JR博多駅と鹿児島中央駅を結ぶ九州新幹線が、2026年3月12日、全線開業から15年を迎えた。この日に向けて大掛かりな記念プロジェクトを進めてきたJR九州。準備に追われる舞台裏を取材した。
2011年3月12日に全線開業した九州新幹線。博多から鹿児島中央までの所要時間は、最速1時間19分(全線開業当時)と50分以上短縮された。

九州の南北が一気に近くなり、通勤・通学圏が広がったほか、山陽新幹線との直通運転も実現し、九州経済を盛り上げてきた。

1万人が新幹線に手を振った感動
九州新幹線について、利用者に話を聞くと、「『もう15年も経ったんだ』というのもあるし、皆んなが新幹線に向かって手を振っているCM、今見ても涙が出てくる」と開業当時を振り返る。

全線開業を祝おうと、鹿児島から博多までみんなで新幹線に手を振った『九州縦断ウェーブ』。

新幹線から沿線の1万人以上を撮影して作られたこのCMは、国の内外で話題となった。

当時、この企画を担当していたのが、JR九州の古宮洋二社長。「15年前、ちょうど私、営業部長をしていまして、運転席からずっと見ていました。運転士に指示していました。『あそこの左側にいるはずだから速度落とせ』と。

中の人は、私も含めて号泣ですよ」と懐かしそうに当時を振り返る。
全線開業前日の『東日本大震災』
しかし、記念すべき全線開業の前日、2011年3月11日は、東日本大震災が発生し、巨大地震と津波が大勢の人命や街を飲み込み、日本中が深い悲しみに包まれていた。

九州を1つにし感動を巻き起こしたCMは、わずか3日で放送を自粛。幻のCMとなってしまった。

「東日本大震災という我々の年代では経験したことのない災害が起きた中での開業だったので、開業イベントも全部中止にしたという中から、この15年間、地元の方に愛していただいて利用のお客様もどんどん増えて、一定の成果は出たと思っている」と古宮社長は、胸を張る。

あの日、できなかったことへの思い。そして、15年の感謝を込めてJR九州は記念プロジェクト、『つばめの大冒険』を企画した。古宮社長は、「最初、開業CMもそうだったが、みんなに参加してもらう形にしたくて。15年間の思いを込める、私達だけじゃなく沿線の方々、お客様も含めて皆んなの思いを込めて欲しい」とプロジェクトへの思いを語る。

そんな社長の思いを託されたのが、JR九州営業課の小川浩大さんと秋山健斗さんの2人。

彼らが打ち出したのは、新幹線『つばめ』がレールではなく、海や陸を渡り沿線地域に立ち寄りながら九州を縦断して博多駅にやってくるというプロジェクトだ。

小川さんは、「博多駅に続く道を『つばめ』が走って来る。前代未聞だと思う」と語り、秋山さんも「『つばめ』が自由に羽ばたく、線路から外れることによって、普段新幹線を見ない、乗らないお客様にもたくさん会いに行けるんじゃないかと思って」とプロジェクトへの思いを語る。

『つばめ』を通して元気と感謝を届けられるよう、沿線地域では、様々なイベントも計画されている。

そして、各地を巡った新幹線『つばめ』がゴールするのは、ホームではなく博多駅前広場だ。
熊本地震で被災した『つばめ』再び
今回のプロジェクトで各地を巡るのは、10年前の熊本地震で被災した新幹線『つばめ』の先頭車両。

あれから人の目に触れることもなく熊本の車両所に置かれたままだった『つばめ』に再び命が吹き込まれる。

2025年11月、車体は運搬に耐えられるのか?再びきれいな姿に戻すことができるのか?綿密な安全確認が行われた。車両整備を指揮するのは、新幹線部運輸課の古江聡幸さんだ。

実は、古江さんは、かつてこの『つばめ』を運転したことがあると話す。当時、JR九州では、九州新幹線の全線開業に向け、3年かけて約70人の運転士を育成した。そのうちの1人が古江さんだった。

「これを運転したこともあるんですけど、地震がきっかけで廃車になって。そこからお客様の目に触れていなかったので、最後、節目の年にお客様の前に出られるのは良かった」。
多忙な業務の合間をぬって、プロジェクトで再び日の目を見る車体の研磨や塗装などを急ピッチで進める。

社内も一致協力 アイデア続々
同じ頃、本社の企画会議では、営業課から様々なアイデアが提案されていた。『新幹線の車内も公開できないか―』。

想定していなかった新たな要望。車体の公開まで残り2週間を切った中、古江さんは、車内の確認に駆けつけた。

「やっぱり電気をつけて見ると、なかなか凄い」。同僚に『残り何日かで直る?これ結構大変よね?』と口にするも、なるべくきれいにして送り出そうと心を決めた。更に、仲間たちの協力もありがたかった。

「営業課が車内を見せたいと言うから、熊本総合車両所のみなさんもプロジェクトが始まってから『やろう!』と動いてくれる。『きれいにして送り出そう』とやってくれてありがたい」と古江さんも勇気づけられた。

そして、3月12日午前―。レールの上を走っていた頃の姿に生まれ変わった『つばめ』が、報道陣に公開された。車両をクレーンで吊り上げてトレーラーに接続。

熊本港まで陸送する準備が整った。

「車両部の皆さんが開業記念日に間に合わせてくれたことが、凄く嬉しい。震災やコロナなど、いろんなことを乗り越えて今、15周年を迎えられている感謝の気持ちを伝えていきたい」とプロジェクトを引っ張って来た『JR九州営業課』の小川浩大さんは語る。

新幹線が道路や海上を移動し、沿線地域の人達に会いに九州を縦断するという今回の記念プロジェクト。復活した『つばめ』は、3月29日に熊本の車両所を出発する。
(テレビ西日本)
