水産県・長崎の漁業に注目するシリーズ「長崎さかな最前線」。今回は春から夏にかけて旬を迎える「ヒラマサ」にスポットをあてる。長崎で「ヒラス」と呼ばれる人気の魚に、鮮魚のバイヤー経験者も熱い視線を注いでいる。

バイヤー注目の「ヒラマサ」とは

午前4時の佐世保魚市場に、ある男の姿があった。

水揚げされた魚に目を光らせる中村義昭さん
水揚げされた魚に目を光らせる中村義昭さん
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水揚げされたばかりの魚を一匹一匹見て回る。中村義昭さんは、鮮魚のバイヤーを20年以上担当したキャリアがある。

中村義昭さん:
魚はスーパーマーケットの生命線である

鮮度の高い魚を仕入れて客に提供するのがバイヤーの使命だ。魚の仕入れ先は魚市だけではない。

養殖されているヒラマサ
養殖されているヒラマサ

佐世保市の九十九島にある養殖場も仕入れ先の一つだ。この養殖場では「ヒラマサ」を育てている。

日出水産 出口末広社長:
最初はハマチだけを育てていたが、価格や肉質がいいので評価は良い。ハマチよりもヒラマサの方が身がしっかりしていておいしいと

天然の小さいヒラマサを、約2年かけて体長70センチほどに成長させ「九十九島ひらまささん」のブランドで出荷している。

スーパーマーケットの店頭に並ぶ「九十九島ひらまささん」
スーパーマーケットの店頭に並ぶ「九十九島ひらまささん」

中村さんが働くスーパーでは「九十九島ひらまささん」を全店舗で販売している。

ヒラマサ
ヒラマサ

そもそも「ヒラマサ」はスズキ目アジ科ブリ属で、ブリやカンパチにも似ているが別の魚種だ。ブリやカンパチに比べて漁獲量が少なく、養殖される量も少ないことから、ブリ・カンパチ・ヒラマサの中では一番値段が高い「高級魚」で、刺身にした時、時間が経っても生臭さが出にくく、コリコリとした食感と適度な脂のりでうまみが多いことから人気が高い。

長崎独自の食べ方で

自慢のヒラマサをもっと活用できないかと中村さんたちが注目したのが、長崎伝統の「白鉄火巻」だ。

「鉄火巻」の名前の由来は、鉄が真っ赤に熱した様子に似ていることからという説もあり、全国的にはマグロの赤身で作る。しかし長崎では、伝統的にヒラマサやブリを使った「白鉄火巻」が主流で、独自の発展を遂げてきた。

ヒラマサでつくる「長崎白鉄火」
ヒラマサでつくる「長崎白鉄火」

すし店だけではなく家庭でも食べることができれば話題になるのでは、と中村さんが働くスーパーでは2022年9月に販売を開始。売れ行きは好調だ。多くの人が魚を食べるきっかけを作ったことが評価され、長崎市の魚の魅力発信事業「さしみシティプロジェクト」に2024年2月認定された。

長崎市水産農林政策課 竹内裕二課長:
おすし屋さんが守られてきた長崎の文化が、今回スーパーマーケットで手軽に食べられるようになったということで、私たちも感謝している。今回「さしみシティ」に認定させていただいた

エレナ専務取締役 中村義昭さん:
長崎市以外のオール長崎で白鉄火を食べるようになれば、観光とも融合して、白鉄火をフックに魚食普及につながるものと思っている

ヒラマサの解体ショー
ヒラマサの解体ショー

白鉄火巻のおいしさを知ってもらおうと、中村さんは「ヒラマサ」の解体ショーを企画した。

エレナ専務取締役 中村義昭さん:
マグロの解体ショーはよくあると思うが、ヒラマサの解体ショーはほぼない。なかなか、魚の丸のまま見ることが少ないと思うので、これを機会に魚のさばき方を知っていただき、ヒラマサを知っていただければと思う

おろしたばかりのヒラマサで作るのは「白鉄火巻」だ。さらに飾り寿司も花を添えた。

「白鉄火」売り出しの背景

白鉄火巻を売り出した背景には、魚の消費量の落ち込みがある。

1人あたりの年間の消費量は、ピークの時に比べて4割以上も減った。長崎県の豊富な漁業資源を生かし発展させるためには、多くの人に魚をもっと食べてもらう必要がある。

――魚はよく食べる?

スーパーの買い物客:
週に1.2回。よく食べる、子供も食べるし親も食べるが、刺身におろすのは難しい。できないのでいつも親にやってもらっている

魚の消費量は減少する一方で、水産庁が行った水産物に対する消費者調査では、近年の支出額は横ばい傾向にある。水産庁は、水産物の価格が上昇傾向にある中で、消費者の購買意欲が減少しているわけではないと推察している。

さらには、今後の水産物の摂取量に関する意向を尋ねた調査では、「魚介類の摂取量を増やしたい」という回答が肉類を大きく上回っている。その反面で、調理することについての考え方では「できるだけ簡単にしたい」との回答が「おいしいものを作りたい」などを上回って最も多くなり、簡便化志向が強いことがうかがわれる。(水産庁「水産白書」より)

消費者のニーズにこたえて

「魚は食べたいが、もっと手軽に簡単に」という消費者の意識をスーパーマーケットのバイヤーもポイントにしている。

エレナ専務取締役 中村義昭さん:
魚離れが叫ばれている。まず我々が、食べ方の提案やそういったことを客に伝えることが重要だと思う。私たちが魚を販売する責任者として、魚食普及に向けた取り組みをスーパーマーケットというところから普段の食卓に提供していくことで、少しでもたくさん魚を食べてもらえたらと考えている

販売店に必要なことは、客の「おいしい」にこたえること。「白鉄火巻」を通して中村さんは長崎の魚文化を盛り上げようとしている。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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