FNN投稿サイト「ビデオポスト」に寄せられた1本の動画。島根・松江市で撮影されたものだが、撮影者の乗った車がハクチョウに“襲われて”いた。
水上を優雅に進む姿から、穏やかなイメージをもつハクチョウだが、専門家によると、凶暴な一面も持ち合わせているという。ハクチョウがなぜ車を襲ったのか、取材してみると、動物の持つ習性と生息環境の変化が背景にあった。
穏やかなイメージのハクチョウが車を襲う
車をつっついているのは大きなハクチョウ。

クチバシで何度も車のボディーを突っつく。音を立てて何度もくちばしをぶつけ、まるで敵を攻撃しているようにも見える。
FNN投稿サイト「ビデオポスト」に寄せられた動画だ。
イメージを覆す、攻撃的な姿のハクチョウ。車への“被害”も心配になり、島根・松江市に住む投稿者のもとを訪ねた。

「被害にあった車がこちらです。ハクチョウにつつかれた跡がここからここまでです」と教えてくれたのが、動画を投稿した永田和正さんだ。
確かに、車には、くちばしで突っつかれてできた、無数の傷があった。

永田さんがハクチョウに“襲われた”のは、5月8日の朝のこと。
当日のドライブレコーダーの映像を見ると、細い農道を進む車の行く手をさえぎるように、ハクチョウが姿を見せた。
このとき、永田さんは「ハクチョウは穏やかな動物だと思っていたので、とりあえずやり過ごそう」と車を止めて待っていたが、このあと、ハクチョウの襲撃を受けることになってしまった。

永田さんは、当時の心境を「恐怖だけだった。どうしようもなく」と振り返った。
それまでにも、近くの水辺でハクチョウを見かけることがあったそうだが、陸上では初めて出くわしたという。
取材中にもハクチョウがあらわれた!
その現場で、当時の状況を振り返ってもらっていると、永田さんが思わず声を上げた。

永田和正さん:
あっ!います!います!
そこにはなんと、ハクチョウの姿。一度茂みの中に消えたものの、再び姿を見せると、近寄って来た。その様子は、まるで取材スタッフを威嚇しているようだ。

取材を受けていた永田さんも、ハクチョウに追われるはめになった。

このハクチョウが、車を傷つけたハクチョウと同じ個体かどうかはわからないが、近くに住む人の話では、近くの川に5年ほど前からハクチョウの「つがい」が住みついていて、道路を歩いているのをよく見かけるということだ。
エサ争いで“凶暴化”した可能性も
それにしても、なぜ、このハクチョウは攻撃的なのだろうか?
専門家に聞いてみると…。

島根大学生物資源学部・荒西太士教授:
コブハクチョウですね。鼻の先が黒くなっていて、くちばしがやや赤っぽい。泳いでいるときのような優雅な生き物ではない。
車を襲ったハクチョウは、外来種の「コブハクチョウ」。かつて観賞用として輸入され、いまでは国内の各地で野生化、繁殖している。
渡り鳥の「コハクチョウ」とは異なり、年間を通じて、同じ場所で暮らしているという。山陰でも、川を占拠するかのように群れを成すコブハクチョウが確認されるなど、繁殖を続け、その数を増やしているようだ。

そのコブハクチョウが、今回の動画のように“荒ぶった”理由は何だったのだろうか?
荒西教授によると、車体に写った自分の姿を、縄張りを荒らす「ライバル」だと思い、攻撃したのではないかということだ。

特に春の繁殖期には気が荒くなり、目に映るものすべてを攻撃するケースもあるそうだ。さらに、荒西教授は「ここ最近、繁茂する水草がピークを迎えて減りつつあるので、ひょっとすると、エサをめぐる競争が激しくなっているのかもしれない」と推測する。

松江市内の河川では、コブハクチョウの大好物の水草が10年ほど前から大量に繁茂、国や市などが対策に乗り出した結果、2021年をピークに減少傾向だ。
エサの水草が少なくなったことで、コブハクチョウも「エサ争い」のため、気が荒くなっている可能性があるということだ。
近寄らずエサを与えたない
では、コブハクチョウを見かけたとき、どのように対処すればよいのだろうか。荒西教授の答えは、とてもシンプルだ。

島根大学生物資源学部・荒西太士教授:
近づかないのが一番良いと思います。
コブハクチョウを許可なく保護や駆除することは法律で禁止されている。見かけても、近寄らず、絶対にエサを与えてはいけない。

実は、招かれざる外来種のコブハクチョウ。
エサ不足が続けば、イネなどの食害も心配されるが、人間とは互いにつかず離れず、共存していくほかないようだ。
(TSKさんいん中央テレビ)