トランプ前米大統領は、11月の大統領選挙へ向けて致命的な失言をしたのかもしれない。
前大統領は13日、連邦議会を訪れて共和党議員と大統領選挙への対応などについて非公開の協議をしたが、7月15日~18日にウィスコンシン州ミルウォーキー市で開かれる共和党党大会の話題になるとこう言ったといわれる。
「我々の党大会が開かれるミルウォーキーはひどい(horrible)町だ」
“犯罪多い、選挙不正もある”トランプ氏が説明
これは、議会の情報を詳しく伝えるニュースサイト「パンチボウル・ニュース」のジェイク・シャーマン記者が自身のX(旧ツイッター)で伝えたもので、当初共和党関係者は火消しに躍起でマイク・ジョンソン下院議長も「私は彼の隣に座っていたが、そんなことは聞かなかった」とまで否定した。
🚨TRUMP TO HOUSE REPUBLICANS:
— Jake Sherman (@JakeSherman) June 13, 2024
"Milwaukee, where we are having our convention, is a horrible city."
しかし当のトランプ前大統領は、フォックス・ニュースのアイシャ・ハスニー記者にことの是非を問われるとあっさりと認めてこう言った。
「私の言ったことははっきりしている。犯罪を非常に心配しているのだ。私はミルウォーキーが大好きだし素晴らしい友人もいるけれど、きみも知っているように犯罪件数はひどいものだ。私たちは細心の注意を払わなければならない。
それと、私が言及したのは選挙、投票のことだ。ミルウォーキーの選挙はひどいものだった。とても、とてもひどかった。国民はそう理解しているし、私と同意見だ。しかしそれはフェイクニュースでかき消されてしまった。そうだ、ミルウォーキーには犯罪の問題がある。民主党が運営するほとんどの都市がそうだ。民主党が運営する都市はほとんどすべての問題を抱えている。それに加えて投票に問題がある。選挙を公正に行うということだ。そうしたことをはっきりさせたいのだ」
つまり、ミルウォーキーは犯罪が多く、選挙も不正が行われるから「ひどい町」だというのだが、この町の犯罪発生率はこの2年間に殺人事件20%減、自動車盗23%減、一般盗犯13%減といずれも二桁の減り方を示している(USAトゥデー電子版3月26日)。これで「安全な町」になったとは言い切れないとしても、「ひどい町」と言われるのは市民にとって不本意だろう。
前回選挙では僅差…バイデン氏が「勝者総取り」
一方、選挙をめぐる問題だが、前回2020年の大統領選挙でトランプ前大統領はウィスコンシン州で僅差で敗れ、「不正があった」と訴えたが同州最高裁に却下された。「ひどい町」発言にはこの遺恨もあったと思われるが、逆にそれは2024年の選挙に影響することになったのかもしれない。
この時の得票はバイデン大統領163万866票、トランプ前大統領161万184票で、その差は2万682票、率にして0.7ポイントの違いにすぎなかった(ポリティコ・2021年1月7日)。しかし米大統領戦独特の「勝者総取り」の仕組みで、ウィスコンシン州に割り当てられている選挙人10人はバイデン大統領が獲得することになり、同大統領の当選に大きく貢献することになった。
そのウィスコンシン州最大の都市ミルウォーキー市が、2024年の大統領選挙で共和党の候補者を決める党大会の会場に選ばれたのは言うまでも無い。共和党が同州で勝利して選挙人10人を奪回することを狙ったからに他ならない。党大会でこの町が共和党一色に染まれば、前回失った2万票余りを奪い返すことは容易に計算できる。
しかしその思惑も、この党大会の主役になるはずの前大統領の「ひどい町」発言で危うくなった。民主党がそのチャンスを見逃すわけがない。
ウィスコンシン州で再び敗北の可能性も
民主党全国委員会(DNC)は、トランプ前大統領の写真と「ひどい町」発言を大きく記した巨大なビルボード(屋外広告)を10基制作し、ミルウォーキー市の幹線道路I-94やI-41、I-43の道路脇に展示する作戦に出た。
「ドナルド・トランプのミルウォーキー発言の失敗は、大統領選を犠牲にするかもしれない」
米誌ニューズウィーク電子版は14日こう報じた。
記事は、米国近代史を研究する英国ノッティンガム大学のクリストファー・フェルプス教授の考察を次のように紹介する。
「大統領選挙は、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州のような州(スイング・ステート=選挙のたびに勝利政党が変動する激戦州)の行方に絞られてゆくと考えられるが、その際に、多くの住民が故郷と呼ぶ町を非難するのは決して良い考えとは言えない」
トランプ前大統領が「ひどい町」発言でウィスコンシン州を落とすと、大統領選の結果を危うくすることにもなりかねないというのだが、果たして?
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】