バイデンは「撤退」ではなく「おろされた」
日本では首相を「おろす」というのはよくある話で、最近では2021年に菅義偉首相が「おろされた」し、最近でも低支持率の岸田文雄首相を「おろす」動きが自民党内にはある。
この記事の画像(10枚)これに対して米国は共和制ということもあり、大統領を「おろす」というのはこれまで見たことがなかったので、今回再選を目指していたジョー・バイデン大統領が「おろされた」のには大変驚いた。
バイデン氏はドナルド・トランプ前大統領との候補者討論会で言い間違いを繰り返し、「あと4年やるのは無理」というのは誰の目にも明らかだった。直ちに「バイデンおろし」が始まったがバイデン氏は抵抗。3週間粘った末、最後はバラク・オバマ元大統領やナンシー・ペロシ元下院議長ら民主党の重鎮にとどめを刺された。
この間にトランプ氏が銃撃されるも奇跡的に軽傷ですむという歴史に残るような事件が起き、トランプ氏はにわかに「暴力に屈しない国民的英雄」となり、大統領選はすでに「勝負あり」のようにも見えた。
カマラの意外な人気
しかしバイデン氏が後継に指名したカマラ・ハリス副大統領の人気は意外にも上々で、メディアの調査では支持率がトランプ氏を上回ったものもある。
ハリス氏は4年前、初の黒人、アジア系女性として副大統領に指名された時には次期大統領候補として注目を集めたが、任された移民政策で成果が出せないなど実績に乏しく支持率も低い。
「カマラのケタケタ笑い」というのが有名で、真面目な質問を受けた直後でもケタケタ笑う動画がネットで流されていたりして、大統領としての根本的な資質を問う声もある。
だから民主党内ではバイデン氏の「高齢不安」がありながらハリス氏にバトンタッチすることに逡巡があったのだが、バイデン氏の討論での失敗とトランプ氏の暗殺未遂という2つの強烈な「事件」により、半ば強制的にバイデン氏からハリス氏にスイッチしたことで、「ハリスならトランプに勝てるかもしれない」というムードが一気にできたようだ。
11月までの選挙戦はトランプ、ハリス両氏の「罵倒合戦」になり、「どちらがひどいか」「どちらがマシか」という非常にネガティブな戦いになると思うが、接戦になる可能性もある。致命的な失言をした方が負け、という展開ではないか。
おろすかおろさないか
さて「バイデンがおろされたんだから岸田もおろせ」という声が上がっているがこれはちょっと岸田氏が可哀想な気もする。こうした中、岸田氏側近の木原誠二・自民党幹事長代理は24日の講演で、岸田氏が総裁選への出馬を目指すとの考えを示した。
岸田内閣の支持率は自民党の政治資金規正法違反事件を受けて低迷が続いており、党内では「岸田では選挙に勝てない」という声が上がっている。また菅前首相は「首相自身が責任をとっていなかった」と述べて首相の対応を批判し、事実上総裁選不出馬を迫った。
だが総裁選まで2か月を切ったのにポスト岸田の動きは鈍い。茂木敏充、石破茂、高市早苗、河野太郎の各氏は出馬への意欲は示すもののまだ正式な「名乗り」を挙げてはいないし、若手で期待の声が上がる小泉進次郎、小林鷹之の両氏は沈黙を保っている。
米大統領選は民主党がバイデン氏をおろし、後継をハリス氏に決めた途端に、これまでの対共和党の劣勢を跳ね返し、五分五分に戻したようにも見える。
だから日本も、岸田氏をおろし、誰か後継者を決めれば(その役割は菅氏が担うような気がするが)、自民党も守勢から盛り返すかもしれない。
一方で先日の東京都知事選で元立憲民主党の蓮舫氏が3位に沈んだことで、自民党内には「立憲の勢いは止まった」という安堵感が広がっている。
つまり「わざわざ新しい総裁で冒険しなくても岸田さんで選挙やれば今なら与党過半数は確保できるのではないか」ということだ。これはなかなか難しい判断だろう。「刷新」か「現状維持」か。筆者はなんとなく後者のような予感がしている。