28人の命と多くの住民の日常を奪った、静岡県熱海市の土石流災害から2024年7月3日で3年が経った。違法盛り土が被害を拡大し、“人災”との指摘もある土石流の「責任」を誰が負うのか…損害賠償を求める訴訟の審理は遅れている。
違法な盛り土で被害が拡大

2021年7月3日、熱海市伊豆山地区を襲った土石流。
災害関連死を含め28人の尊い命が奪われた。被害家屋は136棟。
3年が経った2024年7月時点でも32世帯63人が避難生活を送っている。

甚大な被害の要因となったのは土石流の起点に造成された違法な「盛り土」だった。
発災からわずか3カ月後の2021年9月末、遺族と被災者でつくる「被害者の会」は盛り土の前所有者・天野二三男氏と現在の所有者などに対し約32億円の損害賠償を求める訴えを起こした。

被害者の会の瀬下雄史 会長は「謝罪が欲しいわけではありません。しっかり罰を負っていただきたいという思いだけで訴訟を粛々と進めていきたい」と提訴の理由を語った。
そして、発災から1年2カ月後の2022年9月には、静岡県と熱海市に対しても「盛り土の造成業者に監督命令を出さなかったり、措置命令を出さなかったりした過失があった」として損害賠償を求めて提訴した。
審理が遅れている理由は?

しかし、ここ2年間、裁判は思うように進んでいない。
原告側はなぜ違法な盛り土が造成されたのか、その理由を追及するため業者とのやり取りを記録した公文書を「黒塗り」がない状態で開示するよう県と熱海市に求めた。

原告側の弁護士が手続きに則って開示請求したのは2023年1月。
県と熱海市は2023年3月から9月にかけて黒塗りを外した文書を提出した。
開示までに時間を要した上、膨大な資料を読み解き、原告が主張を整理するまでにさらに時間がかかった。

原告側代理人の加藤博太郎 弁護士は「何がどうやって崩れたのか、崩れた事実はあるけれども そのメカニズムはどうだったのか、誰が作った盛り土だったのか、そういった資料が提訴した段階ではほとんどない状態。(刑事責任の追及にしても)警察という国家権力がたくさんの捜査員を動員してもまだ捜査が続いている。やはりこの事件は難しい事件」と裁判に時間がかかる理由を説明する。
別の被災者が新原告団を立ち上げ

2023年12月、より迅速に裁判を進めようと別の被災者が新たな原告団を立ち上げた。
新原告団の代理人・池田直樹 弁護士:
2年間この裁判は進んでこなかった。それを早く進めるように主張を整理して進行を促進する
新原告団代理人の池田弁護士はこれまでの裁判の問題点について、「県と市から大量の資料が出されて、その中でいま何が争点になっているのかというのが非常に従来の原告団からしたらわかりにくい」と指摘する。
大量の資料と大勢の遺族・被災者を抱えた従来の原告団。
池田弁護士は「(従来の原告団は)裁判所が要求するレベルで証拠を整理することができていなかったのでは」と推察する。
裁判長「2024年度中には決着を」

また、裁判自体も公開の法廷で行われたのは2年間でわずか2回であることも進行が遅れている要因だ。
新原告団の代理人・池田直樹 弁護士:
法廷で裁判をやるということは裁判官の緊張も高めるので、次までに何を弁護士にやらせないといけないとか、それをやってこない時には弁護士に対してどの程度の指導をするのか変わってくる。(この裁判で)2年間でたった2回しか公開の法廷がないのは驚愕だ

こうした中、2024年5月に行われた裁判所・検察・弁護団の非公開の協議で、新たに着任した静岡地裁沼津支部の裁判長が「救済されるべき人の救済を急がなければならない。2024年度中には誰が責任を負うのか決着をつけたい」と述べたという。
「3年経っても何も変わっていない」

土石流から3年。被害者の会の瀬下雄史 会長は母親が犠牲になった場所で、黙とうをささげていた。
被害者の会・瀬下雄史 会長:
3年経ったが、まだ何も気持ち的に変わっていない。裁判も具体的な進捗がまだないので心情的にはまだ何も変わっていないというのが率直なところです
前現所有者と市長の刑事告発も

責任追及をめぐる動きを整理する。
遺族と被災者は盛り土の前の所有者と現在の所有者、それに静岡県と熱海市に対し損害賠償を求めて裁判を起こした。
この他、遺族の一部は盛り土の前所有者と現在の所有者を殺人などの疑いで刑事告訴。
また、熱海市の斉藤栄 市長を業務上過失致死の疑いで刑事告訴・告発している。

今回の民事訴訟では公開の法廷で裁判が行われたのが2年間で2回だ。
これについて菊地幸夫 弁護士は「極めて少ない、進行としては非常に遅い」と感想を述べた。そのうえで「現所有者に対する損害賠償、民事の裁判が一番進行しやすいと思う。盛り土の欠陥がある程度立証できれば、あとは落ち度がいらない。(所有者は)故意・過失など落ち度がいらなくて責任を負わなければいけないので、どんな盛り土があって何の規制に違反していたのかさえわかれば、ある程度(裁判は) 進行する。それに関する資料が、なかなか行政から出てこなかったんだと思う。行政の尻をたたいていかに進行させるか、裁判所のファイトにかかっていると思う。新たに着任した裁判長が『進行させる』と言っているのは明るい材料」と審理の加速に期待する。

また、刑事事件の捜査のポイントについて、菊地弁護士は「認識の可能性、すなわち(盛り土に)欠陥があったなら『その欠陥でこういう大災害が起きるかもしれないかな』という予測可能性がポイントになるが、それも資料でどれだけ裏付けられるかということになる。どれだけ行政がしっかり資料を揃えていたのか、それがどれだけ迅速に公開されるのか、それにかかっていると思う」と指摘した。
次回の裁判は7月10日、約1年半ぶりに公開の法廷で審理が行われる。
法的な責任がどこにあるのか、裁判、そして捜査の行方が注目される。
(テレビ静岡)