刑務所を仮出所したり、執行猶予判決を受けた際などにつく「保護観察処分」。

民間のボランティア「保護司」に更生のサポートがゆだねられる制度だが、今大きな課題に直面している。保護司制度の“光と影”に迫った。

■保護司の善意に支えられてきた制度

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記者リポート:容疑者の逮捕から間もなく1カ月ですが、事件現場は今も規制線が張られていて、このように花が手向けられています。

滋賀県大津市の自宅で殺害された新庄博志さん(60)。20年近く、保護司として活動していた地元の名士だった。

逮捕された飯塚紘平容疑者(35)は保護観察中の身で、新庄さんが支援を担当していた。

“「保護司」が担当する保護観察中の対象者に殺害される”という前代未聞の事件。現役の保護司は…。

大津市で活動する保護司:(新庄さんは)人を性善説で捉えていたように思います。けれど、相手がどんなことを考えているか分かりません。そういう点では、とても悩みが深いと思います。

相手の立ち直りを支え、社会のために尽くす保護司。しかし、ボランティアであるがゆえに面談の場所も自宅であったり、 善意に支えられているのが現実で、そこには置き去りにされてきた課題も残されている。

専門家:うまくいかなくなったケースを保護司さん任せにしているのは大きな問題。

■新庄さんの支援を受けて更生した男性は…

大津市の宿泊施設で働く、谷山真心人(まこと)さん(27)。

刑務所で服役した経験があり、今年2月まで保護観察を受けていた。

谷山真心人さん:その当時は更生する気がなかったという気持ちが強くて。悪さをすることに抵抗がなくなっていて。

父親がいない家庭で育った谷山さん。家での食事はいつも一人で、10代は寂しさから非行に走り、盗みを働いて何度も逮捕された。かつてかかわった保護司たちに対しては、良いイメージを持っていなかったという。

谷山真心人さん:保護司というのが煩わしくて、全然知らない人に『困ったら相談してこいよ』と言われたところで そんなやすやすと心を開けなかったというか、『何ができんねん』と思っていたし。事務的に淡々と近況報告を、うそを交えて保護司との関係を終えていく感じでした。

そんな谷山さんを変えたのが、4人目の担当保護司だった新庄さんだった。

出会った後も窃盗罪で捕まり、2023年8月に仮釈放されるまで服役していたが、面会に来たり、手紙を送ってくれたりして寄り添い続けてくれたのだ。

今も時々読み返す手紙。道を踏み外し続けた自分を見て、責任を感じていた新庄さんの思いがつづられていた。

新庄さんの手紙:人の人生は、それぞれ自分の人生ですから、基本的にはあなたの考えや行動を是として認めてきました。否定すると、あなたが心を開いて話してくれなくなると不安もありました。しかし今はダメなことはダメとしっかり伝えるべきだと思っています。

谷山真心人さん:手紙をくださったりとか、面会に来てくださったりとか、本来、保護司としてしなくていいことなんですよ。それをわざわざしてくれるのは、本当に僕のことを思ってというか、『この人は裏切ったらあかんのかな』って、そういうことをしてくれた時に思いますよね。なんかすごい大事な人を失ったって思いますね。

■保護観察の不満をSNSに投稿していた飯塚容疑者

新庄さんに救われた人がいる一方で…。

飯塚容疑者が新庄さんの支援を受けるようになったのは5年前のこと。コンビニから現金をうばった強盗事件を起こし、保護観察が付いた執行猶予5年の判決を受けたことがきっかけだった。

新庄さんの依頼を受け、飯塚容疑者に仕事を紹介した男性は、紹介した仕事を2カ月で辞めた飯塚容疑者の様子を、こう振り返った。

飯塚容疑者に仕事を紹介した人:自分に対する評価が納得できない(と飯塚容疑者は言っていた)。ちゃんと仕事をしたのに評価してもらえないという不満があったんではないかな。

 Q.新庄さんは2カ月で辞めたことについて何と言っていた?

飯塚容疑者に仕事を紹介した人:長続きしないところがあるなと。

飯塚容疑者のものとみられるSNSのアカウントには、仕事場への文句が頻繁に投稿されていて、職を転々としていたとみられる。さらに…。

飯塚容疑者のSNS:保護って言葉は要注意ワード

保護観察とか~。全然保護しない

保護観察への不満とも取れる投稿が目立っていた。

■「うまくいかないケースを保護司任せにするのは問題」と専門家

飯塚容疑者のように施設や刑務所に入らずに、執行猶予の判決を受けて保護観察となるケースは、大きな問題点が指摘されている。

少年院を仮退院したり、刑務所から仮釈放を許された場合など、対象者に社会の中で更生する意思があるか、保護観察官らが事前に聞き取り調査を行う。

しかし、より罪が軽く、裁判所から保護観察付きの執行猶予判決を言い渡される場合は、事前の聞き取りがないまま保護司につなげられる。

さらに、保護観察の期間も3年から5年と長期に渡る傾向にある。

保護観察について、専門家は次のように話した。

龍谷大学矯正・保護総合センター 浜井浩一センター長:一番大事なのは本人の動機付けですよ。本人が『保護観察を受けてもいい。受けてがんばりたい』と思っているかどうかはすごく大事。うまくいっているケースならいいんですけど、うまくいかなくなったケースの場合は、さまざまな不満が本人の中にたまっていく。うまくいかないケースを保護司さん任せにしているのは大きな問題。

このケースへの対応は、ベテランの保護司でも簡単ではない。

元保護司 中澤照子さん:こうやって見ると思い出しますね。いろいろ担当した子を。

20年間でおよそ100人の対象者の支援に携わってきた、元保護司の中澤照子さん(82)。

執行猶予中の保護観察対象者の生活改善や仕事探しは、人一倍苦労したという。

元保護司 中澤照子さん:ことごとくやっても響かないというか。いいところ見つけて、とやっていても、なかなかそれが功を奏さないと中だるみみたいな気持ちになりますね。 (保護観察期間が)4年、5年というのは、絶対(保護司)一人だと、くたくたになりますよ。

事件を受け、法務省は全国の保護司への聞き取り調査を行っていて、面談の際の安全対策などの検討を始めている。

しかし、保護観察制度の根本の見直しについては、議論が進んでいない。

事件で亡くなった保護司の新庄さんから更正を支えてもらった谷山さん。働いている宿泊施設の裏にある畑の管理も任されていた。

自分が育てた野菜が料理として提供されることもあり、今の仕事にやりがいを感じている。

谷山真心人さん:新庄さんのおかげで今がある。今後の自分を見せていけないのが残念で悔しいんですけど、がんばっていくんで、どこかで見といてくださいって言いたいですね。もう裏切らないですって。

更生の道を歩む人もいる一方で、最悪の事態となってしまった今回の事件。

保護司の活動に取り組む思いを、どう守るかが問われている。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年7月8日放送)

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