人と接するときに感じる体のにおい。「もしかして私も…?」と気になっている人も多いのではないだろうか。人が日常生活の中で発しているにおいの原因とは何か。近年、「皮膚ガス」の存在を明らかにした東海大学の関根嘉香教授に、気になるにおいの原因と確認方法、そこから分かる体の状態について聞いた。
体臭のもとは「皮膚ガス」
関根教授によると、体のにおいは人の皮膚から放散されるガスがもとになっていて、現在分かっているだけでも800種類以上のガスがあるという。これは「皮膚ガス」と呼ばれ、主に3つの放散経路がある。
この記事の画像(6枚)【皮膚ガスの発生パターン】
1)表面反応由来
皮膚の表面でガスができる。汗や皮脂と、皮膚表面の菌などが原因
2)皮膚腺由来
汗腺や脂腺の分泌物としてガスが出る。汗や皮脂の分泌が原因
3)血液由来
血液が揮発してガスが出る。血液の状態が原因
これら3つのタイプに由来する中で、特ににおいに表われやすい皮膚ガスが体臭の原因になっているという。それはどんな特徴があるにおいなのだろうか。
“体臭”は主に8種類
体臭と呼ばれる代表的な皮膚ガスは8種類ある。
まず、日常生活で目立つのは「表面反応由来」の皮膚ガスであると関根教授は話す。
「一般的に気になるといわれる体臭の多くは、汗や皮脂をもとに作られる、表面反応由来の皮膚ガスが原因です。本来、汗は無臭と言っていいほどにおいがありません。しかし、汗をかいてそのまま放置すると、皮膚表面の常在菌が汗を食べて分解し、『イソ吉草酸(きっそうさん)』という納豆のようなにおいのガスを出します。これが『汗臭(あせしゅう)』と呼ばれ、新陳代謝が活発な思春期世代や10~20代に特に強く出ます」(以下、関根教授)
この「汗臭」の成分が年齢とともに変化し、中高年独特のにおいになるのだという。
「30~40代になると汗の中に乳酸が含まれ、それを常在菌が分解すると『ジアセチル』という成分になって皮脂臭と混ざり合い、古い油のようなにおいが出ます。これが中年男性に多い『ミドル脂臭』ですね。さらに加齢すると、皮脂が酸化しやすくなり『2-ノネナール』という成分が発生して、枯草や古本に例えられる『加齢臭』になります」
「2-ノネナール」(加齢臭)は男性より女性の方がやや少ないが、加齢に従って男女とも右肩上がりで増えていく。
一方、桃の香りを主成分とした「γ-ラクトン」という皮膚ガスがあり、10代半ばの女性から多く放散され、加齢とともに減少して50代にはほぼゼロになるという。女性の場合、「γ-ラクトン」と「2-ノネナール」の放散量が50歳前後に逆転することも、においの変化の特徴となっている。
生活習慣や体調が表れる「血液由来」のにおい
体内で作られた成分が汗や皮膚を通じて直接放散される皮膚ガスもある。一つは、汗に含まれる「酢酸」が発汗とともに出てくる、すっぱいにおいの皮膚腺由来のガス。もう一つが、食べ物や疲労などで作られた成分が血液を通して皮膚に直接出る血液由来のガスだ。
「例えば、お酒を飲みすぎると酒臭の原因である『アセトアルデヒド』という成分が血液中を流れて、直接皮膚から放散されます。ほかにタバコの『ニコチン』やニンニク臭、体内で生成される『アセトン』と『アンモニア』も同じ経路で皮膚から出て来ます」
「アセトン」は、糖質制限をしている人が体の脂肪分を燃焼してエネルギーを得ようとするときに発生するため「ダイエット臭」と呼ばれている。甘酸っぱいにおいがするが、一般的にはほぼ認識されない。一方、「アンモニア」は刺激臭なので、体臭として認識されやすい。
「本来『アンモニア』は肝臓で分解され尿として排出されます。しかし食生活の乱れや腸内環境の悪化、過剰な疲労や精神的ストレス、または肝機能が低下すると、血液中の『アンモニア』の濃度が上がり、皮膚からの放散量が増えてしまいます。これが『疲労臭』と呼ばれるにおいです」
(参考記事URL:しっかり洗っているのになぜ?全身から漂う“おしっこの臭い”は「疲労臭」かも…セルフチェック法と5つの発生要因)
では、自分から発せられているにおいを確かめることはできるのだろうか。
関根教授によれば、1日着ていたものを袋に入れて袋の口を閉じ、一旦、外の空気を嗅いで臭覚をリセットしてから袋を開けてにおうと分かるという。
「大抵の人は自分のにおいをあまり不快に感じず、むしろ安心感を覚えると思います。ただ、においに少し違和感があれば、体からの危険信号かもしれません。健康状態までを嗅ぎ分けることは難しいと思いますが、アンモニアのにおいには気付けるかと思います」
(参考記事URL:自分だけが気づいていない?誰にでも可能性がある「疲労臭」…においのエキスパートが教える改善法と対策)
皮膚ガスは体からのメッセージ
「加齢臭」に代表される汗や皮脂に由来するにおいは、頭皮や顔(Tゾーン)、首の後ろ、背中といった汗腺と皮脂腺が多いところに強く出る傾向があるので注意したい。ただ、汗は基本的に体を洗えば落ちる。夜の入浴はもちろん、睡眠中にも汗をかくので、気になる人は朝も入浴すれば、1日のにおいの予防に効果的だ。
しかし、血液由来の「疲労臭」は体内で作り出されるので、洗っても落ちない。タンパク質に偏った食事やお酒の飲み過ぎを控えるなど、生活習慣の見直しから始めよう。
皮膚ガスは誰もが出している自然の摂理であり、体内の健康状態や生活習慣を伝える体からのメッセージだと関根教授は指摘する。
「体臭が出るのは当たり前、むしろ出ることが健康であるといってもいいです。あまり気にし過ぎず、ときどきは自分のにおいを確かめて、体からのメッセージをキャッチしてください」
皮膚ガスと上手く向き合いながら、適切なケアとバランスの取れた生活習慣を心がけることが、体臭のコントロールにも繋がっていきそうだ。
関根嘉香
東海大学理学部化学科教授。専門は室内環境学、皮膚ガス学で、アジアの大気環境やシックハウス症候群の予防・改善などを研究。人間から放出される「皮膚ガス」と健康状態の関連を研究している、においのエキスパートでもある。これまでに環境化学技術賞(日本環境化学会)などを受賞。著書に『皮膚ガスのはなし 体臭は心と体のメッセージ』(朝倉書店)などがある。
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