洗濯物をふんわり、“いい香り”に仕上げる柔軟剤を愛用している人も多いと思う。

ところが、柔軟剤で仕上げた衣類で肌がかぶれてしまう…。柔軟剤のにおいを嗅ぐと頭痛がしたり、鼻水が出たりして体調が悪くなる…、という人がいることをご存じだろうか。または読者の中には、そんな悩みを抱える人もいるかもしれない。

「実は、柔軟剤の香料成分を包み込む“マイクロカプセル”によく使われている化学物質がアレルギーを引き起こすことがあります。このことが、あまり一般に知られていないのが問題です」

こう話すのは、化学物質過敏症に詳しい千葉大学予防医学センターの坂部貢さん。

なぜ柔軟剤でアレルギーが起こってしまうのか。対処法はあるのか。坂部さんに聞いた。

原因は「イソシアネート」

柔軟剤でアレルギーが起こる理由は、「イソシアネート」という化学物質の影響だ。

「イソシアネート」は、柔軟剤の香りを長持ちさせるために使われる「マイクロカプセル」の素材としてよく利用される。

「マイクロカプセル」は、香り成分を中に閉じ込めるためのもの。繊維にくっつき、摩擦で弾けることによって、中の香り成分を放出する。時間差で弾けていくため、長時間、香りを持続させるのに有効なのだ。一方で、デメリットもある。

「マイクロカプセル」は長時間“いい香り”を持続させる(画像はイメージ)
「マイクロカプセル」は長時間“いい香り”を持続させる(画像はイメージ)
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「イソシアネートは、アレルギーの原因となる抗原になりやすい物質で、イソシアネートによって作られたマイクロカプセルが皮膚や粘膜につき、抗原として体が認識して抗体が作られると、アレルギー性皮膚炎(かぶれ)や吸い込んだことによる気道過敏症状などのアレルギー反応を引き起こすことがあります」(以下、坂部さん)

なお、普通は気にならない程度のにおいを嗅いだだけで様々な症状が出る「嗅覚過敏症」の人の中には、柔軟剤のにおいを嗅くことによって生じる頭痛や動悸などの症状のほか、皮膚の症状や咳込んだりするアレルギー症状の出る人が多くいる。理由は、嗅覚過敏症の人の中には、イソシアネートのアレルギーを持っている人が含まれる可能性があるためだという。

職業性アレルギーの原因にも

「実は、イソシアネートは職業性アレルギーの原因になる化学物質として、医学の世界では有名なのです」

代表的な例は、ベランダなどの防水工事に使われる溶剤に含まれるイソシアネートを吸引するうちに、喘息を発症するケースだ。

イソシアネートはアレルギー性喘息の原因にもなる(画像はイメージ)
イソシアネートはアレルギー性喘息の原因にもなる(画像はイメージ)

イソシアネートのアレルギーは、一般的なアレルギーと同様、抗原(アレルゲン)による刺激を受け続けると発症するリスクが上がっていく。そして誰でも発症する可能性がある。特に、花粉症やハウスダストなど、すでに何らかのアレルギーがある人は発症するリスクが高いという。

「こうした化学物質が使われているにもかかわらず、“香料”の原材料には成分表示の義務がないので、国民はあまり知らないのが現状なのです。さらに、マイクロカプセルは分解されず自然界の中にそのまま残ってしまうため、環境汚染の原因にもなっています」

柔軟剤をやめるか無香料に

では、イソシアネートによるアレルギーの疑いがある場合はどうしたらいいのか。

「一般のアレルギー症状(例えば花粉症)と同様に、アレルゲンから離れることです。血液検査でイソシアネート類に対するアレルギーの有無はわかるので、疑わしい方は検査を受けるとよいでしょう」

具体的には、これまで使っていた柔軟剤の使用をやめるか、マイクロカプセルを使用していない無香料のものに変更してみてほしいとのこと。

無香料の柔軟剤を使用すればイソシアネートに触れずに済む(画像はイメージ)
無香料の柔軟剤を使用すればイソシアネートに触れずに済む(画像はイメージ)

理解されにくいが、誰でも発症する可能性があるイソシアネートのアレルギー。自分や家族がアレルギー体質であれば、柔軟剤を無香料に変えるなど、発症する前に対策をするのも良いだろう。

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坂部 貢(さかべ・こう)
千葉大学予防医学センター特任教授。日本臨床環境医学会理事長。専門は、臨床アレルギー、臨床環境医学(環境過敏症)。北里大学北里研究所病院アレルギー科部長、同臨床環境医学センター長、東海大学医学部教授等を経て現職。

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