炎天下の農業ハウス。みるみる温度が上がり、午前9時半ごろには42℃を超えていた。ハウスの中はサウナ状態だ。10年に一度の暑さと言われた2024年の夏、広島県内の農作物にも連日の猛暑の影響が出ている。
夏野菜もダウンする過酷な暑さ
広島市安芸区にある小松菜を栽培する農業ハウス。
この記事の画像(13枚)午前10時にもなっていないが、ハウス内の温度はすでに42℃を超えている。まるでサウナに入っているような暑さだ。
気象庁のデータでは、7月21日~8月17日の平均気温は広島県を含め国内のほとんどの地域で平年を2℃以上、上回った。
県を代表する夏野菜の「小松菜」は葉物野菜の中でも暑さに強いが、葉が黄色くなるなど猛暑の影響が出ている。この農場を運営する安芸きりんファームの永木聡園長は「暑さで枯れた葉は元に戻らなくて黄色くなります。生育状況も伸びが悪かったり、水が吸えない状態になっています」と話す。
さらに、のしかかる労働環境の問題。この農場では、野菜を詰める作業場に業務用のクーラーを設置した。従業員にはファンが搭載された空調服も支給している。暑さ対策には経費がかかるが、永木園長は「今後もかけていくべきものだ」と考えている。しかし、広い農業ハウスの中までは対応しきれないのが現状。作業時間を早朝や夕方にするなど工夫しているが、熱がたまったハウスの温度はなかなか下がらない。
「早朝や夕方の時間帯でも30℃を下回ればいいほう。1時間か2時間くらいしか農業ハウスの中では作業ができません」と永木園長。厳しい暑さの中で体調を気づかいながらの作業が続いている。
暑さ対策に先行投資?ミスト機械導入
農業ハウス内の温度を下げる機械を、メーカーと共同で作った農家もある。
広島市安佐南区でパセリを栽培する島本農園。「祇園パセリ」のブランドで県内外から高い評価を受けているが、ここでも作物への被害が出ている。農業ハウスに入った矢野寛樹記者は温度計を見て「41℃か42℃あります」と報告。じっとしていても汗が噴き出る暑さだ。
島本農園の今村太洋さんは、パセリを手に取り「温度が高くなると葉が開いてくる。本当だったらもっと縮んだ状態が正式な祇園パセリなのに…。25℃以下にならないと葉が縮まないので、夜も熱帯夜が続く限りはなかなか縮まない」と現状を訴えた。このパセリの特徴は細かい葉がギュッと密集していること。葉が開いているものは、出荷できない。2023年の夏は収穫したパセリの半分を廃棄したという。
そこで、この農園では暑さ対策にある機械を導入した。
水を霧状にしてハウスの中を外気温と同じくらいまで冷やす機械だ。今村さんが農業機械メーカーと共同でこの農園にマッチするように製作。機械で作られたミストがハウスの中の吹き出し口から出てくる仕組みである。スタートして、数分で効果が出始めた。
矢野記者は「結構、涼しくなりましたね。全然違う。3℃くらい低くなりました」と言って、温度計のメモリを指した。この機械はハウス内の温度を下げる以外に、液体肥料や水をまくなど様々な使い方がある。これまで、ハウス内で人がしていた作業を機械化できるようになった。環境が変化する中で、農業の現場も変化を求められている。今村さんは「20年先までは農家を続けていくつもりでいるので、先行投資ではないですが…」と話し、毎年やってくる猛暑を見据えている。
猛暑がもたらす“農業の転換期”
農業における暑さ対策において、西日本で最先端の研究を進める東広島市の広島県農業技術センターを訪れた。
案内されたのは天井の高い農業ハウス。中嶋悠太研究員は「ハウスの中は熱がたまりやすくなっているので、空気の入れ替えが重要です」と言う。天井が高くなることで、ハウスの容積に対して開口部が大きくなり換気もしやすい。
さらに、中嶋研究員は天井の白い幕を見上げて「天井部にある遮光カーテンを使って過剰な光をさえぎっています。植物が光合成をするためには光が重要ですが、それが多すぎると熱源がたくさん入ってきて植物が熱くなってしまう」と説明した。
遮光カーテンの開閉は、センサーが光を測定して自動で行われる。さらに、ハウス内の温度を下げるために有効なミストも気温や湿度によって自動で制御されている。
10年に一度と言われる暑さ。広島県農業技術センターの川口岳芳部長は「年々、暑さが深刻になっています。県の北部でも涼しいという概念が崩れてきている。気象環境をいかに植物の適温に近づけるかが重要で、今までの栽培のやり方では難しくなってくると思います」と指摘する。
暑さに備える最先端の技術。自動化することで、人手不足や負担の軽減、労働時間の短縮にも効果が期待できる。一方で生産者にはコストの問題がつきまとう。逃れられない夏の猛暑に、農業は転換期を迎えている。
(テレビ新広島)