熊本・氷川町の木工家具職人が、公道を走行できる木製の車を製作した。子供のころからの夢と職人の技が込められた一台、その魅力に迫る。
当時の両陛下へイスを作った職人
美しい木目が目を引くフロント部分に、滑らかな流線型のボンネット。ドリンクホルダーも完備している。その正体は木製のマイクロカーだ。

製作したのは、熊本・氷川町でオーダーメイド家具の工房『木工房ひのかわ』の二代目・古島隆さん(75)だ。

古島さんは福岡県にある有明工業高等専門学校を卒業後、父親が営んでいた『木工房ひのかわ』に就職。以来、50年以上にわたって木製家具を作り続けてきた。

こちらは1999年(平成11)に開催された熊本国体にあわせ、古島さんが制作したイスだ。国体に出席された当時の天皇皇后両陛下のために製作したもので、店内には実際に使用されたイスと同じものが飾られている。

古島さんは「普通は天皇陛下のイスと言ったら、独特のヨーロッパ調のものが多いが、うちではそういうものは作らないということで、私に任せてもらって普段作っているイスでデザインして、なおかつ格調高くと、デザインはだいぶ悩み考えた」と話す。

そんな古島さんの作業場を見せてもらうと、木の香りが漂っていた。古島さんは天然木の家具づくりにこだわっていて、「最初私が作りはじめのころ(約40年前)注文を受けて(製作したもの)やはり長く使えば汚れたり傷がついたりするでしょ、でも全部(きれいに)できる、新たにリフォームして新品になって持っていける」と話す。

また、「天然木で作った家具は丈夫で、痛んでも修理が可能なため長く使用してもらえる」と、職人のプライドが垣間見えた。
古島さんの夢「動く車を作ること」
そんな古島さん、ずっと夢を抱いていて、「動く車を作ることが小さいときからの夢でずっと待っていた、何かどうにかできないものかと」と話す。

家業を継いだ古島さんだったが、子供のころはタクシードライバーになりたかったというほどの車好き。自分の手で車を作りたいと、16年前にマイクロカーのキットを購入したものの、仕事に追われていたこともあって作業できないまま時間が経っていた。

そのような中、2022年に家業を息子の隆一さんに引き継いだことで、少しずつ自分の時間ができ、2024年1月から作業を始めた。

マイクロカーは複数の板を重ね合わせて接着し、ボディの大まかな形を作る。そしてかんなで削って形を整えたあと、やすり掛けを行い、美しい流線型のボディラインを造り出す。

製作期間はわずか5カ月で、三代目の隆一さんは「作る作るとは言っていたので、いざ作り始めるとあっという間にできていた、さすがだなと」と父の技術力に感心した様子だ。

隆一さんは「家具というと、何を作るかにもよるが、だいたい収納家具とかも縦、横、奥行きの直線が多い車となると、全部が曲線、直線が無いので(難しい)」と話す。
ひと際目を引く木製マイクロカー
古島さんの夢と技術が詰まった木製のマイクロカーは、排気量は50ccだが力強い走りを見せ、何よりひと際目を引く。取材中にも多くの人たちが集まってきた。マイクロカーは約100キロほど走行させた後、店に展示する予定だ。

古島さんは「皆さんに見て楽しんでいただき、『こういうのも作れる』という木の可能性を周知できればうれしい」と話した。

子供のころからの夢を実現させた古島さんは、これからも『職人の技』で新たな可能性に挑み続ける。
(テレビ熊本)