小学校の教諭だった女性が、性教育インストラクターとして小中学校で講演活動を行っている。教諭時代「はどめ規定」のため使えなかった表現や内容に踏み込みながら、性教育を「幸せに生きるためのお守り」として、子供たちに正しい性の知識を伝えている。

教諭をやめ性教育インストラクターに転身

今年3月、卒業を控えた中学3年生に「性行為」という言葉を使って、交際相手との向き合い方について語りかける女性。インクルーシブ・ラボ代表の坂本麻季子さん。

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インクルーシブ・ラボ 坂本麻季子代表:
これは声を大にして言いたいのですが、付き合うと性行為はイコールではありません。付き合っているから性行為をしなきゃいけないわけではありません。

坂本さんは小学校の教諭だった。18年勤めた後に退職し、2年前に性教育インストラクターとして活動を始めた。きっかけは、子供の性被害の実態をニュースで知ったことだった。

インクルーシブ・ラボ 坂本麻季子代表:
誰にも言えていない子供たちを含めると、1万5000人くらいの被害者がいると言われています。私は運良くそういうお子さんに出会わなかったと思っていた。でも良く思い返してみたら、「こんなことされていたら、性暴力だよ」と子供たちに言ったことがなかったし、「性暴力を受けていたら助けてあげるよ」と言ったことがなくて、それは子供たちは言えないよねと。

学校で「性」はどこまで教えられるか

文部科学省が定める学習指導要領には、小学5年の理科、中学1年の保健体育の項目に、「人の受精に至る過程や妊娠の経過は取り扱わないものとする」と書かれている。
「はどめ規定」と呼ばれるこの文言があることで、坂本さんは教員時代、性について話すことに“ためらい”や“難しさ”があったと振り返る。

インクルーシブ・ラボ 坂本麻季子代表:
性行為に触れずに、性暴力は語れないと思う。そうなると、なかなか現場では踏み込めない領域になる。

宮崎の中絶率は全国ワースト1、2位

宮崎県の人工妊娠中絶実施率は、2020年と2021年は全国ワースト1位となり、近年はワースト1位と2位を行き来している状態。このうち2022年度は、19歳以下の中絶の件数が101件。数は多くないものの、中学生の中絶もあると言う。

県立宮崎病院 産婦人科・髙村一紘医師:
妊娠、中絶したということに対する“後悔”といった感情も分からないまま中絶してしまっているようなお子さんたちもいる。特に中学生は。

避妊が必要だという時には、数ある選択肢の中の避妊を選択する。それは知識とスキルと態度がないと選べないが、今の若い子たちの現状はそういった教育を等しく受ける場がない。

性教育は「幸せのためのお守り」

これまでに小中学校や児童館で講演してきた坂本さん。どこまで踏み込んだ表現で話すか、事前に学校と打ち合わせた上で行っている。そして子供たちには、性教育は自分を守り、相手を傷つけないための知識で、「幸福に生きるためのお守りである」と必ず伝えている。

インクルーシブ・ラボ 坂本麻季子代表:
人間関係について学ぶことも性教育だし、もちろん妊娠・出産についても、性教育では大事な話。好きだからこそお互いに話し合ってとことん話し合って、「どうする?性行為する?しない?」と、とことん話し合える関係をつくれる人を見つけてほしいなと思う。

真剣に話す坂本さんの言葉は生徒たちにしっかり届いたようだ。

講演を聞いた生徒:
・きょう学んだ情報をしっかりと自分の中に取り入れて、行動することで自分自身や相手のことも守っていけるようにしたいと思った。
・相手のことを考えられる大人になりたいと思った。

坂本さんが目指しているのは、性教育が人権教育として当たり前になる社会だ。

インクルーシブ・ラボ 坂本麻季子代表:
安心安全に自信を持って、自由に生きる権利のことを私は人権と思っている。性教育もみんなが知っていることでパートナーと話し合うことができるし、安心して自分の意見を言うことができる。パートナーとの時間も安全であることを考えると、性教育は人権教育だと腑に落ちると思う。

教育現場の葛藤を知っているからこそ、坂本さんは子供たちに真っ直ぐな言葉で向き合っている。性教育は自分の身を守り、相手を思いやるための教育だと、学校や家庭で意識する時が来ているのではないか。

坂本麻季子さん
宮崎県日南市出身 小学校教諭として18年間勤務 2022年~インクルーシブ・ラボ代表 性教育インストラクターとして小中学校で講演活動を行う 不登校児のサポート活動も 私生活では3人の小中学生の子育て真っ最中

(テレビ宮崎)

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