が賃上げ継続を支える

堤キャスター:
そのお金が回っていく、きっかけになる賃上げを進めていくためのポイントは?

大阪公立大学・客員准教授 馬渕磨理子さん:
日本経済がしっかりと成長していく、希望が持てることが大切で、それには、やはり国の舵取りがポイントになります。   

企業は、日頃から丁寧に投資家とコミュニケーションをすることで、何かを成し遂げたいとき、何かリスクが起きたとき、円滑に意思が通じるように「コミュニケーションコスト」を重視しています。

国や総理、日銀も同じだと思います。前向きな政策を進めるには、その言葉が国民にしっかりと届くことが求められます。

日本が、実質賃金がプラスに浮上し、継続的な賃上げが続く世界を作っていくには、政治における「コミュニケーションコスト」の意識が、今よりも必要だと思います。

堤キャスター:
生産性を上げつつ、賃上げと物価高への対策を同時に進めていく。それぞれが心豊かに生活できる環境をどう作っていくのか。国も、企業も、それが問われています。
(「Live News α」9月5日放送分より)

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