町の景観を壊す落書きがなくならない。落書きはどんな犯罪にあたり、その後にどう影響していくのか専門家に話をきいた。そして効果的な対策を立てた地域もあった。
2023年10月から2024年1月にかけ、愛知県一宮市の信号制御機や郵便ポストなど合わせて8カ所に落書きをした疑いで、16歳の男子高校生が書類送検された。
「のり」の容器にインクを詰めた手作りのマーカーやスプレーなどで落書きをしていて、調べに対し「グラフィックアートなどに興味を持っていた」と容疑を認めている。
こうした落書き事件は東海地方で何度も起きていて、2008年には、東山線の車両が落書きされたほか…。
2018年には、豊田スタジアムや…。
イタリアの文化財に、岐阜県の学生が落書きしたこともニュースになった。
2024年1月には、名古屋城の正門の壁にも傷がつけられ、落書きされているのが見つかった。名古屋城総合事務所によると、犯人はまだ分かっていない。捜査状況や文化庁と相談して今後修理する予定だという。
落書きは犯罪だ。牧野太郎弁護士によると、ものに落書きすれば「器物損壊罪」、そして企業や店舗などに書いてしまうと「威力業務妨害罪」となる。建物に書いた場合は「建造物等損壊罪」にあたり、5年以下の懲役刑となる。
落書きするにあたって別の罪を犯していることもある。たとえば明らかに屋根に上って落書きしたと分かる場合は「住居侵入罪」にあたる。またその落書きの内容が、誰かを侮辱している内容だと「侮辱罪」、名誉を傷つける内容だと「名誉毀損罪」など、複数の罪が成立することもあるという。
被害者からの賠償請求も考えられる。1989年には東京で落書きを消すための掃除や買い替えなどに140万円の損害賠償が認められ、2018年には茨城県取手市で修復費などに457万円が支払われた。また韓国では2023年、宮殿にスプレーで落書きをした男性に推定1090万円前後の修復費用が請求された。
このように落書きには大きな代償が伴うことになるが、なぜ後を絶たないのか。「写真でわかる世界の防犯」などの著書がある立正大学の小宮信夫教授は、落書きの原因となくすためのポイントを3つ挙げる。
立正大学の小宮信夫教授:
分かりやすくいうと自己アピールですね。自分の存在感を示すとか、自分の価値、存在している意味そういったものを社会に知ってもらう、知らしめるということだと思いますよ。自分がここにいるんだよっていうのをアピールしたいがために、落書きをするという
集団の中で「孤立している」と感じる少年が多いのではないか、置かれた境遇やストレスなどが影響しているという。
2つ目は、落書きを「放置してはいけない」ということだという。アメリカで提唱された「割れ窓理論」に基づいている。
「管理が行き届いていないところで、犯罪が起きやすくなる」という考えで、例えば、割れた窓や落書きを放置していると「ここには落書きしても平気なのかな」と考え始める人が出てきて、それが次第に当たり前になっていく。そして他の犯罪も増え、最後は強盗や殺人などの凶悪犯罪の発生につながってしまうという考え方だ。
アメリカのニューヨークは、1980年代まで地下鉄で強盗が横行するなど「犯罪都市」の代名詞とも呼ばれていたが「割れ窓理論」に基づいて「車両の落書きを消す取り組み」を行ったところ、5年後、落書きがゼロになったとされている。また「無賃乗車」の取り締まりも強化すると、強盗の件数が85%も減少したという。「軽微な犯罪」を減らすことで、凶悪犯罪そのものを減らすことに成功した町として知られている。
小宮信夫教授:
書かれた落書きをすぐに消せば、自分でも見られないし他人にも見てもらえない。だからやる気がなくなってくる。諦める。それが1番の対策
鉄則は、落書きを見つけたらいち早く消す。落書き犯のやる気を削ぐことで、被害の拡大を防ぐことができるという。
また、名古屋市の繁華街、中区錦2丁目の長者町繊維街では、ある方法で落書き被害を減らした実績がある。
シャッターや壁紙には、着物をきた殿様と姫様に…。
今にも動きだしそうなゾウなど、様々な「アート作品」が描かれていた。
ここでは古くから落書きの被害が絶えなかったが、2000年ごろから地元のデザイン学校の学生たちが絵を描いたところ、被害はほとんどなくなったという。
小宮教授もあらかじめ絵を描くことで、落書き犯が上書きしづらく、描いても落書き犯の絵が目立たないということで、有効としている。
女の子の絵が描かれた呉服店の店主も、効果を実感していた。
呉服店の店主:
以前は全く無地の茶色のシャッターだったので、とても明るくなりました。絵は絶対に書いてあったほうが、抑止力になっていると思います
2024年3月1日放送
(東海テレビ)