住民の生活を支える路線・阿武隈急行が追い込まれている。2023年度の決算は3500万円あまりの赤字となり、利用者の減少に伴う経営の厳しさが明らかになった。
累積赤字は14億円以上
2024年6月10日、阿武隈急行は2023年度の鉄道事業の営業損益が5億1200万円あまりの赤字となったことを発表。新関勝造専務は「人口減とともに輸送人員が減ってきて、だんだん赤字になったというのが実態」と説明した。
最終的な損失は3500万円あまりで2年ぶりの当期赤字、累積赤字も14億円以上に上っている。
地震とコロナ 利用客減少
福島県福島市と宮城県柴田町をつなぐ阿武隈急行。2022年の福島県沖地震でホームや鉄橋などが被災し、全体の約半分の区間で運転を見合わせる事態に追い込まれた。
この地震とコロナによって利用者が過去最低を記録したが、2023年度はそこから61万人増加し約190万人まで回復。
しかし、通勤や通学を目的としない利用者は、コロナ禍前と比較し3割ほど落ち込んだままとなっていて、宮城県や沿線の自治体は鉄道を廃止しバスに転換するなどの経営改善策を検討している。
路線維持の力に 学生の思い
苦しい経営状況は路線の利用者にとって他人事ではない。「あぶきゅうを応援したい!」その思いで活動を続ける学生がいる。宮城県角田市に住む黒須大輝さん(19)は、阿武隈急行を利用して福島市にある福島学院大学のキャンパスに通っている。
「このままじゃ危ないなと思って、自分が両県ともつながっているということで、俺が何かしよう、懸け橋になろうと思って」と話す黒須さんは、2023年5月に路線維持の力になりたいと「あぶきゅう応援団」を結成し団長に就任した。
応援団として利用者増加の活動
大学では地域連携活動などを学び、自作の資料で路線の必要性を訴えている。
「私=あぶきゅう、私=福島宮城両県つなぐ懸け橋というイメージにつながって、いずれはそれで東北が盛り上がっていけばいいかなと」と黒須さんは話す。
SNSやチラシで参加者を募り、路線の必要性を訴えるための意見交換会を定期的に開いていて、これからも「応援団」として利用者を増やすための活動を続ける決意だ。
維持かバスへの転換か
阿武隈急行線の今後について、福島県の内堀知事は「福島県側の増便やダイヤ見直しなどを提案」していて、つまり路線維持の方向性だ。一方で、宮城県の村井知事は「バスへの転換なども検討を提案」としている。
県や沿線自治体から補助金や支援金
2023年度、鉄道事業の赤字は約5億1200万円だが、最終的な赤字は約3500万円となった。なぜ減るのかというと、福島県・宮城県・沿線の5つの自治体から、補助金や赤字を補う支援金が4億円以上出ているからだ。
大きなお金がかかるだけに、宮城県の村井知事は「路線維持には相当腹をくくる必要があり、その分、市民サービスは低下すると思う」という考えを示している。
ちなみに、宮城県柴田町からは2023年度の支援金約2350万円が支払われていない。
観光客の利用に課題
また、通勤通学で利用する人は定期券を使うが、定期券ではない、つまり観光や買い物での利用者数は、全体の利用者に対し、会津鉄道は約56%、福島交通飯坂線は約57%。一方で、阿武隈急行線は約36%と観光利用者などに課題があることがわかる。
阿武隈急行の冨田社長は「今後観光やイベントでの利用者を増やしたい」というが、自治体の支援金なしですぐに黒字化するのは難しいとしている。
(福島テレビ)