東日本大震災の発生から13年。被災地の現状を知ってもらうため、仙台市の大学生が、誰でも楽しめるスマートフォンのゲームを制作した。舞台は被災した福島県の12市町村。ゲームには、自らの目で見て感じた思いが込められている。

よそ者の大学生が作ったゲーム

中央にいるのが、主人公の「カクゾウ」
中央にいるのが、主人公の「カクゾウ」
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 主人公「カクゾウ」が任務を達成しながら、土地を開拓していくロールプレイングゲーム。その名も「12RPG」。

「開拓系RPGと呼んでいるんですけど、近いので言ったら『どうぶつの森』ですかね」と話すのは、ゲームを制作した東北大学工学部2年生の宮崎翔太郎さん(20)だ。

東北大学工学部・宮崎翔太郎さん
東北大学工学部・宮崎翔太郎さん

 山口県出身の宮崎さんは、「やっぱり“よそのこと”という感じが強かったです。ニュースやテレビを通してしか、情報を得ることができないような感じなので。本当、親近感が湧かないような感じでしたね」と話し、大学に入学するまで、東日本大震災を身近に感じたことはなかったという。

「何かできないか」浪江町来訪が契機に

 そんな宮崎さんに転機が訪れたのは2年前の夏。友人に誘われたことがきっかけで、初めて福島県浪江町を訪れた。

丈六公園
丈六公園

 宮崎さんは当時のことを「初めて来た時はやっぱり人がいないというのは感じましたね。建物は意外と多くあるんですけど、普通の田舎で人がいないのとはちょっと違って、奇妙な感じを覚えたというのはありますね」と振り返る。

 13年前、東京電力福島第一原発の事故により、町内全域に避難指示が出された浪江町。2年後には居住制限区域や帰還困難区域などが指定され、町全域の2万1000人を超える町民が避難対象となった。現在も町内の8割が、帰還困難区域となっていて、避難指示が続いている。

震災後の浪江町(提供:浪江町)
震災後の浪江町(提供:浪江町)

 震災の爪痕を目の当たりにしたほか、現地の人からも話を聞いた宮崎さん。「自分に何かできないか」と考え、ゲーム制作をすることに。

目にした風景 被災地の今の姿を...

請戸漁港の壁画
請戸漁港の壁画

 もう一つ決断に至った理由が。それは浪江町の請戸漁港、近くの防潮堤に描かれた壁画を見たことだ。その壁画は地元の小中学生や東北工科芸術大学の学生が2021年、漁港の復旧工事完了に合わせて描いたもの。

 中には、宮崎さんの地元山口の特産物でもあるフグも描いてあった。町を訪問して目にした風景の数々。宮崎さんは、被災地の今の姿を伝えたいと思ったといいう。

ゼロからのスタート 福島の12市町村を舞台に

 そのようにして始まったゲーム制作。だが、宮崎さんは最初からゲーム開発の知識があったわけではなかった。スクールに通ってプログラミングを習得。県内外の大学生などを誘って9人で分担し、2023年2月から制作を続けた。「12RPG」は一年が経った2月中旬にようやく完成。

 舞台は、震災で被災した福島県の12市町村。震災直後の描写は無く、復興した町の様子をメインに取り上げている。

 また、ゲームには各自治体がシンボルとする花や木、鳥なども登場する。例えば浪江町だと、それぞれ町のシンボルの花・木・鳥の「コスモス」・「松」・「カモメ」を取り入れた。

 そして、主人公「カクゾウ」がパワーアップするため食べる花には、宮崎さんが福島で藍染や藍の種まきを体験した思い出から「藍」の花を選んだ。

上・道の駅「なみえ」、下・ゲーム内の道の駅「なみえ」
上・道の駅「なみえ」、下・ゲーム内の道の駅「なみえ」

 この他にも、宮崎さんのお気に入りの絵がある請戸漁港に、道の駅「なみえ」、町を一望できる丈六公園も登場。どれも全国へ発信したい、被災地の今の風景だ。

街に思いを馳せる時間に...届けたい人は

 「復興」と「未来への希望」が散りばめられたこのゲーム。一番届けたい人がいる。

 宮崎さんは「被災して違う街に行かれた方々がいて、そういった人が少しでもこのゲームを見て『あぁ昔こんな街だったな』と思い出して、『ちょっとでも帰ってみようかな』という気持ちが芽生えたらうれしい」と笑顔で話した。

(仙台放送)

仙台放送
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