調理設備を一日単位で借りて店を開業する、「シェアキッチン」という新しい飲食店の形が注目されている。自分の店を開くという夢に気軽に挑戦できるだけでなく、変わるニーズを捉えることで、新たなビジネスチャンスを生み出している。

新たな選択 シェアキッチン

宮城県庁の北側に2023年の年末、オープンした業務用シェアキッチン。店内には、それぞれ特徴の異なる5つの業務用キッチンが並ぶ。

業務用シェアキッチン「ミチッキン」
業務用シェアキッチン「ミチッキン」
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飲食店の営業許可や菓子製造許可は取得済み。価格設定は3時間6000円からで、一日単位で借りられる。

キッチンは一日単位でレンタル可能
キッチンは一日単位でレンタル可能

この日は、5つのキッチンのうち、3つが使われていた。施設には調理場所だけでなく販売できるカウンターも付いている。

カウンターでは販売もできる
カウンターでは販売もできる

こちらで販売しているのは「とんかつ弁当」。

「2023年3月に定年退職して、小さい頃からとんかつ屋に憧れがあって、家族の許しをもらって、始めさせていただいた」
(シェアキッチンを利用する とんかつ店の店主)

初めての飲食業への挑戦。いずれは自分の店で揚げたてのとんかつを提供することが夢だが、最初の一歩としてシェアキッチンはとても使いやすかったという。

「家賃から機材関係。ほぼメインの機材が一式そろっているので、セットで借りられて安心してできる」
(シェアキッチンを利用する とんかつ店の店主)

こちらでは天ぷら弁当を販売。しかし、利用の目的は弁当の販売だけではないようで。

「実は、2024年の4月に居酒屋をやろうと思っておりまして、目的は向こうに行ってからのメニューの試作。この1カ月半で煮詰めていきたいと思う」
(シェアキッチンを利用する弁当店の店主)

借り手が自由に使うことができるシェアキッチン。さまざまな人が集まっていた。

シェアキッチンの利用者は「焼き芋やスイーツを作ってみたいという夢があった。新しい機械があり使いやすいし、どこまでできるか、自分も見極められると思うので、こういう施設を借りることはとても有意義」と話す。

このシェアキッチンを手掛けたのは、県内に本社を置く解凍機メーカー。コロナ禍で、多くの企業が経営不振に陥った飲食業界をみて、新規事業として取り組んだ。

「飲食店がコロナウイルスにより閉業してしまったり、新しいお店を出すことがすごく難しくなってきてしまった。初期費用をかけずに飲食店を出して、自分のブランドや調理機材の使い勝手を知ってもらい、自分のお店を出すときに役立ててもらえれば」
(フジ技研工業 櫻井七海さん)

飲食店の開業を目指す人には、気軽に挑戦できる場となっているシェアキッチン。

一方、業務用の調理機器を使い仕上げた味は本格的で、商品を買い求めるお客さんにも好評。

飲食店の利用客は「思ったよりも分厚くておいしかったです。この辺り、事務所も、ランチを食べる人も多い。新しいものが食べられることはいい」「他の店舗もあったので、また来てみようかなと思った」と喜ぶ。

買い求めるお客さん
買い求めるお客さん

初期投資のリスク回避

シェアキッチンの設備費は、1ブースあたり約500万円から1000万円。飲食店開業時に、同規模の設備を揃えようとすれば、初期投資のリスクは大きなものになる。

経営学の専門家は、シェアキッチンという取り組みは個人事業者も多い飲食店の業態に合っていると見ている。

「飲食店は内装や設備にお金をかけたくなってしまう。でも入ってくるお金は追いつかず、経営不振に陥るケースが多い。初期投資を抑えて経営できる点は、適切なアイデアと言えます」
(東北学院大学地域総合学部 和田正春教授)

また、競争相手が多く、流行の移り変わりが早いのも飲食業の特徴。時代に合わせて変化していくためには、「所有しない」という選択は競争力の強化にもつながると考えられている。

「飲食店は基本的に飽和状態。その中、東京からもチェーン店で新しいお店が来る。地域のお店もある中で、新しいものは必ず求められていく。都市になるほど、はやりものの影響が大きくなるので、キッチンを抱えてというより、借りた方がいいというニーズは出てくる。そういう点では可能性は面白いところ」
(東北学院大学地域総合学部 和田正春教授)

飲食業への挑戦の可能性を広げるシェアキッチンという選択肢。「シェア」だからこそ生み出せる新たな価値があるかもしれない。

(仙台放送)

仙台放送
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