高齢者が運転免許を更新する際に必要な講習などを受けるための、全国初の専用施設が5月27日から業務を開始した。施設では、70歳以上対象の講習や75歳以上対象の認知機能検査を行う。エコノミストの崔真淑氏は、高齢者の運転問題の解決には、自己認識の機会を増やすことが重要になると指摘する。

高齢者、その家族の相談や免許返納にも対応

埼玉県警が新たに運用を開始したのは、70歳以上の高齢者が運転免許を更新する際に受講を義務付けられている講習や、75歳以上が対象の認知機能検査などを受けるための全国初の専用施設「岩槻高齢者講習センター」だ。

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高齢ドライバーの増加により、講習の予約が取りづらい状況を解消することが目的で、講習と検査合わせて、1日最大300人を受け入れることができるという。運転に不安がある高齢者や、その家族からの相談を受け付けていて、免許の返納手続きにも対応するという。

免許返納に交通インフラが影響

「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
今回の取り組み、どうご覧になりますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
非常に興味深い取り組みだと思います。高齢者ドライバーが、いつまで運転を続けるのか、これは非常に悩ましいです。

2021年時点で、ドライバーに占める高齢者の割合は4人に1人という現状であり、高齢者に運転をさせないというのは、社会を回す上で現実的な施策ではないと思います。ただ、すべての高齢者が運転に対して自信を持っているわけではありません。今回のように、高齢者特有の運転における課題を自分自身が認識する機会は、ぜひ広がってほしいと思います。

堤キャスター:
地方を中心に、車を使わないでどうやって暮らしていくのか。これも課題の一つですよね。

エコノミスト・崔真淑さん:
車に代わる交通手段をどうするのかという課題に対する答えが見つからないため、運転に不安を感じていても免許返納に踏み切れない、そういった高齢者も少なくないと思います。

一部の研究では、免許返納のインセンティブには、住んでいる街の交通インフラの充実度と強く相関するとも報告されています。ですから、郊外や過疎地域における交通インフラの拡充は重要です。

そこで、近年ではライドシェアが注目されていますが、海外の実情を見ても人が少ない地域ではライドシェアは赤字になりやすく、機能しにくいとも言われています。

交通のみならず暮らし全体を見直す

堤キャスター:
さまざまな議論、いろいろな取り組みを進めていく必要がありそうですね。

エコノミスト・崔真淑さん:
私はミクロとマクロの動きに注目しています。まずミクロでは、地域や自治体ごとの取り組みで、例えば、ふるさと納税で成功した一部の自治体が、完全自動運転のバスを走らせるなどの試みを行っています。これには参考になるポイントが詰まっていると思います。

一方、マクロで、国全体で考えなければならないのは、社会の高齢化を踏まえて、交通手段の問題に留まらず、暮らしそのものを見直す必要があるとも思います。

例えば、住まいを地域の中心部に移すコンパクトシティについても、住民の抵抗などが想像されるが、それでも検討を進める時期にきているように思います。   

堤キャスター:
車は便利なものである一方、大きな事故に繋がるものでもあります。高齢者ドライバーが、自分の運転能力を把握する機会があると、免許の返納を判断する際の参考になるように思います。
(「Live News α」5月27日放送より)

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