新型コロナウイルスの影響により、電話やインターネットを使って診察する「オンライン診療」の導入が進んでいる。

病院に行かずに診療できるという利点もあるが、オンラインのため、医師は聴診器を使う、注射を打つといったことはできず、診療できる部分は限られている。

こうした中で、音響機器メーカー・オンキヨー株式会社が富山大学と共同で遠隔地から患者の心音などを聞ける「デジタル聴診器」の研究開発を始めることを8月3日に発表した。

これは、自宅やホテルにいる患者を、医師が病院内から診察できるもので、患者が自分の体にデジタル聴診器を当てると、心音・肺音・胎児の音を自動で収集。
このデータは、インターネット上のクラウドに格納され、医師はデータベース上の音を聞くことができる。

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また、集まった情報をデータベース化し、AI(人工知能)が解析。変化や異常を検知すると、医師に通知される。

このデジタル聴診器が完成すれば、医師のオンラインでの診療の幅が広がることになりそうだが、そもそもなぜ、音響メーカーであるオンキヨーがデジタル聴診器を開発することにしたのか?そして、直接あてる聴診器と比べ、音の違いはあるのか?
オンキヨー株式会社の担当者に詳しく話を聞いてみた。

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音を解析し、AI技術を活用して音の変化をとらえる

――デジタル聴診器、開発のきっかけは?

弊社では音のプロフェッショナルとして、音を解析し、また、AI技術を活用して音の変化をとらえる、という取り組みを従来から行っておりました。

これらの技術を、新たに生かせる分野としてデジタル聴診器を見出し、心音などの音を取り込むだけでなく、音の変化まで検知し、症状が悪くなる前に病院に行くように提案する仕組みを作ることで、お客様に安心感を提供したいと思い開発しました。
体温計が一家に1台あるように、本聴診器を一家に1台置いてもらうことを目標にしています。
 

――病院側から開発して欲しいという相談はあった?

弊社からお願いにあがりました。

――デジタル聴診器、どのような仕組みで心音を聞く?

スピーカーと同じような振動板を使い振動を音に変えるセンサー部分、低ノイズで増幅する増幅器、デジタル信号に変換するコンバータ、そしてデジタルデータを長時間取り込み解析するAIソフトウェアからなっています。

――心音の聞こえ方は、直接当てる聴診器と一緒?

基本的には違いがないように設計していますが、より異常音を検出しやすいような工夫をしています。

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医者の診断の精度が上がる

――遠隔で心音を聞けることで、どんなメリットが考えられる?

現在の医療では、症状を確認するためには、病院に行って医者の受診によって聴診器などの装置を使って確認していただく必要があります。

今後、オンライン診療が普及するにつれ、症状の報告、体温、血圧などはオンラインでも医者に伝えることはできますが、診断となると、遠隔ではデータが取れないため、難しいと考えます。
遠隔で聴診器から取得した心音を送信することが可能になれば医者の皆様の診断の精度が上がると考えております。

――音を収集・保存することでプラス面もある?

デジタル聴診器の音を長期にわたり保存することで、お客様自身の音データが蓄積できます。

その結果、音に変化が現れたときにはすぐに検知し、医者に見てもらうよう、アラートを発信することが可能です。また、これらの音データと症状がリンクすることで、AIを活用した診断予測まで可能になるのでは、と期待しています。

医師からの音質の評価は良かった

――試作品を使った医師の反応は?

試作したプロトタイプの音を先生に聞いていただきました。まだまた改善の余地はありますが
音質の評価は良かったです。こちらはこれから改善を進めていきます。

――正式にはいつから使えそう?

来春のサービス開始を目指しております。

 

コロナ対策でオンライン診療を行う医療機関が徐々に増えている。
そうした中で、デジタル聴診器のような新たな医療機器が生まれることで、オンラインで診療できる幅が広がることを期待したい。
 

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プライムオンライン編集部
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