能登半島地震で被災し、寮での生活や部活動ができなくなった石川県立能登高校ソフトテニス部の生徒たちが静岡県御殿場市での合宿を終えて、2024年3月 全国大会に臨む。めざすのは日本一だ。故郷や支援したくれた人たちに特別な思いがある。

被災で寮やテニスコートが使えず

御殿場市役所(2024年3月)
御殿場市役所(2024年3月)
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2024年3月4日 御殿場市役所に到着したのは、石川県立能登高校ソフトテニス部の生徒23人だ。能登半島地震で被災し、寮での生活や部活動ができなくなった。
2024年1月1日に発生した能登半島地震。最大震度7を観測し、能登高校のある能登町も震度6強だった。

能登高校の寮の周辺
能登高校の寮の周辺

能登高校の校舎自体の損傷はそれほど大きくなかったが、ソフトテニス部の多くの部員が生活する寮が甚大な被害を受けた他、テニスコートは自衛隊が活動拠点として使用した。

能登高校の寮
能登高校の寮

このためソフトテニス部は石川県の加賀市や交流のあった三重県の高校で合宿を続けてきた。そして3月28日からの全国大会に向けた合宿地として御殿場市が受け入れた。

富士山の麓の街で「日本一」めざす

被災地に入っていた御殿場市内のボランティア団体が能登高校の窮状を知って市に伝え、市がスポーツ設備の整っている宿泊施設「時之栖(ときのすみか)」に協力を依頼した。市と宿泊施設は災害時の協力協定を結んでいる。

高校生を受け入れた宿泊施設「時之栖」
高校生を受け入れた宿泊施設「時之栖」

御殿場に到着した部員たちは「部活動ではみんなと一緒に毎年の目標である日本一に向けてみんなで頑張っているので、御殿場の人たちには感謝しかない」「こんなにいい環境を支援していただいたので、勉学と部活動を一生懸命励みたい」と話していた。

時之栖(御殿場市)
時之栖(御殿場市)

受け入れた御殿場市の勝又正美市長も「頭の中は大変な故郷を思う気持ちもあると思いますが、少しでも癒しや安らぎも感じて、練習も一生懸命にやり富士山に負けない日本一の優勝を勝ち取っていただきたい」と激励した。

能登高校ソフトテニス部の練習
能登高校ソフトテニス部の練習

合宿先「時之栖」は宿泊施設のほか、テニスコートやフットサル場などを備えていて、東日本大震災の後にはサッカーのエリート育成校「JFAアカデミー福島」が拠点として活動していた。宿泊と食事、そして練習環境は御殿場市が無償で提供する。

授業は能登高校の教室とオンラインでつないでリモートで行われ、他のクラスメートと同じペースで学習できる。

恐怖の体験 あきらめかけた部活動

明るくふるまう生徒たちだが、自宅などが被害を受けた生徒も少なくない。
元日の能登半島地震で、石川県では災害関連死を含め241人が死亡、けが人は1429人、建物被害は9万6000棟余りだ(2024年3月時点)。

地震発生時に男子主将の鳥竹柊生(とうい)さんは家族と一緒に地元・穴水町の神社にいた。1回目の揺れはそれほどでもなかったが、2回目に今までにないような揺れを感じ、鳥居が崩れたり近くの建物が崩れたりしたそうだ。

橋が崩れて自宅に戻れなくなり、神社が海から近かったことから家族や地域の人と一緒に高台に逃れ、3日間 車中泊の生活を強いられた。鳥竹主将は「地震が何度も来たりして(車中泊の)3日間は眠れなかった」と振り返る。

女子主将の竹口陽菜(はるな)さんは高校のある能登町の出身だ。全壊している家がほとんどで電柱も倒れ、自宅も亀裂が入り雨漏りしたそうで、「今までとは違う光景」だったそうだ。
竹口さんは「地震があった時はもうこのまま引退かなと思ったけど、先生方がいろんな計画を立ててくださって、部活とかもできる環境を作ってくださったので」と、振り返る。

監督たちの尽力で全国切符

監督たちの尽力により三重県の高校で合宿ができるようになり、2024年2月の北信越大会は男女ともに準優勝して、全国への切符を手にした。

平武 監督:
高校生の中で何回もチャレンジできるチャンスではないので、ぜひ出場させてあげたいという思いだった。北信越大会の時は「みんなでプレーできる喜びをかみしめながら一戦一戦 戦いましょう」と声を掛けました

能登高校はソフトテニスの強豪校だ。2013年の全国高校総体では、男子ペアが準優勝、男子団体が3位になった。地元開催の2021年の全国高校総体でも、男子ペアが3位になっている。

中学生に指導も
中学生に指導も

御殿場市での合宿中は、地元の中学生と交流会をして、サーブやレシーブのコツなどを指導した。普段の練習とは違った雰囲気の中で改めてテニスの楽しさを感じたようだ。
鳥竹主将は「みんな、緊張感を一回リフレッシュさせることができた。教える立場になって練習するのは楽しいです」と話し、交流会は自分たちにとっても思わぬメリットがあったようだ。

故郷と支えてくれた人たちのために

全国大会にむけた壮行会(2024年3月)
全国大会にむけた壮行会(2024年3月)

放課後は練習漬けの毎日、めざすのは日本一だ。それは自分のためだけではない。
全国大会は3月28日から30日まで名古屋市で開かれ、男女とも地区予選を勝ち抜いた36校が出場する。全国大会を前に24日、壮行会が開かれた。
勝又正美市長が「みなさんの姿はふるさとの希望の光になる」と激励すると、選手たちも大会への意気込みを語った。

能登高校ソフトテニス部女子・竹口陽菜主将:
仲間と共にテニスができる喜びを忘れず、自分たちのテニスができるように全力で戦ってきます

能登高校ソフトテニス部男子・鳥竹柊生主将:
今まで支えてくれた人たちに感謝をし、1回戦を勝ち優勝目指して頑張ります

石川県の被災地では2024年3月時点で8000人余りが1~2次避難所で暮らしている。仮設住宅に住む被災者も多い。
「今も避難所にいる人たちや家がなくなって仮設住宅に入っている人たちに、少しでも元気を与えられるようにしたい」
故郷への思い、そして御殿場市など受け入れてくれた人たちへの感謝を胸に、能登高校ソフトテニス部は日本一をめざす。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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