サッカー・J2の甲府といえば、清水エスパルスが昨季の第7節に0対1で敗れたことが決定打となり、監督解任につながった“ある種”の因縁の相手だ。あれから1年。エスパルスは試合終了間際に決勝ゴールを挙げ、見事に雪辱を果たした。
第9節で初めて首位に浮上
4月7日。
山梨県甲府市小瀬にあるJITリサイクルインクスタジアムの桜は、あの日と同じように満開だった。
2023年4月1日。清水エスパルスはこの地で甲府に敗れ、開幕から7戦連続で未勝利と先の見えない状況に陥っていた。
当時のゼ・リカルド監督は解任に。後を受けたのが現在も指揮を執る秋葉忠宏 監督だ。
秋葉監督はチームを立て直すも、ここ一番での勝負弱さが響き昇格を逃した。
甲府といえばエスパルスと縁の深いクラブだ。篠田監督はかつてのエスパルスの指揮官であるし、今やチームに欠くことの出来ない蓮川と中村は昨季甲府に在籍していた。富士山が静岡・山梨にまたがることから、両者の対戦は“富士山ダービー”と称される。
だが、感傷に浸っている余裕などエスパルスにはない。
試合は互いに堅い守備のベースにする一方、エスパルスは“つなぐ”サッカー、甲府は“スペースに蹴り込む”サッカーを展開。
流れとしては、集中力を切らした方が負ける。そんな状況だった。
エスパルスはケガの影響で先発を外れた蓮川の存在を高橋がカバーし、住吉が甲府のゴンザレスを完璧に封じるなど、“慌てない”守備でスキを与えない。
他方、攻撃面では矢島が先発起用に応えるかのように4本のシュートを放つなど積極的なプレーを見せる。
後半も中盤に差し掛かる中、この時期にしては高い25℃を超える気温がプレーの精度に影響を与える状況となったが、エスパルスは終盤に乾・北川・北爪といった主戦級のプレーヤーを送るだけの余裕を持っていた。
するとアディショナルタイム、山原の放ったコーナーキックは甲府ディフェンスにクリアされるも、反対から詰めた乾がダイレクトで折り返し、住吉が豪快なヘッド。貴重な決勝点を奪い、勝ち点3を手にすることに成功した。
この日は首位の岡山が引き分けたことで、エスパルスは今季初めて首位の座に。
秋葉監督は「まだ改善の余地がある」と浮かれた様子はないものの、リーグ戦の序盤に首位に立てたことを素直に喜んだ。
ただ、今季は9試合で13得点。“超攻撃的”を標榜するチームとしてはまだまだ足りないものがあるのも事実だ。
それゆえに、10日の練習では中央を突破する攻撃に時間を割き、秋葉監督からは「背後を狙う!」「タテに走れ!」「相手の陣形を壊す!」などと檄が飛んだ。
次節対戦するいわきには昨季2試合いずれも大勝を収めているが、互いにメンバーが入れ替わっており同じような展開にはならないだろう。
ただ、次々とケガ人が復帰する中で、2023年を再現し得るだけのポテンシャルを秘めていることは間違いない。
秋葉監督「まだまだ我々らしくはない」
この記事の画像(7枚)-甲府戦を振り返って欲しい。
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
今年は勝負強さをテーマにやっているが、選手たちは苦しい時に自分たちから崩れることなく、競ったゲームの中で最後の最後に勝利を持ってくる。千葉戦・熊本戦・秋田戦もそうだが、実際に勝ち切ってきていることに選手の成長を感じている。忍耐強さ・我慢強さ・走力を含めて良い状況だと思っている。
-2023シーズン第7節の甲府戦はコーチとして現場にいた
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
絶対に勝たなければならない、勝ってやろうと思っていた。去年の屈辱は表現しがたいもので、アウェーだが何が何でもという気持ちだった。監督として思い描いて通りの展開になったし、選手もそれに応えるパフォーマンスをしてくれた。なおかつ多くのサポーターが訪れてくれた。スタジアムの空気感…彼らも同じように悔しさを味わって再び来てくれた。あの応援の状況で勝ち切ることができたことで「ONE FAMILY」になれた。価値のあるゲームになった。
-矢島が初先発し、乾・北川を控えにした采配の狙い
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
ケガ人がいることや、勝ち点が積みあがっていることから、いろいろな選択が生まれる。今回は思い切ったトライをした。良い悪いの両方があり、最初から上手くいくことばかりではないが、こうしたトライが今後につながってくる。チームとしても個人としても戦術の幅が広がったと思う。
チームが90分間をどうマネジメントするか、こういう選択肢もあるということを成功体験として残してくれたのも大きい。まだ29試合残っている中で、いろいろな選手の力が必要になってくる。そうした意味で、公式戦でいろいろな経験ができたことは財産になる。出た選手には自覚を促して行くし、日々のトレーニングで成長しさらに伸びて欲しい。
-ようやくJ2の首位に
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
第9節とまだ改善の余地がある段階で、この勝ち点を得て首位に立てたということが非常にうれしい。これで非常に調子が良い状態になれば、さらに勝ち点が伸びるし、ここから抜け出せるのではないかと思う。
だからこそ今やるべきこと、足りないことや伸ばすべきことをスタッフと見極めながら精度を上げていきたい。具体的には攻撃力。13得点ではまだまだ我々らしくはない。シュート本数は少ないので改善の余地はある。その中で絵は描けている。今日の練習もゴールに最速・最短で向かう狙いを持って、どこからでも点が獲れるように訓練した。伸びしろのあるチーム。守備の改善点もわかっている。勝ちながら自分たちの良いところを伸ばして行くことができたらと思う。
-いわきには昨季大勝している
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
我々も変わっているし、いわきも変わっている。大量得点した選手がいないので、そこを考えると痛い目を見る。いわきは対人で強く来るチーム。しっかりとリスペクトしながらゲームをしたい。特に3バックのチームとやるのは今季の開幕・熊本戦以来なので、対策をしっかり立てた上で我々の戦いにこだわりながら試合に臨みたい。
矢島選手「誰が出ても勝っていく」
清水エスパルス・矢島慎也 選手:
初先発は難しい展開ではあった。守備から入って失点しないというところでは良かったが、攻撃面でもっとやりたいことはたくさんあったけれど、それが上手くできなかったのは反省点。
4本シュートを打ったことについて、最後に落ち着くところという意味ではまだまだトライしなければならないし、前のポジションで出ている限りゴールに直結することが求められているので、そこはしっかりやらないといけない。
今まで試合に出ていた人が連戦やケガで出られなくなった時に、チャンスをつかんでいくことが大事。誰が出ても勝っていく。上に行くチームはそうしたことができないといけない。その意味で甲府戦を勝ち切れたことは大きな収穫。
シーズン初めはコンディションが悪かったので、今もまだまだだが、自分はいろいろなポジションができる。出たポジションで役割は違うが、そこで求められていることにフォーカスして、チームの勝利に貢献できることがベストだと思っている。
中村選手「圧倒的な差で優勝を」
清水エスパルス・中村亮太朗 選手:
甲府は負けたくない相手だったので勝ててよかった。ある程度、相手も意識はしてきただろうし、篠田監督も自分のプレーはわかっていただろうけれど、試合では1つ上のより高いポジション(トップ下)でやったので意外だったのでは。
相手が中を締めて、中に入らせないようしてきたので、自分のスペースが狭かったかなという印象はある。前半に関してボールを持たされていた印象はあるが、相手も自分たちにプレッシャーをかけられないでいた。相手の後ろが重い時に、もっと攻撃できなかったか?という反省はある。
後半は苦しい展開もある中で、終了間際の得点で勝ちに持って行けたのはプラスにとらえていいし、一番に求めていたのは勝ち点3。ポジティブにとらえて、良くないところは次節までに修正することで、この経験がいいものになると思う。
首位に立ったけれど“そこにいるべき”と自分たちも理解しているし、いなければいけない。これから過信しないで圧倒的な差で優勝できるようチームを作って行きたい。
北川主将「1つ落とせば順位は…」
清水エスパルス・北川航也 主将:
連戦で2試合欠場したが早く復帰することが目標だったので前節出られたのは良かった。
右足の腿裏の軽い症状だったが、スタッフと話して大事を取った。外から見る時間が自分にも必要だったし、休みは有意義な時間になった。乾やカルリーニョスも休み、若い選手が使われる機会となって、後のチームにとって彼らの経験はいい効果につながると思う。
自分が出られないのは悔しいが、彼らのプレーに感謝するし、次に活かして欲しい。去年は下位スタートだったため、チームに若手を登用する余裕がなかった。
いわきはアグレッシブなチーム。今季は安定して勝ち点を取っている。去年のようにはいかないし、彼らも苦い思い出から燃えてくるだろう。だが、そんな相手に勝たないと優勝はない。首位に立ったが、まだ上位は勝ち点が詰まった状態。1つ落とせば順位は入れ替わる。ここで勝って差を広げたいし、勝ち続けるためにいい準備をしたい。いわきは前に圧力をかけて来る分、後ろにスペースができる。そこを狙いたい。
甲府戦にはたくさんのサポーターが集まった。それだけ期待してくれる人がいるのは幸せなこと。自分たちに間違いなく力を与えてくれる。最後の一歩、苦しい時のジャンプ、足を出せるか、スプリントできるかはその声援に込められている。新しく加わった選手は口々にアウェーでのサポーターの多さに勇気づけられている。勝ち続けることと結果で声援に応えたい。
高橋選手「我慢強くやれた結果」
清水エスパルス・高橋祐治 選手:
(誕生日を迎えて)心境の変化はあまりないが、来年32歳を迎える時はJ1の選手でいたいなと思う。充実した年になるように1日1日を大事に過ごしたい。
守備の手応えは悪くない。前回の甲府戦では後ろで住吉と組んで、1対1の局面でしっかり弾けていたし守れていたと思う。ミーティングではチーム全体として、自分たちからは崩れないということを確認しているし、監督からも言われている。流れが悪い時間帯などでもやるべきことを確認できている。そうした我慢をした上で、セットプレーだったが住吉のゴールというご褒美が転がってきた。チームとして我慢強くやれた結果だと思う。
去年よりみんな慌てずに落ち着いてプレーできてている。90分を通して、1点多く獲っている方が勝ちというサッカーの本質を選手が理解できていることが良くなっている要因だと思う。
いわきはハードワークしてくるチーム。走るし、球際も強いし、体も強いし、前にチャレンジしてくる。相手以上にハードワークしないと苦しいゲームになる。それに負けないようにしたいし、メンタル面では昨季2試合ともウチに大敗しているので強い気持ちで来ると思う。その気持ちに打ち勝つだけのメンタルをこっちも準備しておきたい。
原選手「シーズンを通して総合力を」
清水エスパルス・原輝綺 選手:
自分の状態は少しずつ戻っている。チームは去年より難しいシーズンを迎えたが、その中で勝ち点をうまく拾って、いま1位になっている。これを取りこぼさないようにしたいがシーズンはまだ長いので、順位が入れ替わることもないとは言えない。ただ、入れ替わったとしても、そこから崩れずにシーズンを通して総合力をつけて、結果的に自動昇格圏にいられればいい。
欠場していた間に吉田・北爪両選手らが同じポジションに入ったが、彼らのストロングポイントは誰が見てもわかるくらいにはっきりしていて、それは個人としても尊敬しているし、学ぶところもある。自分の特長は“わかりづらいところ”に良さがあると思う、それを出せるようプレーしたい。
右の前のポジションはキャラクターが全く違うブラガと松崎が出ている。人によって自分の立ち位置ややり方を柔軟に変えていかなければいけない。自分ならブラガにはスペースに走らせるボールを増やすことができるし、松崎とはずっと仲良くしていて彼のやりたいことはわかっている。試合で組むのを楽しみにしている。
(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)