新型コロナウイルスをきっかけに、在宅勤務や時差出勤など働き方が変わり始めました。それに伴い、人事評価も今後は見直されていくかもしれません。

富士通はニューノーマルにおける新たな働き方を発表しました。2020年度中に労働組合との検討を始め、オフィススペースの半減や一般従業員へ「ジョブ型」人事制度の適用を拡大するなど、さまざまな推進を図るといいます。

人事評価の面では、コロナ以前も「自分は適切に評価されているのか?」といった不満がありましたが、リモートワーク下ではさらにその不満が、増幅され、広がることも考えられます。

人事評価は今後、どのように変わっていくのか。各組織のマネジャーはどのようなことをすべきか、これまで数多くの企業における組織の問題に向き合ってきた、リクルートマネジメントソリューションズ シニアコンサルタントの武藤久美子さんが解説します。

人事評価の元となる等級制度の基軸をジョブ型に変える企業が出てきている

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リモートワーク下での評価について考える前に「人事評価」とは何かを考えてみましょう。人事評価の特徴は、(1)等級・グレードの考え方に強く影響を受ける、(2)一定期間の成果や行動をみて行う、ということです。

リモートワークという選択肢の広がりに伴い、(1)、(2)ともに影響がありますが、まずは「(1)人事評価等級・グレードの考え方に強く影響を受ける」という点から紹介します。

昨今、「ジョブ型」の人事制度への変更という話が取り上げられることがありますが、これは等級制度(自社の階段を示したもの)の定義が、より職務寄りになることを示しています。

一口に職務寄りになる、といっても仕事の大きさを細かく定義して等級に当てはめる、文字通りのジョブ型(「部長」という同じ役職でも、部署によって職務の難易度などが違う場合に、人事部長、経理部長といった「ポスト」ごとに等級を設定する)から、似たような職務や役割をくくって等級とする緩やかなジョブ型まで様々です。

等級がより職務寄り、ジョブ型となっていくと、評価制度はそれに呼応して、より「当該職務を果たせているか」という点が強調されるようになるのです。

ちなみに、等級制度におけるジョブ型への移行という話は、リモートワークという働き方の変化の影響以上に、各企業のグローバル化の度合いや、年齢別・等級別人員構成への問題意識、職種別採用の推進などの影響を踏まえて検討の遡上に載るかが決まってきます。

リモートワーク下では、これまで評価について抱えていた不満が顕在化しやすい

次に、人事評価は「(2)一定期間の成果や行動をみて行う」という点への影響について紹介します。

リモートワークにおいて、急激、一斉、大規模に実施した緊急事態宣言の時期を経て、現在は、企業によって全員原則出社から、基本的にはいつでもリモートワーク可能な企業まで、幅が出てきました。

特に、一部の人は出社中心、一部の人はリモート中心となった場合、または全員がリモート中心になった場合に、これまで評価について抱えていた不満が顕在化しやすい状況にあります。

リモートワーク下での人事評価をめぐる不満の理由は、「仕事ぶりを見てもらえないのではないか」という思いにあります。

この不満が生まれる背景と対応策に触れます。

不満が生まれる背景の一点目は、リモートになった人のプロセスが見えづらくなり、行動ベースでの評価が難しくなる(少なくとも評価者や被評価者がそのように感じる)という点です。

二点目は、一部の人が出社、一部の人がリモートとなった場合に、「出社している人の方が、上司から頑張りが見えやすく、かつ、そばにいると上司が業務を頼みやすいので、評価が高くなるのではないか」、「リモートワークをしているとさぼっていると思われて、評価が下がるのではないか」というリモートワークをしている人が感じる不公平感です。

多くの会社で、人事評価は「今期何を行ったか」という“成果に基づく評価”と、「それをどのように行ったか」、「等級に期待される動きをしたか」、または、「自社が大事にしている理念に沿っているか」という“行動に基づく評価”に分かれます。

上司には部下の動きが見えづらくなるからといって、単純に「行動評価を止めて、成果だけを評価することにしよう」と考えるのは早計かもしれません。なぜなら、リモートワークが進み、社員が自律的に仕事をする場面が増えるほど、その行動の「方向性」が、企業・組織の目指すところと合っているか、どのようなことを大事にして行動しているかが重要になるからです。

本件は、記事の後半で記載する「期初の目標設定を工夫する」と同時に、リモートワーク下でも機能する行動評価項目について再考したり、行動ベースの評価を実施するための情報収集の方法を意識して磨いていくことで対応することになるでしょう。

まず、リモートワーク下でも機能する行動評価項目ですが、もし、一挙手一投足を確認するような行動評価項目を置いている企業があれば、変更を検討する時期かもしれません。大事なのは本人の行動の「方向性」です。

どのように行動するかを細かく規定するのではなく、被評価者の行動が方向性に沿っているか、つまり、企業理念や組織の目指す方向性を踏まえているか、被評価者の等級・グレードに期待される役割を果たしているか、組織の一員として望ましいかを確認する項目に変えていくのは一考です。

次に、行動ベースの評価を実施するための情報収集の方法の磨き方ですが、1対1のミーティングの時間を取って、適宜プロセスや工夫について部下にヒアリングするのは効果的です。(ただし、1対1、1on1ミーティングの基本は、部下のための時間です。上司として聞きたいことばかりに時間を割くのは避けましょう)。

とはいえ、上司だけに更に情報収集の責任を担わせるのは、リモートワーク下で上司の負荷を更に増すことにつながります。部下側にも自分がやっていることのプロセスや工夫を適切にアピールしてもらうことが大事になりそうです。

また、出社している人とリモートワークしている人の間で起こる、評価の不公平感については、本来は、出社する人を固定化させない、自分の意思で出社とリモートを選べるようにすることで、出社組対リモートワーク組という二項対立の構図を止めるのが理想です。しかし、それは難しい企業や組織もあるでしょう。

本件は、杓子定規にいえば、前述のように、「上司は、リモートワークしている人の工夫や行動を知ろうとすること」「リモートワークしている部下も自身の仕事について上司に適宜報告する」と回答することになりますが、実はこうした部下の不安を解決する一番の近道は、「上司自身がリモートで働く」ことかもしれません。

マネジャーは、部下が自律的に働くことを支援することが大事

では、マネジャーは人事評価に関連して、日々何をすべきなのでしょうか。ポイントは、「理念・方向性の共有」、「目標設定」、「つながり」です。

リモートワークが働き方にもたらした大きな影響の一つが、ワークとライフが二本立て、別物として語られていたものが、ライフの中にワークが取り込まれたことです。つまり、リモートワークといった手段も有効に使いながら、社員自身が自分の力を一番発揮できる環境づくりをする必要性が高まったということです。

つまり、社員はこれまでよりも自律的に仕事を進めることが求められるのです。これは、同時に、会社は社員が一番力を発揮できる環境を整備できる選択肢をできるだけ用意できることが求められる、ということを意味します。

自律的に働くことが求められる世界では、社員が適切な方向性にエネルギーを注ぎ、仕事の進め方に創意工夫できるようにすることが大事です。自律的に働くことは、部下が好き勝手に働くこととは違うのです。そこで重要になるのが、人事評価とセットになる「目標設定」です。

単に数字目標だけを提示するという目標設定ではなく、部下とともに、「Must(組織の役割・目標)」、「Will(部下がやりたいこと)」、「Can(部下の持ち味)」の接点が見い出せる目標設定ができると、部下がリモートワークも活用しながら、自律的に仕事が進められる準備ができるでしょう。

また、リモートワークは、ともすると自分の中で仕事が閉じがちで、ソロワークになりやすい特徴があります。しかし、リモートワークがソロワーク化すると、なぜ今の会社・組織で働くかという理由が希薄になりがちです。

こうした場合、まず重要になるのは、ソロワークとしない「つながり」をつくることです。一点目は会社・組織と社員とのつながりです。

これは、会社・組織が大事にする「Vision(自社や組織の目指す姿、提供したい価値)」への共感を促すことです。会社・組織のVisionへの共感をベースとすれば、社員の様々な行動は、きっと会社としてOKを出せる行動になるはずです。

二点目は、心のつながりです。部下を一人で頑張らせないように、部下の心身の状況に思いを馳せ、部下の心情に寄り添うことです。業務の話だけでなく、「最近どう?元気度でいうと今日は何点くらい?」、「最近、大変な仕事が増えているけれど大丈夫?支援できることはない?」と時々尋ねてみましょう。

また、チーム内の雑談の場をリモートで設けたり、チームでの会議の冒頭では近況を共有したりするといった工夫も大事です。

リモートワーク下でのマネジメントは、多くの会社で、これから磨いていくものとなります。リモートワークを企業の強さに変え、社員の幸せにもつなげられることを願っています。

武藤久美子
武藤久美子

2005年 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当し、個と組織を生かす風土・仕組み作りを手掛ける。専門領域は、働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、組織開発、小売・サービス業の人材の活躍、企業の評判など。小売業の「店長の在宅勤務制度」や、高度な機密情報や個人情報を扱うため導入が難しいと言われている金融企業へのテレワーク導入を支援し、実現。その他、働き方改革を通じて、業務改革、風土改革、人材育成を同時実現する手法を得意とする。社会と企業に新たな価値を提供した案件に送られるRECRUIT TOPGUN AWARDを2016年、2018年に受賞。早稲田大学大学院修了(経営学)。社会保険労務士。