ここ数年、三陸・宮城沖でとれる「魚」に変化が起きている。これまで、西日本や関東の近海で獲れていた魚が、いま宮城県内で異常なほどまでに水揚げされている。さらに、恐ろしい見た目の「悪魔のサメ」も…。宮城の海で一体何が起きているのか。
マダイが5トン!思わぬ大漁も販売は…
この記事の画像(10枚)気仙沼市魚市場。水揚げされたのは、沿岸の定置網にかかった「マダイ」。2023年は4月末の時点で、150キロほどの水揚げだったのが、2024年はその30倍以上、5トンを超えている。さらに、縞模様が特徴の「イシダイ」や、寿司のネタとしても人気の「コウイカ」、重さ10キロを超える「ヒラマサ」など、これまでは西日本を中心に水揚げされてきた魚が次々と気仙沼でとれるように。
思わぬ「大漁」だが、市場関係者が言うには、普段食べる魚ではないので、変わったものが入ってもなかなか販売には結びつかないとのこと。地元でなじみの薄い魚は、ほとんど引き合いがないそうだ。
サンマやサケの沖合のみならず 影響は沿岸漁業にも
〝海の異変〟といえば、近年はサンマやサケなどの不漁が続いている。しかし今回はそれらの魚種が獲れる沖合ではなく、陸地からほど近い「沿岸漁業」の異変。気仙沼漁業協同組合臼井靖参事は、マダイに限らず、獲れる魚がその年によって変わってきている印象があると語る。
宮城県内初「悪魔のサメ」捕獲
宮城の海にいないはずの魚は他にも…。やってきたのは仙台うみの杜水族館。その魚は、薄暗い部屋に展示されている。
鋭い歯に、薄ピンク色の肌。恐ろしいその見た目から「悪魔のサメ」とも呼ばれる「ミツクリザメ」だ。
普段は深海に生息しており、頭から突き出た器官で生き物の微弱な電流を感知。餌となる魚やエビを探すのだという。4月に女川沖の底引き網から見つかり、宮城県内で初めて捕獲された。
捕獲例少ない希少なサメ
これまでは2016年に見つかった茨城県沖がミツクリザメの北限と考えられていた。
仙台うみの杜水族館の大谷明範さんによると、ミツクリザメは世界中の海にいると推測されているが捕獲例は非常に少ないという、年に数回出会えるか出会えないかというサメ。北限域が茨城県沖と考えられていたミツクリザメが宮城県で見られるのは非常にまれだという。仙台うみの杜水族館での展示後は研究機関に提供され、DNA解析などが行われる予定だ。
南の海域の魚 なぜ宮城に?
女川で見つかった深海のサメから、気仙沼で大量に揚がるマダイまで、共通しているのは、南の海域に生息している魚ということ。なぜ宮城の海まで北上してきているのか。
宮城の漁場の環境や漁獲量などを調査している、県水産技術総合センターの伊藤博上席主任研究員によると、2016年くらいから寒流の親潮が南の方に下がってこなくなっており、その翌年、2017年くらいからは、逆に暖流の黒潮が西の方で大蛇行の現象を起こし、通常より北の方まで黒潮の影響が及んでいるのだという。この2つの状況が合わさり、宮城県沖は水温が高くなっているそう。
その影響か、暖かい海域に生息する魚が県内で次々と確認されている。ミナミクルマダイやウスベニコウイカなど、南の海域に生息していた魚類が2023年だけで20種類以上、初めて見つかった。
暖かい海水が流れ込んでくる状況は、実は特に珍しいものではなく、これまでにも何度か発生しており、最長で5年ほど継続した。今回も元に戻る可能性はあるが、もしもこのまま続けば、冷たい海に生息する魚の漁獲量はどんどん減っていくと考えられる。
今後、世界三大漁場とも呼ばれる三陸の海はどうなっていくのか。
取材後記 「異常が日常」に…
異常とも思える事態に取材を進めたが、地元の漁業関係者は極めて冷静な反応だった。
気仙沼の漁業関係者「獲れなかった魚が獲れるようになり、獲れた魚が獲れなくなってきている。近年はずっとその調子。別に驚くべきことではない」
前述にある黒潮の大蛇行が起こる以前からサンマの漁獲量は減少しており、今回の黒潮の北上が追い打ちをかけたとみられる。海流の変化はいずれ元に戻る可能性はある。しかし、地球温暖化による海水温の上昇はこれからも長期的な影響を与えるだろう。現にホヤは昨年の猛暑の影響で水揚げ量が減少している。
いま起きている海の異常は、いずれ日常的な現象になっていくのかもしれない。
(仙台放送)