約4年半ぶりに27日に韓国・ソウルで開催された日中韓首脳会談は、日中韓FTA(自由貿易協定)の実現に向け、交渉を加速させていくための議論を続けることなど、「経済、貿易分野」や「人的交流」「持続可能な開発」など、6項目の「共同宣言」をとりまとめ幕を閉じた。

内閣広報室提供
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ただ、日中韓の首脳がそれぞれの懸案を議論する会談が始まる直前に、存在感のアピールに躍起だったのが北朝鮮だ。3カ国の首脳がソウルに一堂に会した27日の未明、突如として、人工衛星と称するロケットの発射を通告したのだ。

「3カ国会談を意識しているのは明白」

同行筋は「北朝鮮内部の事情もあるだろうが3カ国会談を意識しているのは明白だ」と分析する。

通告を受け、岸田首相は3カ国会談の冒頭で、「発射を強行すれば国連安保理決議違反であり、北朝鮮に対して強く中止を求める」と述べ、議題として提起した。

3カ国会談を意識か…
3カ国会談を意識か…

会談前から、通算10回の会談で信頼関係を構築してきた岸田首相と尹大統領が連携して、北朝鮮に影響力のある中国に、緊張緩和への協力を求める方針だったが、会談を通じ3カ国は、朝鮮半島問題の解決に向け引き続き努力することで合意した。

会談を終え共同記者会見に臨んだ岸田首相は、「北朝鮮の非核化と朝鮮半島の安定が、日中韓の共通利益である点を改めて確認した」と強調した。

政府関係者は、「3カ国会談のタイミングを狙ってロケット発射を予告したのだろう」と分析し、「存在感をアピールする狙いがあった」と振り返った。

懸案山積の日中首脳会談

一方、3カ国の会談を前に、26日夜に行われた岸田首相と李強首相の初の正式な会談は、外務省幹部が「かなり真剣なやりとりができた」と話すなど、会談は同時通訳で約1時間に及んだ。

中国の李強首相と握手を交わす岸田首相 5月26日
中国の李強首相と握手を交わす岸田首相 5月26日

中国の国内経済の低迷からか、外務省関係者によると「中国側は経済問題に重点を置いていた」という。また、中国には、対立するアメリカが、日韓との3カ国の連携を強化していることに、くさびを打ちたいという思惑があった。このため会談では、人的交流の拡大など前向きなメッセージを打ち出すべく調整が続いていたが、焦点があたったのは、日中に横たわる懸案だった。

台湾の頼清徳新総統
台湾の頼清徳新総統

台湾の頼清徳新政権が発足した直後に、中国軍が、台湾を取り囲んだ軍事演習を実施したことについて、岸田首相は「台湾海峡の平和と安定は極めて重要だ」と伝えた。すると、李強首相は「台湾問題は中国の核心利益の核心だ」と反論した。

さらに、福島第一原発の処理水放出を受けた中国の日本産水産物の禁輸措置について、岸田首相が即時撤廃を求めたが、こちらも、李強首相は「放射能汚染水」との言葉を用い「海洋放出は全人類の健康に関わる」と反論。理解を得ることはできなかった。

福島第一原発の処理水については平行線に
福島第一原発の処理水については平行線に

外務省関係者は会談について「お互いが言いたいことを言った」と述べる一方、懸案解決には「トップ対話の継続が重要だ」と会談を振り返った。

今回の会談を受け、中国国内の経済成長の鈍化や、米中の対立など中国の懐事情も推し量りながら、今後も粘り強い対話の継続が必要になりそうだ。
【執筆:フジテレビ政治部 門脇功樹】

門脇 功樹
門脇 功樹

フジテレビ 報道局 政治部