京都大学と住友林業は、世界初の木造人工衛星を2024年9月に打ち上げると発表した。
木造衛星は、完全に燃え尽きるため環境に優しいとされている。
専門家は、この技術が“宇宙ゴミ”問題の解決に貢献し、宇宙以外の事業拡大にもつながるとしている。

宇宙に優しい「木造人工衛星」発表

京都大学などは、世界で初めて木造の人工衛星を完成させ、2024年9月に宇宙に打ち上げる予定だと発表した。

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宇宙飛行士で京都大学の土井隆雄教授と住友林業は、2020年から木材を宇宙環境にさらす実験などを行い、木造人工衛星の開発を進めてきた。

土井教授によると、従来の人工衛星はアルミ製で、大気圏で燃え尽きるときに小さな粒子を放出し、異常気象などを引き起こすおそれがあるという。

土井教授らが世界で初めて完成させた木造の人工衛星は、大気圏で完全に燃え尽きるため、環境に優しいという。

京都大学・土井隆雄特定教授:
地球のカーボンフリーを宇宙にも広げていく。金属ではない衛星が主流になるべきだと考える。将来的には、月や火星に宇宙ステーションを木で作りたい。

この木造人工衛星は、2024年9月に宇宙に打ち上げられ、11月から運用される予定だ。

地球への悪影響を木造で解決

「Live News α」では、経済アナリストの馬渕磨理子さんに話を聞いた。

堤キャスター:
——今回の試み、どうご覧になりますか?

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
「木造の人工衛星」に驚く方も多いかと思いますが、木材を劣化させる空気や水分は宇宙空間にはないので、よく考えられた取り組みといえるかもしれません。

世界で、2022年に打ち上げられた人工衛星の数は、過去最大の2300機を越えています。この10年間で、およそ11倍に増加しているんです。

今後も、人工衛星の打ち上げは増えるとされる一方、地球環境への影響などの問題を抱えていて、今回の木造の人工衛星は、この問題の解決につながる可能性があります。

堤キャスター:
——それは、どういうことでしょうか?

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
故障や寿命で使命を終えた人工衛星は、ほかの衛星の邪魔にならないよう、軌道から離脱させたり、大気圏に再突入させて燃やしたりします。

この大気圏突入の際に発生する物質が、地球の気候や通信に悪影響を及ぼす可能性が指摘されていました。

そこで、木造の人工衛星であれば、大気圏で燃え尽きるため、衝突や宇宙ゴミの問題の解決に貢献できるわけです。

堤キャスター:
ーー今回の人工衛星以外にも、宇宙ビジネスで木材が使用される可能性はあるのでしょうか?

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
宇宙ビジネス市場は、2040年までに100兆円規模に膨らむとみられています。

宇宙空間での木材の使用については、宇宙飛行士の健康や安全、さらには精密機器などに悪影響を及ぼさないことが明らかになっています。

住友林業としては、将来的に国際宇宙ステーションの内部で、木材の使用を考えているようです。

将来性広がる日本の木材活用技術

堤キャスター:
ーー持続可能な資源である木材の活用が、さまざまなものに広がっていくといいですね。

経済アナリスト・馬渕磨理子さん:
住友林業は海外での住宅や建築事業が利益の7割を占めていますが、木材の活用が広がることで、新しい事業展開が可能になります。

「木造の人工衛星」などを通じて木材の劣化を抑え、耐久性を持たせる技術やノウハウの蓄積が進むと、木造による高層ビルや、木でつくられたデーターセンターの建設など、世界的にも珍しい分野で存在感を示し、新たな成長を描くことができるかもしれません。

堤キャスター:
宇宙開発競争が過熱する中で、課題となっていた宇宙ゴミ対策に貢献できる今回の試みは、大きなインパクトがあります。
これからの宇宙での運用次第で、木材や林業の新たな可能性が広がるかもしれませんね。
(「Live News α」5月28日放送分より)

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