4月に発表された、新小学1年生が答えた「将来就きたい職業」で4年連続1位に輝いた「ケーキ屋さん・パン屋さん」。そんな、世代を問わず地元の人に愛され続けている街のパン屋さんが、今、厳しい現実に直面しています。

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4月5日に発表された倒産動向の調査データによると、2023年度の「パン屋さん」の倒産件数は前年度の約2倍に急増。調査開始以来、最多を更新しました。

第一生命経済研究所  首席エコノミスト 永濱 利廣氏:
ロシアのウクライナ侵攻によって、小麦の値段が大きく上がったと。そこに円安も進んだことによって、小麦の輸入価格が上がっていて、3年前から1.5倍以上に上がっています。(経営は)相当厳しいと思います。

ロシアもウクライナも世界トップクラスの小麦輸出国。 ロシアによる軍事侵攻や円安などの影響で、パンの原材料が高騰したのです。

「個人の努力ではどうしようもない」パン店の葛藤

「めざまし8」が取材したのは、東京・豊島区にある創業6年目のパン屋さん「セイルノッツ」。

創業6年目「セイルノッツ」渡辺祐也 店長:
毎週のように(原材料の)業者さんから値上げの連絡をもらっていますね。もう本当に止まらないですね。

こちらのお店では、今年1月、やむなく値上げに踏み切ったといいます。 

創業6年目「セイルノッツ」渡辺祐也 店長:
1割ぐらい値上げさせていただきました。(本当は)2割、3割とか上げたいんですけど、やっぱりそんなに上げちゃうと、お客さまもびっくりされてしまうし、難しいですよね…。全国のパン屋さん、みんな同じだと思いますね。どこも大変だと思います。

専門家によると、パンはスーパーなどで安い商品が手に入る分、値上げは客離れに直結しかねません。そのため、原材料の価格が上がっても、その分を商品価格に反映しにくいといいます。

高騰し続ける原料費と、安易に上げられない値段。八方ふさがりの中で、“重い決断”をしたお店もありました。

東京板橋区の創業10年目のパン屋さん「KajiPan!」。朝から行列ができるほどの、人気店です。

常連客:
こんなに安くてね。それでおいしいし、毎週買いに来てる。

――何が一番好きですか?
常連の子ども:

今まで来たところで、ここのパン屋さんが一番おいしいと思う。メロンパンとか。

一番人気は、メープルシロップが香るメロンパン。 1つ、130円。さらに、クリームパンも130円。10年前のオープンから、どのパンも値上げせずに来たといいます。

「KajiPan!」店主:
値上げはやっぱりお客さんにとって負担になるだけなので。いっぱいたくさん食べてほしいので。

店主の胸の内にあるのは「店を愛してくれるお客さんに、おなかいっぱい食べてほしい」という思い。しかし 今、お店に掲げた張り紙には、「5月31日(金)閉店のお知らせ」の文字が。

閉店のお知らせ
閉店のお知らせ

そこには、閉店理由として、「大幅な値上げは私の本意とはかけ離れており、5月末での閉店を決断しました」と、不本意な値上げではなく、店を閉じるという道を選んだことが記されていました。

この日やって来たのは、10年間通い続けたという常連客。10年で、結婚、出産、子育てを経験、まさにお店と共に人生を歩んできたといいます。

10年通う常連客:
パンのウェルカムボードを作ってもらいました。結婚式の時。温かみがある感じのものができたので、好評だったんですけど。お値段を上げない主義で買いやすくっていう気持ちを持って、ずっとやってくださっていたので、閉店するっていうことになっちゃって、すごいなんか…ずっと応援していたのですごく寂しいです、家族みんな。
ちゃんとおいしいものはちゃんと価値をつけて、全然もう(値段が)倍になっても全然問題ないようなパンだと思っています。代わりになるようなところは、私たちの中では、今のところ見つけられないですね。

寂しさに涙を流す常連客
寂しさに涙を流す常連客

たとえ倍に値上げされても、パンを食べ続けたいといわれるほど、地元の人に愛されている 街のパン屋さん。

「KajiPan!」店主:
原価自体がもう上がりすぎちゃって。うちでいうと(菓子パンは)大体50円から、100円ぐらいは少なくとも上げないと原価の回収は無理だろうというふうに思っています。
やっぱり私の頭の中にはパンっていう、おいしくて、当たり前で、気軽に買えるっというものだとずっと思っているんで。うちらみたいな小さなお店っていうのは、そのうち多分消えていく運命なのかなと。個人の努力ではもうどうしようもないです。今の世の中は…。
(めざまし8 4月12日放送)