企業で人手不足が慢性化する中、静岡県は人口世界一と言われるインドから人材の確保をめざしている。IT大国で数学の教育も進んでいて、優れた人材が多いからだ。既に静岡県内に進出しているインド系企業を取材すると、意外な問題に悩まされたという。誘致を進める静岡県にとっても参考になりそうだ。

静岡県でクリケット大会のワケ

富士市で開かれたクリケット大会(2024年2月)
富士市で開かれたクリケット大会(2024年2月)
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静岡県内ではあまり見かけないスポーツ、クリケット。2024年2月、静岡県は富士市でクリケットの大会を開いた。企業で人手不足が慢性化する中、県内にインドの企業やインドの人材を誘致するのが狙いだ。

クリケットはイギリス発祥で、世界ではサッカーに次いで2番目に競技人口が多いスポーツと言われている。日本では馴染みの薄いスポーツだが、特にインドでは国民的人気があり、プロリーグには年収30億円を超える選手もいる。

静岡県について説明する県職員
静岡県について説明する県職員

大会に参加したのは、首都圏のIT系企業のクリケットチーム8チーム約70人で、ほとんどがインド人だ。主催した県の担当者はプレーの合間に動画などを見てもらい、静岡県は東京から近いことや、専用のグラウンドで富士山を眺めながらクリケットを楽しめること、また食やレジャーにも恵まれていることなどをアピールした。

クリケット大会の参加者は「富士山がきれいで温泉があったり食べ物がおいしく、みんな来るのが好きです」と静岡県を評価するが、「東京を離れると給料が下がることが気になる」と話す人もいた。

人口世界一のIT大国を狙え

インド
インド

人口14億人を超える人口大国インド。静岡県は2024年度の当初予算に、インド訪問団の派遣やインドと県内企業とのマッチングなどの経費を計上し、インド系企業・インド人材の誘致を積極的に進める。

今なぜインド人材なのだろうか。
静岡県地域外交課の小関克也課長は「インドは中国を抜いて人口が1位になった。人口が多く経済発展も進んでいて、優れた学力の学生もたくさんいるのではないか。IT大国で数学についても3桁の掛け算ができる人が多いので、優秀な方々にぜひ静岡に来てほしい」と、インドに着目する理由を語る。

日本人が作ったカレーは不評

ゾーホージャパン川根本町オフィス
ゾーホージャパン川根本町オフィス

既に静岡県に進出しているインド系企業もある。
クラウドで顧客管理システムなどの販売やサポートを手がけるインド系のIT企業、「ゾーホージャパン(ZOHO)」だ。
休業中の温泉旅館を活用し、2018年4月に川根本町にサテライトオフィスを構えた。光回線のネットワークが町内全域に整備されていることが進出の決め手となった。 

スタッフ9人の内 6人がインド人で、パソコンによるシステムのサポートが主な業務だ。インド人スタッフは現地の大学で機械工学を学ぶなどスキルは高く友好的だが、日本で生活する上での問題は意外なところにあった。

ゾーホージャパン管理統括部・新川靖文さんによると、一番の問題は食事だったという。横浜のレストランから講師を招き近所の人にカレーを勉強してもらったが、インド人スタッフからは「全然ちがう」と不評だったそうだ。

専属のインド人シェフを雇用
専属のインド人シェフを雇用

このため、ゾーホージャパンは専属のインド人シェフを雇い、毎日3食 インド料理を提供している。インドのスパイスや米を取り寄せて料理する。新川さんは「食事(インド料理)さえあれば特に問題はない」と話す。

「静かな環境が大好き」

食事は日本人スタッフと一緒だ。バドミントンやテニスなど地域の人たちとの交流の話題で楽しく進む。

インドの伝統料理ビリヤニ
インドの伝統料理ビリヤニ

取材した日のランチは、インドの伝統的な料理ビリヤニとヨーグルトサラダだった。

インド人スタッフは「川根本町は静かなので大好き。インドはそんな感じではない。静かな環境が大好きなので、とてもうれしい」「本物の富士山を見てうれしかった。インドにいる時はビデオや本で見たことあるけど」と、日本で働いての感想を話す。

スズキ(本社・静岡県)の車はインドで人気
スズキ(本社・静岡県)の車はインドで人気

インドでは、浜松市に本社を置くスズキの車が町を席巻しているが、静岡県によると県内に住む外国人約11万人のうちインド人は700人程度で決して多くない。
習慣や食文化の違いなど難しい面はあるものの、企業のデジタル技術を通じた変革が進む中、優秀な人材を静岡県に誘致するためには、静岡県の立地条件や魅力、働きやすさをいかにアピールしていくかが、今後のカギとなりそうだ。

(テレビ静岡 特別解説委員・永井学)

テレビ静岡
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永井学
永井学

テレビ静岡 特別解説委員
1986年テレビ静岡入社
1986年~1996年(主に静岡市政担当や沼津支社駐在)
1996年~2001年(ニュースデスク)
2001年~2005年(FNNロンドン特派員)
2005年~2008年(ニュース編集長)
2008年~2009年(報道部長)
2014年~2023年(報道制作局長)
2023年7月~  (特別解説委員)
海洋調査船「ヘリオス」沈没事故や伊東市沖海底噴火などの長期取材に従事したほか、地方選挙や国政選挙の取材に長らく関わる。