学校に行かない・行かれない「不登校」のこどもの数は約30万人と過去最多となっている。

「不登校だった小学生が元気に通う学校が都内にある」そんな情報を聞いた筆者は、早速その学校「花まるエレメンタリースクール」に行って、なぜ子どもたちがここに通うのか取材した。

吉祥寺駅からすぐのビルにある(左側)
吉祥寺駅からすぐのビルにある(左側)
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「やってみよう」100人の子どもが大合唱

「やってみよう!やってみよう!」

都内吉祥寺駅から徒歩5分のビルのフロアに行くと、大勢の子どもたちの元気な歌が聞こえてきた。歌はWANIMAの「やってみよう」。部屋に入ると皆笑顔で大合唱している。

歌が終わって筆者が子どもたちに自己紹介すると、早速「フジテレビのあの番組知っている?」「誰に会ったことありますか?」などと質問攻めにされた。

100人の子どもが「やってみよう」を大合唱
100人の子どもが「やってみよう」を大合唱

花まるエレメンタリースクールには都内、神奈川、埼玉から100人の子どもたちが通っている。カリキュラムはPBL(プロジェクトベースドラーニング)を中心に、基礎学習や基礎体育、ディベート・ディスカッション、英語や音楽、そして遊びの時間もある。

授業内容を子どもたちが企画・提案し決めることもある。「自分で考える」「とことん話し合う」のがこの学校のポリシーで、テーマは「ごちゃまぜ」。子ども同士の化学反応を最大限にかけ合わせるのだ。

音楽が終わると部活動と基礎学習

音楽が終わると次は「遊学♡(「ゆうがくらぶ」と読む)」という“部活動”の時間だ。活動はダンスやアート工作、演劇や将棋、ボッチャやギャル(メイクアップ研究)、漫才やモルック(数字つきの棒を倒す)など10種類以上もある。部活動ごとに部屋に分かれて活動開始だ。

花まるエレメンタリースクールは、花まる学習会(※)のフロアスペースを丸ごと使っている。学習会は放課後スタートなので、それまでの時間は使いたい放題なのだ。

(※)将来「メシが食える大人」「魅力的な人」を育てる幼稚園児・小学生対象の学習塾。

ギャル部活ではメイクアップの研究
ギャル部活ではメイクアップの研究

花まるエレメンタリースクールにはチャイムがない。授業の開始と終わり時間はフレキシブルだ。部活動が終わると基礎学習がスタートした。グループをつくり、テキストに取り組んでいく。わからない課題があれば、先生や仲間と教え合う。

筆者(左)も子どもたちとランチ
筆者(左)も子どもたちとランチ

ランチの時間は皆でお弁当を広げてわいわい楽しむ。筆者もあちこちのグループから「一緒に食べよう!」と声をかけられた。

フリマの開催日を子どもたちが決める

「開催日を平日か週末か決めましょう!」

ランチの後はPBLの時間だ。当日は7月に行う「フリーマーケット」の日時を決めるため、皆で話し合った。

多数決で決めるのだが、誰が手を挙げたかわからないように皆が目をつぶって、司会の子どもが手の挙がった人数を数える。先生はその議論に加わらず見守るだけ。あくまで決めるのは子どもたちだ。結局7月11日に行うことが決まった。

フリマに向けて決起集会!
フリマに向けて決起集会!

そしてフリーマーケットの役割ごとに、子どもたちはグループに分かれた。イベントを考えるグループ。告知・広報のために、チラシを作成するグループやウエブ動画を制作するグループ。近隣の店舗にチラシを貼ってもらうよう営業するグループ。支払いのために電子決済を考えるグループもある。

フリマのチラシをつくる
フリマのチラシをつくる

商店街に電話や飛び込みでチラシ貼り

「花まるエレメンタリースクールと申します。フリーマーケットをやりますがそちらの店舗にB4サイズのチラシを貼ることができますか」

営業担当の子どもが店舗に電話をしていた。大人相手に臆することなくすらすらと“営業トーク”するのを見て筆者は驚いた。電話を切るとその子どもは「貼ってくれるって!」と他の子どもに伝え「やった!」「商店街をかたっぱしからやろう」と盛り上がる。

「チラシを貼ることができますか?」と電話営業
「チラシを貼ることができますか?」と電話営業

さらにチラシを持って“飛び込み営業”をしようと外に飛び出すグループもいる。先生が同行するが、交渉中はほとんど口出ししない。先生に「子どもたちが授業中に外に出ても大丈夫なんですか?」と聞くと「失敗してもいいから、熱量そのままで外に出るのがいいのです」という。

イベント担当のグループをみると、「射的」「輪投げ」「卓球」などアイデアを出し合い議論していた。

外に出て店舗に飛び込み交渉
外に出て店舗に飛び込み交渉

「問題児扱いされている子どもを育てたい」

花まるエレメンタリースクールが設立したのは2022年。初年度は子どもたち19人から始まって、2年目が約60人。その後も入学が増え続けて今年度は100人となっている。すでに今の場所は一杯になっていて、都内で別の場所を探し中だ。

設立者で校長の林隼人さんは、かつて中学校の英語の先生だった。その後3歳から小学生にサッカー・チアを通じて英語を教える「グローバルアスリートプロジェクト」の学長を務め、農業とビジネスを教える「みんなビレッジ」やファッションブランド「ノットイコール」を設立してきた。

林隼人校長「問題児扱いされているけどそういう子は面白い」
林隼人校長「問題児扱いされているけどそういう子は面白い」

隼人校長(学校はファーストネーム呼び)は設立のきっかけをこう語る。

「花まる学習会の高濱正伸代表と農業プロジェクトやお互いが同じアート作家を好きだったことを通じて知り合い『はみ出ちゃう子やすごく元気がある子、悩んでいる子が学校では問題児扱いされるけど、そういう子は面白い。育てたいけど場所があまりない。そのために日本一子どものことをチームで話し合う職員室がある学校をつくりたい』と話したら、高濱さんから『それならやろうよ』となりました」

漫才の部活はネタも自分たちで考える
漫才の部活はネタも自分たちで考える

学年もごちゃまぜにして才能を引き出す

そして隼人校長は「フリースクールは不登校の子どものうち3%ぐらいしか利用していません」と続けた。

「その背景には、フリースクールに行っている、可哀そうだというレッテルを貼る感じが歴史的にあったからだと思います。だから僕らは悩んだ経験を成長の鍵として、内容にこだわりぬいて子どもを積極的に伸ばしていくんだと。学習障害、ADHD、自閉症、そのような症状名を気にするのではなく、一人一人の子どもの輝きと魅力を見つめ学年間も吹き飛ばし皆をごちゃまぜにして、眠っている才能を引き出して行こうと考えました」

基礎学習は先生や仲間と教え合う
基礎学習は先生や仲間と教え合う

当初子どもたちの中にはフリースクールを何か所も転々としてきた子、他の学校で問題行動を起こした子、友達が作れない子や自分の意見が言えない子など、人間関係に傷ついてきた子たちがたくさんいたという。

「子どもは仲間たちと一緒にいて暖かさを感じたり、本音で言い合ってぶち当たったりという経験ができれば、人生が変わってくるんです。何か起きた時は納得するまでとことん話し合う。時に大人たちが『こうしたら楽になるぞ』『それを伝えてみてもいいんだよ』と言ってあげるんです」(隼人校長)

子どもの表情やたたずまいが変わる瞬間

では子どもたちは何がきっかけで、この学校に継続的に通い出すのだろうか。隼人校長によると「この子はのったな」という瞬間があるそうだ。

「最初の頃は来られない子どもがいますが、今年入学した40人中8割くらいがすでに毎日ここに来ています。パカーンって子どもの表情やたたずまいが変わる瞬間があります。いままで学校にくるのが面倒くさかったのに、『学校って面白いな』となるんです」

日本一子どものことを話し合う職員室を目指す
日本一子どものことを話し合う職員室を目指す

花まるエレメンタリースクールは保護者に「1年中いつでも面談します」と伝えている。

「2時間以上話し込む時もあります。子どもにとっては家庭と学校でだいたい1日ですから、家庭の責任と僕らの責任を合わせてチームになって共に考えないといけない。確かに保護者と向き合うのは精神がすり減ることもありますが、僕らは子どもが変わるのが好きなんでしょうね」

日本にはこんな天才たちがいるんだ

子どもたちは希望者全員、地元の小学校の校長先生の理解を得て出席扱いとなっている。最後に隼人校長に「花まるエレメンタリースクールは今後どうなるのか?」と聞いてみた。

「中学生も受け入れたいと思っていますが、まずは小学生で300人から500人の学校にしたいです。300人であればいまの日本の学校の平均生徒数くらいになりますね」

子どもが自分で考え、とことん話し合う
子どもが自分で考え、とことん話し合う

そして隼人校長はこう続けた。

「そうなればこの子たちのような可能性や才能に、大人たちが気づくんじゃないかなって思っています。日本にはこんな天才たちがいるのだと」

花まるエレメンタリースクールの子どもたちが、それを証明してくれるだろう。

(執筆:フジテレビ報道局解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。