高知市の県立美術館で約30年所蔵されてきた油彩画。美術館はこの絵を1800万円で購入したが、「偽物かもしれない」という疑惑が出ている。世界の美術館を混乱させる「天才贋作師」の手口とは?
30年前に購入した絵画に“偽物疑惑”
繊細かつ鮮やかに描かれた油彩画『少女と白鳥』。作者は1900年代前半に活躍したドイツの画家「ハインリヒ・カンペンドンク」と言われている。

県立美術館の奥野克仁学芸課長は、「カンペンドンクの中でも一番、日本にある作品の中でいいものだと自負しておりました。まさかこれが“贋作(がんさく)かもしれない”というのは信じられない」と、驚きを隠せない様子だ。
美術館自慢の絵にかけられた“偽物疑惑”。県立美術館がこの絵を入手したのは約30年前で、1996年に名古屋の画廊から1800万円で購入した。画廊は、美術品を扱う世界最古のオークションサイトで絵を落札したという。

“権威あるオークション会社で売られた”ということもあり、作品の真贋については全く疑いがなかったという。鑑定書代わりのオークションカタログには、画家・カンペンドンクの経歴が書かれていた。
県立美術館は2023年11月の『開館30周年記念展』など、これまでにこの絵を15回展示。県外の美術館などに3回貸し出していた。
“天才贋作師”の作品か?
事態が急変したのは6月20日、1本の電話だった。過去にこの絵を貸していた徳島県立近代美術館から連絡が入り、近代美術館が所蔵するジャン・メッツァンジェ作の『自転車乗り』という絵画が“偽物かもしれない”という内容だった。

県立美術館・奥野克仁学芸課長:
アメリカのCBSニュースが“贋作者のベルトラッキ”を紹介していまして、それ(贋作の可能性があるもの)に徳島とか高知の作品もあると情報をくれた。

世界的なドイツの贋作画家「ヴォルフガング・ベルトラッキ」。画家やジャンルを問わず、数百点に上る絵画の偽物を作ってきたことから「天才贋作師」と呼ばれている。
有名な作品を模倣するのではなく、世界中で作品そのものが行方不明になっている絵画を“あたかも本物のように”描くのだ。

県立美術館・奥野克仁学芸課長:
他の作品は図版があるが、この作品(少女と白鳥)だけは名前と制作年は書いてありますけど場所は不明であると。戦争の間にどこかに行ってしまったり、ドイツですのでユダヤ人の画商が扱っていた場合は迫害を受けて亡くなってしまったりとか。

本物の絵を誰も知らないため、ベルトラッキがオリジナルで描いた絵を“本物”と思い込んでしまうのだ。県立美術館は6月末に購入元の画廊への聞き取りを行っていて、今後は絵の具の成分などを分析し、贋作かどうか調査していくとしている。
県立美術館の奥野学芸課長は「もっとしっかりと調査をして購入を進めていくということと、所蔵している作品についても、展覧会に出品する場合に、きちんと調査をして展示をしていきたいと思っております」と話していて、調査結果は秋ごろに発表される予定だ。
(高知さんさんテレビ)