東日本大震災で、当時6歳の娘を亡くした母親は、葛藤もある中で語り部の活動を続けている。つらい記憶と向き合い、伝え続ける理由。そこには母親としての、強い覚悟があった。

わずか6歳で 卒園式も迎えられず...

佐藤美香さん
佐藤美香さん
この記事の画像(13枚)

 石巻市の佐藤美香さん。東日本大震災で長女・愛梨さんを亡くした。大きな地震の後、高台にあった幼稚園から、園のバスに乗せられた愛梨さん。園児を送り届けるため、バスは海側へと走り、津波とその後に起きた火災に巻き込まれた

長女・愛梨さん
長女・愛梨さん

 当時わずか6歳。楽しみにしていた幼稚園の卒園式を、迎えることはできなかった。

 佐藤さんは、「生きていたら今年20歳になる。振袖や成人式の前撮りなど、今年いろいろやっていたのだろうと考える。前もよく言っていたが、『式』というものを、重ねてあげさせたかった。うちの子は入園式で次、お葬式だった。卒園式すらもこの子自体は出られなかった」と、時折言葉を詰まらせながら話した。

娘が残した教訓 守らなければならない命

 大人が守らなければならなかった命。佐藤さんはこの13年、愛梨さんが遺した教訓を伝えようと、さまざまな活動に取り組んできた。

 2021年には、防災士の資格を持つ郵便局長などと連携し、保育園児や幼稚園児など、未就学児の避難訓練を考える取り組みに参加。

 2023年11月には、地域の防災に関わる人材を育成する研修に協力するなど、防災の輪を広げてきた。

研修で講話をする佐藤さん
研修で講話をする佐藤さん

佐藤美香さん:
「ただいま!」のこの言葉をいまだに聞けていません。震災前は当たり前だったこの言葉。私は娘がこのようなことになり、こんなにも幸せな言葉だったということを気づきました」

 いざというときに、人は訓練以上のことはなかなかできない。「二度と同じ思いはしてほしくない」という考えから、佐藤さんは普段から防災について考えておく大切さを訴え続けている。

 一方で、震災を語り続けることは簡単なことではなかったという。講演の途中、語り部の経験を話していた佐藤さんが、涙で声を詰まらせた。

 「歩いて語り部をしている時や、ふと案内している時に、突然言葉の刃が襲って来る時もあるります。そういう時は…やはり苦しいですし、やっていいのかなと思ったりもする」と、佐藤さんはその時のことを振り返る。

心無い言葉 葛藤を抱えながらも

 語り部をしていると、津波で被災した場所でも「まだやっているの?」「いつまで言っているの?」と時折、心無い言葉が投げかけられるという。

 葛藤を抱えながらも、佐藤さんは「やっぱり伝え続けていかないと。また同じようなことを繰り返してほしくない、という一心からやっている」と、語ることをやめなかった。

娘に語りかけた言葉 奪われた日常...

 1月、佐藤さんは多賀城市にある保育園を訪れて、紙芝居の読み聞かせを行った。題材は東日本大震災に関するもの。当時の様子が子供たちの目線で分かりやすく描かれた紙芝居は、佐藤さんの思いに触れた大学生たちが作ってくれたものだ。

 丁寧に読み聞かせた後、佐藤さんは子供たちにこう語りかけた。

佐藤美香さん:
「東日本大震災という言葉は、ひょっとしたら聞いた事あるかな、その時亡くなったお友達がたくさんいました。なので皆さんはたくさん、たくさん楽しい思いをしてたくさんいっぱいお友達、先生たちとたくさん遊んで元気に暮らしていってもらいたいなと思います」

 これは3月11日の朝、幼稚園に向かう愛梨さんにもかけた言葉。震災で奪われた日常だ。

必死に走り続けた13年 変わらぬ思いを胸に

 震災から13年。

 佐藤さんは「すごく悩んだりすることもあったし、それでも必死に走り続けてきた13年間でもあります。娘たちのように苦しい思いをしながら亡くなる子供たちが、やっぱり出てほしくない。自分が伝えられる間は頑張って伝えられればなというふうには思っています」と、力を込めた。

 変わらぬ思いを胸に、佐藤さんはこれからも語り続ける。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。